番外編「言葉でなくても」


あれは、いつの事だっただろうか。

遠い昔のような、つい最近の出来事のような……

でも、少なくともこれだけは言える。

まだ、私達には守れる力がある……

番外編「言葉でなくても」

その日、VESは火災に見舞われたビルの消火活動、および人々の救助活動の援助を行っていた。
「オーガディフェンダー、これから消火活動を開始します!」
ビークル形態のオーガディフェンダーが、はしごの先に取り付けられたホースから消化剤を噴射する。
すぐに鎮火するというわけではないが、火の勢いが少しずつ弱まってきている。
「こちらオーガファイター! 壁をぶち空けての救助も何とか順調だぜ!」
「オーガスピーダー、負傷した人々の搬送も滞りなく進んでいる」
それぞれがそれぞれの役割をこなしながら、VESの司令室に絶えず報告を入れている。

オーガチームは、VESの中では救助にも適している。それぞれのビークルによる迅速な行動がそれを証明している。
もちろん、勝ことヴィクトリーや神威も救助は行っているのだが、オーガチームと違って、救助はあくまで補助だ。
ヴィクトリージェットは戦闘にも救助にも使用可能な、汎用的なシステムを持つ。しかし、メインはあくまで対巨大生物及び戦闘機兵との戦闘であり、救助活動に対してはどうしてもオーガチームに譲る事になる。
神威は完全に戦闘を目的とした設計が行われている。救助を行うには別途パーツを必要とし、オーガチームやヴィクトリージェットよりも効率が悪い。
だから、救助ではオーガチームが先頭に立っているのだ。
そして、オーガチームにはそれぞれ役割分担がなされている。オーガディフェンダーであれば主に消火消防、オーガファイターはそのドリルを使用しての瓦礫の掘削、オーガスピーダーは救助した人々の搬送といったように。
もっとも、かといって戦闘では劣っているかというと決してそうではない。それはオーガチームの合体した姿、オーガガーディアンが物語っている。
VESの中では、オーガチームは一番多方面に活躍できる存在、そう言ってもいいかもしれない。

「っ!?」
オーガチームが救助を続けていたその時であった。
突如ビルの壁が崩れ瓦礫となって避難する人達の上に降りかかってくる。
『危ない!!』
オーガチームの3人は一斉に飛び出し、その姿を人型へと変形させて行動に移った。
「スピード、シューートォ!!」
まずオーガスピーダーがエネルギー弾で瓦礫を砕き、
「ファイティングドリルッ!!」
続けてオーガファイターがドリルでさらに粉々にし、
「ディフェンストンファー!!」
オーガディフェンダーがはしごと自分の体を使って、瓦礫が人の上に落ちてこないように防ぐ。
「……大丈夫、ですか?」
3人の素早い行動により、人々はほとんど怪我をせずにすんだ。
その事を確認すると、3人は同時に安堵し、笑顔になった。

やがて救助活動も終わり、VESのメンバーは片づけを終えて帰ろうとしていた。
「よし、これで全部ですね?」
「ああ」
「それじゃ、帰ると……ん?」
その時、オーガファイターは右足の辺りを誰かが叩いているのを感じ、振り向いた。
「………………」
そこには、一人の少女が立っており、オーガファイター、及びオーガチームをじっと見つめていた。
「どうした、ファイター」
「いや、また避難所から子供が戻ってきたみたいでよ……」
そう言いながら、オーガファイターは女の子を指差す。
「……確かに、また、ですね……」
オーガディフェンダーもその姿を確認すると、あきれたような表情になった。
「………………?」
その少女は3人のやり取りを見て不思議そうな顔をしている。
「なあ、一応災害は収まったっていっても、まだここには来ちゃいけないんだ。分かるか?」
少女はオーガファイターの言っている事が分からないのか、不思議そうな顔をしたまま戻ろうとする気配は全くない。
かと思ったら、今度は両手を動かして何やらジェスチャーのような行動をとった。
「ん? 何やってんだ?」
「……もしかして、手話じゃないか?」
「ああ、なるほど。確かに手話ですね」
オーガスピーダーの言葉にオーガディフェンダーは納得したらしく、手をポンと叩く。
「手話を使っている、という事は、言葉を自由に発する事が出来ないか、耳が不自由なのでしょう」
「さっきまでの言動を見ていると、耳が聞こえないと俺は思う」
「妥当でしょうね」
「……で、この子供は何て言ってんだ?」
「それは……」
「えっと……」
オーガファイターの言葉に、二人は同時に固まった。
少女が使っているのが手話だと分かっても、三人は手話を読み解く事は出来ないのである。様々な知識があらかじめAIにインプットされているといっても、さすがに手話はインプットされてなかったようである。
「せめて紙か何かで伝えてくれればいいのだが……」
そう言ってちらっと少女を見るオーガスピーダー。
「♪」
「ん?」
すると、少女は三人の考えを察したのか、背負っていたリュックからスケッチブックとペンを取り出し、なにやら文字を書き始めた。
「持ってんだったら、最初から使ってくれよな」
「そんな言い方はないでしょう、ファイター」
そうこうしているうちに少女は文字を書き終えたらしく、スケッチブックをオーガチームに向かって思い切り突き出した。
『さっきは助けてくれてありがとう』
スケッチブックには、そう書かれていた。
「ありがとう、か……へへ、別に礼はいいって」
オーガファイターはちょっと照れくさそうに鼻の頭をかきながら答えた。
少女もオーガファイターが照れくさそうにしているのを見て、にっこりと笑顔を見せていた。

それからしばらく、オーガチームと少女はスケッチブックを使って交流した(ただ、オーガチームがスケッチブックで意思を伝えるにはいささか無理があり、しかたなくジェスチャーで必死になって伝えていた)。
彼女の名前は雪宮 朱乃(ゆきみや あけの)といい、もうすぐ16歳になるそうだ。今回、診療所で検査を受けていた所に火災に見舞われてしまったという。
そして、そんな危機から助けてくれたオーガチームにどうしてもお礼が言いたくて、この場に戻ってきたという。

「ですが、いずれにせよここには戻ってきてはいけないのですよ?」
『ごめんなさい』
オーガディフェンダーの必死なジェスチャーと表情からうまく読み取ったらしく、朱乃が申し訳なさそうな顔をしてそう書いた。
「別にお前が謝る必要はねーよ」
「そうだな。ディフェンダーの頭が固いだけだからな」
「固いとは何ですか、固いとは!」
オーガファイターとオーガスピーダーの言葉に思わず言葉を少し荒げるオーガディフェンダー。
「固いモノを固いって言って何がおかしいんだ?」
「もっと言い方があるでしょう。規律を守っているとか……」
「そう言うのを「頭が固い」と言う……」
「スピーダー……!」
オーガディフェンダーは言葉を続けて反論しようとしたが、ふと朱乃の方に目を向けたら、その気が失せてしまった。
「アハハ、ハハハハ……!」
朱乃が、ぎこちない声を出しながら笑っていたのだ。
「……はぁ、もういいですよ」
オーガディフェンダーはため息をついた後、苦笑交じりの笑顔を朱乃に見せた。

それから。
オーガチームはパトロールのついでに、朱乃と会うようになった。聞けば、神威もまたとある少女とよく会っているというので、自分達もこうした事を行っても問題はないだろうと思っている。
オーガチームと朱乃は次第に親密になっていった。朱乃は今日一日あった事や学校での出来事を話し、オーガチームはそれを聞いて感想を返していた。
もちろん、そのたびに朱乃は言いたい事をスケッチブックに書き、オーガチームは必死にジェスチャーで意思を伝えた。
その光景は神威ともども、ちまたのちょっとした話題になり、ロボットと人間の交流の可能性を広めたのだが、それは別の話である。

とある日の夕方。VES機動部隊待機室にて。
「手話の本?」
勝は帰り支度をしながら、オーガディフェンダーが言った言葉を繰り返した。
「そうです。いつでもいいですので、探して持ってきてくれませんか?」
「別に俺は構わないが……唐突に一体なんだ?」
勝が不思議そうな表情をしながら聞き返す。
「いえ、少し……」
「ちょっと、手話が必要になった」
「?」
オーガスピーダーの言葉に、ますます分からなくなる勝。
「まあ、いいけどな……図書館で探してみて、見つかったら持ってくるよ」
「頼みます」
勝は「任せろ」と言わんばかりに軽く手を振ると、待機室から出て行った。
「これで、朱乃とより理解のある会話が出来ます」
「ま、最初は簡単なのからいこうぜ」
「そうだな、何事も基本から……って、ファイター、お前珍しくまともな事を言うんだな」
「珍しくって言うなぁ!!」
オーガファイターがそう叫ぶのとほぼ同時に、オーガスピーダーとオーガディフェンダーは笑い出した。

数日後。
「………………♪」
朱乃は今日もオーガチームに会うために、嬉しそうにいつもの場所へと向かっていた。
「おい、ちょうどいいカモが来たぜ」
「ん~、顔も体も並って所だが……まあ、いいんじゃねぇの?」
そんな朱乃を遠方から眺める男が三人。その目つきは、決して穏やかなものではなく、獣のような目つきだった。
「よし、いつもの手順で行くぞ」
「りょーかい」
男達はニヤッと笑うと、そのうちの一人がゆっくりと朱乃の背後に近づいていく。
「…………っ!?」
しかし、朱乃は男が近づいてくる途中で気配に気づき、慌ててその場から逃げ出した。
「逃がすかっ!」
男も、朱乃を逃がすまいとして同時に走り出す。
朱乃は必死になって逃げるが、その差はだんだんと縮められ、ついには追いつかれて腕をつかまれる。
「っ……!」
「おっと」
朱乃が何かをしようとするよりも早く、男はあらかじめ用意しておいたハンカチを朱乃の口元に当てた。
抵抗する間もなく、朱乃は眠りに落ちてしまう。ハンカチには、薬がしみこませてあったらしい。
「へへ……」
難なく自分達の作戦が成功した男達はニヤッと笑みを浮かべ、朱乃をどこかへと連れ去っていった。

ほどなくして、オーガチームが先程まで朱乃のいた場所にやってきた。
そこには、朱乃がいつも持っていたカバンが無造作に落ちていた。
「………………」
「………………」
「朱、乃……!」
その状況だけで、少なくとも異常があったと判断できる。
オーガディフェンダーは朱乃のカバンを拾って手に取ると、すぐに顔を上げてきっと前をにらんだ。まだ見ぬ憎むべき相手に向かって。

ここは、海上区の南側にある南海上港。そこにある倉庫の内、事情により使われていない倉庫の中に、男達と縛られている朱乃がいた。
「さて……それじゃ、はじめるとするか」
「ん~~~っ!!」
朱乃は必死になってもがくが、両手と両足を縛られている上に猿ぐつわまでされ、まったくどうする事も出来ない。
男達は相変わらずニヤニヤとしながら朱乃をなめるように見ている。
そして男はゆっくりと近づいて、今まさに朱乃に襲い掛かろうとした、
「おとなしくしてろ……」
「っ!?」
その時であった。
「お前らあぁぁぁぁぁっ!!」
突然倉庫の入り口が破壊され、三体のロボットが入り込んできた。オーガチームだ。
「な、何だ!?」
「あなた達は今、罪を犯そうとしています!」
「俺達の友達である朱乃を襲おうとしたのが最大の間違いだ……!」
オーガチームはそれぞれの武器を構えながら、男をにらんでいる。
「なんでここが……!?」
「我々の情報網を甘く見ないでください! あなた達の動向ぐらい、すぐに分かりますよ!」
「くっ……!」
男達はオーガチームの迫力に後ずさりするが、すぐに朱乃を捕まえると首を絞めた状態でオーガチームの前に突き出した。
「ぁっ……!」
「こ、これ以上近づくなよ! 近づくと、こいつの命がないぞ!」
「………………」
オーガチームは沈黙する。
「へへ……そう、それで……」
「ぐあっ!?」
だが、朱乃の首を絞めていた男は突然何者かに殴られ、倒れてしまう。
「仲間が手助けを求めたんだ。行かないわけにはいかない」
「勝隊長!」
男を殴ったのは、背後から気配を殺して接近した勝だった。
「怪我はないか?」

「悪いけど、ここまでにしてもらうぞ」
「ぐ……こんな所で捕まってたまるかよおっ!!」
「っ!?」
男が叫んだ瞬間、倉庫の奥から突然爆音と共にオーガチームと同じぐらいの大きさのロボットが現れた。
「こんな事もあろうかと、用意しておいてよかったぜ!」
男はそういってロボットに乗り込み、オーガチームに向かって腰に携えていたマシンガンを構えさせた。
「オーガチーム! この子は俺が安全な所に連れていく! お前達はあのロボットを!」
「オッケー!」
「了解」
「了解しました!」
オーガチームは勝の指示を仰ぎ、それぞれの武器を取り出してロボットに向かって構えた。

「おらおらおらおらおらあっ!!」
男はマシンガンを乱れ打ちさせていた。オーガチームに当たる事は当たるが、外れる事もかなり多い。
「戦闘のプロ、というわけじゃなさそうだな」
「ロボットの操縦自体も慣れていないのかもしれませんね」
「んじゃ、さっさと済ませるか!」
「もちろんです! パターン1、スタート!!」
オーガディフェンダーの掛け声と共に、オーガファイターとオーガスピーダーは素早くロボットの後ろに回りこんだ。
「んなっ!?」
こうなってしまっては、どこに向かって撃てばいいのか分からない。男はどうすればいいのか戸惑ってしまい、動きが止まってしまう。
「スピーダー!」
「受けろ! スピードッ、シューートォ!!」
オーガスピーダーは銃から無数のエネルギー弾を高速で放ち、ロボットを威嚇すると共に粉塵を巻き上げた。
ガガガガガァッ!!
「うおぉっ!? ちぃっ!」
男は一瞬ひるむが、すぐに立ち直って狙ってきたオーガスピーダーを撃とうとする。
「なっ……!?」
だが、辺りが煙に覆われてしまっており、オーガスピーダーはおろか、他の二人さえも視認できない。
「はああぁぁぁぁぁっ!!」
その間に続けてオーガディフェンダーが視界をさえぎられている中を走り、
「ディフェンス・トンファー!!」
「なあっ!?」
消防車のはしごの形をした武器でロボットの頭部を思い切り突く。ロボットはそれによってバランスを崩し、派手な音を立てながら倒れた。
これは、オーガチームの持つ、人が操縦するロボット、特に乗り慣れていない者を相手にした場合の作戦である。
現在出回っているロボットは、大抵が視認カメラの他に、熱センサーや超音波の反射による感知システムなどを兼ね備えている。しかし、その機能をうまく使用できるのは、ロボットの操縦に慣れている人物に限られる。操縦に慣れていないと、操縦者はどうしても視認しようとしてしまう。
この作戦は、その慣れていない操縦者に有効な、視界を奪う事によってわずかでも隙を作るというものだ。実際に、この作戦は成功してオーガディフェンダーが有効な一撃を与えている。
「決めてください、ファイター!!」
「おうよ!」
そして、オーガファイターが自分のドリル状の武器を構えながら、その倒れたロボットに向かって大きくジャンプする。
「行くぜぇっ!!」
オーガファイターはそのままロボットに向けてドリルを突き出し、
「トライッ、オーガ、ブレイィィィィィクッ!!!」
そのドリルでロボットの頭部を思い切り貫いた!
「わあああぁぁぁぁっ!!?」
中に乗っていた男はその絶叫し、そのまま気絶してしまう。
「例え鬼となっても、人々は守り抜く……!」

『また、たすけてくれてありがとう』
戦闘が終わった後、朱乃はオーガチームにスケッチブックにお礼の言葉を書いた。
「私達は、当然の事をしただけですよ」
「いつもそれだよな、ディフェンダーは」
「なら、それ以外に何か適当な言葉があるんですか?」
「うっ……」
オーガファイターはオーガディフェンダーの言葉にツッコミを入れるが、逆に言葉を返されてしまい、答えに窮してしまう。
「しかし、今回は守れたな……」
「……そうですね」
オーガスピーダーの言葉で、オーガチームは以前の出来事を思い返した。
守るために必死だったのに、結局守る事が出来ずに失ってしまった、大切な人の事を。
あの時は守りきれなかったが、今は違う。
状況が違うとはいえ、大切な人を守る事が出来た。
「……朱乃」
その事を思い返しながら、オーガディフェンダーは朱乃の方に振り向くと、両手を動かして朱乃に手話という言葉を使ってメッセージを伝えた。
『私達は、あなたを、守ります』
「………………!」
オーガディフェンダーの言葉を受け止めて、朱乃は驚き、そして微笑んだ。

The End

初回公開日:2005年1月1日

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