第20話「眠れる心」


―2011年3月15日火曜日午後2時46分―

ここは、かつて海上区と呼ばれていた、東京湾に浮かぶ島。その島にある小高い丘に、勝と粋の二人は来ていた。
丘から見下ろすその風景は、かつての海上区の姿はどこにもない。
全ての建物は草木に覆われ、アスファルトは下の地面から生えてきた木に崩されている。まるで、自然が人工物の圧力から開放されたみたいに。

「……すっかり、変わっちゃったね」

「そうだな……」

そんな風景を、二人はさびしそうに、それでもどこか嬉しそうに見つめている。

「……これで、よかったよな」

「うん……きっと、これでよかったと、私は思うよ。困ったのは最初だけだったし、それにこれでみんなの気持ちが少し変わったんだから」

「そう、だよな……」

勝は粋に微笑み、もう一度海上区の今の光景を眺めた。
数々の一軒家やアパート、幾つものビルが木々に覆われて森と化し、そしてその木々は春の風に揺らめいて心地よい香りを送ってくる。
かつての人が住みやすい町並みも決して悪くはなかったが、今のこの自然が育っている風景も穏やかな気持ちになれて心地よい。

(……この風景、ライヴァスのためにも、守っていかなきゃな……)

勝は森を見つめながら、ライヴァスと最後に対面した時の事を思い返した。


第20話「眠れる心」

―2011年1月27日木曜日午後4時25分―

ここはゴッドパレス内の、ライヴァスが鎮座する最深部の部屋。かつて、ヴィザリオンがライヴァスと対峙したのも、この部屋であった。
「ライヴァス……」
そして、ヴィザリオンは狼影と共に再びライヴァスと対峙した。
目の前にいるライヴァスは、あの時と何も変わりがない。あえて違いを挙げるならば、その表情が初めて出会った時よりも幾分か無表情気味になっている所だろうか。
「久しいな、人間……」
「ライヴァス様……!」
「俺は、今日はあなたと戦いに来たわけではない。話し合いに来たんだ。慎……アルディアと共に」
そういってヴィザリオンはゆっくりと前に歩み出る。
だが、その瞬間にライヴァスがヴィザリオンの足元めがけて雷撃を放ってきた。
「っ!?」
「その様な過剰ともいえるほどの武装をしてきた者が、何を言っている?」
無表情気味だった表情が、次第に険しくなってくる。
「ライヴァス様、彼は本当に……」
「アルディア、お前もだ。我を裏切り、そして今度は我に牙を向けている」
狼影こと慎の弁解にもまったく聴く耳を持たず、ライヴァスは睨みをきかせた。
「……俺達の言い分は、まったく聞いてくれない、って事か?」
「たかが人間の言う事など、この創生神が聞くはずないであろう?」
「………………」
ヴィザリオンが沈黙した直後、狼影は背中の剣を引き抜いてライヴァスに向かって構えた。
「慎……!」
「ライヴァス様……いや、創生神ライヴァス。僕は今まであなたを慕ってきた。だけど、その発言は許せない……! 今、僕があなたの考えを改めさせる!」
そういうと狼影は勢いよく跳躍してライヴァスに向かっていった。
「慎!」
「アルディア、そこまで愚かだとは思わなかったぞ……!」
「はああぁぁぁっ!!」
狼影は一気にライヴァスの目の前まで来ると、一気に剣を振り下ろした。
「くっ……!」
しかし、その剣はライヴァスの目の前に展開されている光のバリアによって止められてしまう。
「攻撃が正直すぎる」
「これならどうだ!?」
そこへ、バハムートアーチェリーを装備したヴィザリオンが光の矢を放ってきた。
「フン……」
とっさの出来事であったにもかかわらず、ライヴァスはいつの間にか手にしていた剣で矢を弾いた。
「これならっ!」
狼影は一旦剣をしまって右肩の狼の頭部を拳に装着し、恐ろしいほどの速さで連続してパンチを繰り出した。
「牙・影・撃、乱・打ぁっ!!」
それでも、全てのパンチが光のバリアに阻まれてしまう。
「まだだ!」
狼影が拳を引いた状態で一度固定すると、狼の口内にエネルギーが収束されていった。
「狼砲破っ!!」
そして拳を思い切り前に突き出すと、口内からエネルギー弾が光のバリアに向かって撃ち出された。
「ぬ……!?」
すると光のバリアはガラスのように砕け散り、狼影の攻撃を阻むものがなくなった。
「おおおぉぉぉぉぉっ!!」
チャンスと言わんばかりに狼影は剣を再び引き抜き、ライヴァスに攻撃を仕掛けた。
ガキィン!
だが、今度はライヴァスが手に持っていた剣によって阻まれてしまった。
「まだ、甘いな……!」
「それは、どうでしょうか……!?」
狼影がわずかに笑みを浮かべる。
「何……?」
「ヴィザリオン!」
「おう!!」
狼影の呼びかけを聞き、ヴィザリオンは待ってましたといわんばかりに構えていたバハムートアーチェリーからエネルギーの矢を放つ。
「シャイニングッ、バハムゥゥゥゥゥトォッ!!」
「ぐうぅっ!!」
ライヴァスはとっさの出来事だったためかよける事も防御する事も出来ず、まともに受けてしまう。
「五月雨……刃ぁっ!!」
「がはぁぁぁっ!?」
続けて狼影が剣から無数の刃を放ち、ライヴァスの身体を切り刻んだ。
「調子に……乗るな……!!」
ボロボロになりながらもライヴァスは剣を構え、ヴィザリオンと狼影に向かって雷を放った。
「狼影のスピードは、伊達じゃない!」
「はぁっ!」
その雷を、狼影は驚異のスピードで回避し、ヴィザリオンは拳で弾く。
「バァァニングッ、フェニィィィィックスッ!!」
雷を弾くと同時にヴィザリオンはフェニックスブレイドを手にし、ライヴァスに向かって思い切り切りかかった。
「ぐっ……!」
ライヴァスは何とか剣で受け止めるものの、ダメージを追っている分、力が入らずに競り負けそうになっている。
「はぁっ!!」
そこへ狼影も同じ様に剣をライヴァスに向かって振り下ろす。
「くっ!」
それをライヴァスは再び発生させた光のバリアで防いだ。だが、やはり先程よりも力が弱く、剣がバリアをわずかに切り裂いている。
「僕達は、負けはしない!」
「この、守りたい想いがある限り、絶対に!!」
ヴィザリオンと狼影の手にさらなる力がこもり、ライヴァスを押す。
「まだ、終わりはしない……!!」
「くっ!」
しかし、ライヴァスも負けじと思い切り剣に力を込め、ヴィザリオンと狼影を弾き飛ばす。
「おおぉぉぉぉぉっ!!」
「うあああぁぁぁっ!!?」
「があぁぁぁっ!?」
それと同時に、二人に向かってエネルギー波を放った。着地したばかりの二人はそれをかわす事が出来ず、まともに受けてしまう。
「はぁっ!」
続けてライヴァスはエネルギーをまとった剣を思い切り振るい、エネルギーの刃を放つ。
「がっ……!?」
先の攻撃で傷つき、ろくに動けない二人はその刃も食らってしまい、更に深いダメージを負ってしまう。
「まだだ……!」
さらにライヴァスは剣を振り上げ、二人に向かって雷を落とそうとする。
「そう何度も……」
「黙って受けるわけには……いかない!」
だが二人はその攻撃が放たれる直前に動き、左右に分かれてライヴァスをはさむ形になる。
「無駄だ……二手に分かれたとて同じ事……!」
それでもライヴァスはほとんど動じず、二人に向かって雷を放った。
「狼砲破っ!!」
狼影はそれをエネルギー弾で相殺し、
「バァァニングッ、フェニィィィィックスッ!!」
ヴィザリオンは炎を発した剣でかき消す。
「あああぁぁぁぁぁっ!!」
「おおおおぉぉぉぉぉっ!!」
直後に二人はライヴァスに向かって思い切り跳躍し、
「牙・影・撃っ!!」
「フェニックスッ、ディバイディイィィィィィッ!!」
それぞれの全力の一撃を放った。
「っ……!」
ライヴァスは二人の攻撃を光のバリアで防ぐ。しかし、それを支える腕は限界が近いらしく、激しく震えている。
「ぐぐ……!」
「おおおっ……!!」
「ぐっ……! あああぁぁぁぁぁっ!!」
それでもライヴァスは二人の攻撃を弾き飛ばした。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「ぐっ……!」
「く……!」
共にかなりのダメージが蓄積し、満身創痍となってきている。
おそらく、あと一撃か二撃で決まる事になるだろうと、その場の誰もが思った。
「いいか、狼影……?」
「構わないよ……!」
二人はごく短い言葉でやり取りを行うと、改めてライヴァスに向かって構えを取った。
「これで……終わりだ……!!」
そういってライヴァスは剣をゆっくりと振りかざす。
「僕達は、絶対……!」
「勝利する!!」
「!?」
ヴィザリオンが吼えたと同時に狼影は駆け出し、ライヴァスの注意を引いた。
「ヴィクトリーウェポン、モードチェンジッ!! ディバインッ、フォオォォォォォムッ!!」
その間にヴィザリオンは四体のヴィクトリーウェポンと合体する。
「何をする気だ……!?」
「彼の邪魔はさせない!」
ライヴァスが何かをしようとするよりも早く、狼影が攻撃を仕掛けた。ライヴァスはヴィザリオンの使用としていることが何かを認識する間もなく、狼影の攻撃を受け止める。
「はあああぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐぅぅ……!!」
何度も何度も、修羅のように切りかかる狼影。そしてそれを必死になって受け止めるライヴァス。
「僕はもう迷わない! もう苦しみもしない! だから、負けない!!」
「アルディア……!」
「そのためにも、僕はあなたを超えてみせる! 創生神ライヴァス!!」
「っ!?」
狼影の一太刀が、ライヴァスの剣を叩き折った。
それと同時に、ヴィザリオンも合体を完了させ、光の大太刀ディバインセイヴァーを手にする。
「何……!?」
「ヴィザリオン!!」
「おおおぉぉぉぉぉっ!!」
狼影の掛け声とほぼ同時に剣を思い切り振りかぶる。そして、
「ディバインッ!! セイッ、ヴァアアアァァァァァッ!!!」
ディバインセイヴァーをライヴァスに向かって振り下ろした!!
「あああああぁぁぁぁぁっ!!?」
防御をする暇もなく、ライヴァスはヴィザリオンの太刀を受け、その場にゆっくりと崩れていった
「俺達の、勝利だ……!!」
「………………」
ゆっくりと倒れていくライヴァスを、悲しげに見つめる狼影。やはり、今まで慕っていた者が倒れる姿を見るのは辛いのだろう。
「フッ……」
「っ!?」
「なっ……!?」
その時、ライヴァスが狼影に向かって嬉しそうに微笑んだ。

―2011年1月27日木曜日午後4時45分―

「………………」
「そんな……どうして……!?」
驚いた表情で狼影はライヴァスを見つめる。
「我は、これを望んでいたのだよ……」
「望んでいたって、どういう事なんだ?」
ヴィザリオンはゆっくりと武器を下ろしながら質問する。
「……我は、老いすぎてしまった……。創生神の座に長く居座りすぎていた……」
「それは、ライヴァス様が創生神として優秀であったから……」
「そう、確かにそうだ……。だが、それ故に後任が見つからず、結果我が長く続ける事となった……」
「しかし、なぜ……」
「先にも言ったが、我は老いすぎてしまった……。故に、我の監視がこの世界に十分に行き届かず、新たに生み出したいくつもの知性ある者達が無益な争いを行い、他の命に不平等な発達を遂げてきた……」
「………………」
ライヴァスは傷ついた部分をその手で押さえながら、淡々と話し続ける。そしてヴィザリオンはその話を黙ったまま耳を傾けており、狼影は時折言葉を挟みながらも聞いていた。
「気がついた時には、既に取り返しのつかない所まで来てしまっていた……。これは我の完全な失態……。だから、我は早急にこの状態を改善できる、新たなる創生神となりうる者を探した……」
「その、新たなる創生神となれる者は、見つかったのですか?」
「………………」
ライヴァスは少しばかり間をおいた後、その新たなる創生神となりうる者の名を口にした。
「それは……アルディア、お前だ……」
「なっ!?」
「っ……!?」
ライヴァスが口にした名前の主、アルディアこと慎は驚愕した。
「そ、そんな……僕が、創生神……!?」
「アルディア……お前には、我にも負けぬ強い創生の力を持てる可能性を秘めている……」
「し、しかし……」
「それに、お前には、私にはないものを持っている……」
ライヴァスは穏やかな表情で、いまだに困惑している狼影、もといアルディアを見つめている。
「ライヴァス様にはないもの……?」
「仲間という、対等で信頼できる存在だ……」
そういって、ライヴァスはヴィザリオンに視線を向けた。
「仲間……」
「仲間がいるならば、立場が違えども互いを高めあう事が出来る……。アルディアは、それによってきっと私よりも優秀な創生神となる事が出来るだろう……」
「けれど、僕は……」
アルディアはそういったきり、黙りこんでしまった。やはり、自分が創生神となる事を信じられないでいるのだろう。
「アルディア……君は、あの星が好きか……?」
「え……?」
突然のライヴァスの質問に、先程とはまた違った意味で戸惑うアルディア。
「あの星は、我の生み出した命があふれている……まれに見る、素晴らしい星だ……」
「………………」
「あの星を、守りたいと思わないか……?」
「……僕は、あの星に住む人達が、好きです。友達もいます。だから、守りたいと思っています」
「その思いがあるだけでも、十分だ……」
ふっと、ライヴァスは微笑んだ。
「しかし、あなたは多くの地球の人達を殺した」
ここで、ようやくヴィザリオンが口を挟んだ。その言葉には、どこか憎しみが混じっている。
「人間を容易に殺した事は間違いだと、はじめから分かっていた……だが、こうでもしない限り、アルディア達、そして君達人間も動かなかっただろう……? 動かなければ、何も変わらなかった……」
「俺達は、このためだけに犠牲を出したって言うのか?」
淡々と言葉を続けるヴィザリオン。それに対し、ライヴァスは申し訳なさそうな表情を見せている。
「憎んでもいい……我は、それだけの事をしてしまったのだからな……。それでも、これだけは分かってほしい……。身勝手だとは思うが、我ははじめから君達人間を憎んでなどいなかった……」
「……今、俺があなたを憎んでも、何かが変わるわけではない」
「感謝する……」
ヴィザリオンの言葉に、再び微笑むライヴァス。
「アルディア……我の意志を、受け継いでくれるか……? あの星の、この世界の、命を絶やさないために……」
「……僕が、どこまで出来るか分かりません。けれども、僕は守りたいものがあります。そのために、ライヴァス様から、創生神の座を受け継ぎます」
「……ありがとう……。これで、我も心置きなく転生の輪に乗る事が出来る……」
そういうとライヴァスはゆっくりと目を閉じる。
「ライヴァス様……!」
「だが……最後に、あの星の治癒の力を元に戻したい……。人間よ……我の最後の身勝手だ……。我の全ての力を使って、うぬらが海上区と呼ぶ島に、我の力を注ぐが構わぬか……?」
「地球が滅びに向かっているのは事実なのか? それに、何で海上区なんだ?」
「星の治癒力が失われているのは、事実だ……。そして、あの地は、我が星の治癒力を回復させるために作らせた……。あの地を再び自然で覆えば、地球は再び安定する……」
ライヴァスの言葉に、ヴィザリオンは少しばかり考えようとする。だが、ライヴァスの傷を見るとすぐに考えをまとめ、口を開いた。
「……本当は、俺だけの判断でどうにかできる問題じゃないけど、そうも言ってられないくらい時間がないんだよな……。仕方ない、俺が責任を持つ。だから、やってもいい……いや、やってくれ。きっと、地球の人達も理解してくれる。理解するよう、説得する」
「本当に、感謝する……」
ライヴァスは三度微笑み、ゆっくりと立ち上がった。そして、何やら呪文を唱えると、次第に身体が淡く光り始めてきた。
「アルディア……後は、頼むぞ……」
「はい……!」
アルディアが返事をすると同時にライヴァスからまばゆい光があふれ、やがてライヴァスの光は地上に向かって勢いよく飛んでいった。

ライヴァスの最後を見届けた勝は、一旦慎と別れて地上へと帰還した。そして海上区がやがて人が住めなくなってしまう事を告げた。
VESのメンバーはそれを信じたが、海上区に住む人々は、はじめはその訴えを信じられずにいた。
それからしばらくして、海上区の自然が急激な成長を遂げると海上区の人々もようやく信じ、海上区から離れる事となった。
流沢スクールに通っていた生徒達は、姉妹校である流星学園に通う事となり、家族ともども流星学園近辺に住む事になった。

―2011年3月15日火曜日午後2時57分―

「………………」
「……勝くん」
粋に呼ばれて勝は我に帰る。
「ん、何だ?」
「次、どうしようか?」
「そうだな……」
勝はゆっくりとその場に座り込み、再び森に目を向けた。粋も同じ様に、その場に座り込んで勝の方を向いた。
「この景色でも見ながら、ゆっくり考えるさ」
「うん……そうだね」
勝の答えを聞いて微笑む粋。
そんな二人を、穏やかな風がなぜていった。

―2011年3月15日火曜日午後12時34分―

とある郊外の山中にて、オーガチームは神威と共に救助活動を行っていた。内容は、入り口がふさがれた洞窟に生き埋め状態となった子供達の救出。
その救助活動は救出がもうすぐ完了すると言うところまで来ていた。
まず、オーガファイターのドリルによってふさがれた部分に穴を開けた。次に、神威の持つ鞘に納めた刀でその穴を支えた。そして、今はオーガディフェンダーのはしごで奥にいる子供達を一気に外まで運ぼうと言うところなのだ。
「と言うわけで、神威。お前は先に戻ってもいいぞ」
オーガスピーダーはそういって神威の肩をたたいた。
「ですが……」
「いいって、気にしなくても。これから彼女とのデートがあるんだろ?」
オーガファイターが『彼女とのデート』の部分を強調して言った。
「早く行かないと、間に合わなくなりますよ?」
「……申し訳ありません。それでは、先に帰らせてもらいます」
神威はオーガチームに向かって頭を下げると、ものすごい勢いで帰路へとついた。
その直後、オーガディフェンダーのはしごに乗った子供達が久しぶりに洞窟の外へと出てきた。
「よかったですね、皆さん」
「ありがとう、ロボットのお兄ちゃん達!」
子供の一人が本当に嬉しそうな表情でオーガチームに礼を言った。
「なに、俺達は当然の事をしたまでよ」
「その通りです」
子供達の笑顔を見て、オーガチームもまた嬉しくなった。
自分達が造られた目的は救助活動が主である。その救助活動でお礼を言われる事が、ここ最近で増えてきた。その事が、オーガチームに喜びとして入ってきているのである。
常に何か事件や災害が起こってほしいと言うわけではないが、いざという時に必要とされる、そんな存在である事が自分達の誇りだと、そう思えた。

―2011年3月15日火曜日午後1時1分―

ここは、海上区からはるか北に存在する時峰(ときみね)町の公園。
そこで一人の少女が、しきりに自分の腕時計を確認しながら立っていた。その様子からすると、誰かを待っているのだろう。
「もう、約束の時間なのに……」
少女はきょろきょろと辺りを見回す。目的の相手はいまだに姿を現していないらしい。少女の表情にもどこかかげりが出来始めていた。
「……あっ」
その時、少女の視界にその相手が現れたらしく、一瞬にして喜びの表情になって走り出した。
少女が走って言ったその先には、白い巨大ロボットが少女の方に向かってゆっくりと歩いている姿があった。
「神威!」
「お待たせして申し訳ありません、優菜」
少女、優菜とロボット、神威は互いの名前を呼び合った。
「遅いわよ、神威。普通、デートって言ったら男性の方が早く来て待っているものでしょ?」
「私のデータにそのようなものはインプットされていないので……それに、つい先程まで救助活動の支援を行っていましたから……」
神威は苦笑しながらも、優菜を自分の肩の上にちょこんと乗せる。
「言い訳無用。罰として、今日一日中私の言う事を聞くのよ」
「了解しました、優菜お姫様」
「お、お姫様って……」
神威のちょっとした冗談に、優菜は楽しげに笑った。つられて、神威も微笑んだ。

―2011年3月15日火曜日とある時刻―

聖なる宮殿ゴッドパレス。
「この銀河系の生命数が少なくなってきているね。少し増えるようにするかな」
アルディアは創生神として、全宇宙の生命の管理を行っていた。内容は、主に生命の数の増減のバランスを取る事であるが、これが相当の激務であり、アルディアは今更ながらライヴァスの偉大さに感慨を受けていた。
「アルディア、こっちの処理は終わったぞ。次は何をすればいいんだ?」
ブレイグが少しふてくされたような表情でアルディアにたずねる。
「お疲れ様。次はこっちをお願いしていいかな?」
「………………」
そういってアルディアは宇宙地図の一点を指した。ブレイグは表情を変えずにうなずき、そのままつかつかと歩き去っていった。
「はは……」
そんなブレイグの態度に、アルディアは苦笑する。
「あいつのあの態度は仕方がない。頭で分かってはいるが、どうしても年下のお前が格上と言う事に不満があるんだろう」
ゼイヴァが軽くアルディアの方を叩きながら言った。
「今までと同じいいし、嫌なら嫌だって言ってくれれば……」
「別に嫌っていうわけではないのだろう。でなければ、あいつが何の不満も言わずにお前の言う事を聞くはずがない」
「……そうだね」
アルディアはふっと微笑んでブレイグの後姿を見た。その姿からはブレイグがどんな表情をしているか、どんな思いを持っているかは分からないが、きっと、そう悪い表情ではないだろう。
そう思いながら、アルディアは次の仕事に取り掛かった。
(勝君達は、元気でやっているかな……?)
久しく会っていない、かけがえのない友達の事を思いながら。

―2011年3月15日火曜日午後1時42分―

時峰町にある大手デパートにて、菜摘と賢は偶然会った灯矢と共に買い物をしていた。
「ほら、次行くわよ、次」
「ちょ、ちょっと待って……」
「何で、僕まで持ってるのかな……?」
賢と灯矢が多くの荷物を両手に抱えているのを気にも留めずに菜摘はずんずんと進んでいく。二人が持っている荷物は大半が菜摘の買った洋服類であり、残りは賢が買った玩具類やちょっとした備品などである。ちなみに、賢が自分の買った玩具を、灯矢が菜摘の買った洋服を持っている。
「今度、久しぶりに慎が帰ってくるのよ。そのためにも、色々と準備しなきゃ」
(それなら、何で個人的な買い物が多いんだろう?)
などとは言えず、ただ黙って苦笑しながらもついていく賢と灯矢。
しかし、それでも二人はこんな平穏な日を楽しく思っていた。

―2011年3月15日火曜日午後3時14分―

再び、海上区の丘。
「……勝、くん……」
粋は勝にゆっくりと語りかけた。
「本当に、色々とありがとう。勝くんのおかげで、いろんな新しい思い出が出来た……。
勝くんがこの星を、みんなを守る仕事をしているって事には驚いたけど、それも勝くんの個性だよね? 私は、そんな所も……」
少し頬を赤らめて、言葉がどもる。
「………………」
しかし、勝はまったく反応しない。
「勝くん……?」
すると、勝はゆっくりと傾き、やがて横にいた粋に寄りかかってしまった。
「し、勝くん?」
「ぐぅ……」
見ると、勝は眠っていた。春の陽気もあってか、睡魔に襲われたのだろう。
「……いい、かな……? 今まで大変だったもの……」
そんな勝を見て、粋は微笑んだ。それからゆっくりと勝を横にして、勝の頭を自分の膝の上に乗せた。
「お休み、勝くん……」

この緑の中で

僕は安らぎを覚えるよ

さあ 呪文を唱えよう

全ての夜に 「オヤスミ…」

The End

初回公開日:2005年4月25日

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