第19話「想いを伝えて」


―2011年1月23日日曜日午後3時25分―

VESにて自分の知りうる情報を話した後、慎は郊外を歩いていた。

「………………」

かつて自分は、この風景を破壊しようとしていた。それが、自分の信じる正義であったから。
だが、今は違う。
この風景を、守りたいという気持ちが出てきている。自分でも信じられないほどに。

(……それだけ、僕は人に近くなったという事か……)

人に近くなったという事が、自分の中では果たして進歩なのだろうか? それはよく分からない。
今でも、自分の中には人に対してどこか不可解な疑念がある。粋のように、人と自然の共存のバランスを取れている人もいれば、一方で次々と自然を破壊する人もいる。
なぜ、人はこうも意志を一つにまとめあげる事が出来ないのだろうか?
そう考え出すと、一度は心の奥にしまった憤りがよみがえってくる。だが、それを人や人が作り上げた文明に対して向ける事は、もう行わない。

(もう、僕はただ一つの理念にとらわれて動くような事はしない……!)

それをしてしまうと、悲しむ人がいる事を知ったから。

(……だけど、やっぱり、僕は……)

ココニイテハイケナイ。

(……そうだ、僕は……)

空を見上げた。
この、どこまでも広がっている青の先にある、かつての自分の居場所をじっと見据えるかのように。


第19話「想いを伝えて」

―2011年1月23日日曜日午後3時42分―

「慎君」
慎に声をかけたのは、灯矢だった。もはや当然のように、菜摘と賢もいる。
「待ってたよ」
慎は、これまでとは違う、本心から出てきた笑顔で三人を迎えた。
この三人を慎が呼び出したのには、理由がある。今ここで、自分の全てを話すためという理由が。

慎は、決意していた。
自分の事を、自分が今まで行ってきた事を全て話し、わざと迫害を受けようと。
そうすれば、自分を心配する者はいなくなり、自分ひとりでライヴァスのもとへ向かう事が出来る。あとは、ライヴァスに申し立てるか、最悪の場合刺し違えてでもライヴァスを止める。
それが、自分が今まで人々に行ってきた罪の償いとなるはずだから。

「今までどこに行ってたのよ、慎」
「ちょっと、ね……」
「まあ、とにかく明智君が無事でよかったよ」
「それで、話って何?」
相変わらずの態度で聞いてくる菜摘。慎はそんな菜摘を見て、どこか安心感を覚えた。しかし、ココから先は、きっとその安心感さえもなくなってしまう。それだけ、自分が背負ってきた罪は大きいのだから。
「……何から、話せばいいかな……?」
しかし、いざ話そうとすると、最初につむぐ言葉が見つからない。これでは、いつまでたっても話す事が出来ない。
「私、まどろっこしいのは嫌なの。だから、単刀直入に言ってくれない?」
「……分かったよ」
慎は一度深呼吸すると、改めて菜摘たちを見、自分の事を話し始めた。
自分がアルディアという、今までに襲撃を行ってきた者の一人だったという事、これまでに自分が行ってきた数々の事、そして、勝が粋達の前から姿を消す原因となった事を。

「………………」
「……これが、僕の全てだ」
三人は、驚いたような表情になって慎を見つめていた。
おそらく、慎の話を信じられないでいるのだろう。しかし、彼らの記憶に一致する部分も多々あったはずだ。それならば、嫌でも信じる事になるだろう。
そうすれば、必然的に非難するだろう。いくらでも罵倒するだろう。慎はそう思っていた。
「……話してくれて、嬉しいよ」
「えっ……?」
だが、次に灯矢がつむいだ言葉は、三人の表情は予想と違っていた。
「この事を話してくれたのって、自分のやってきた事が悪い事だって分かったから話してくれたんだよね?」
「そりゃそうでしょ。でなければこんな懺悔みたいな事、しないもの。そうでしょ?」
「それは……」
「言っとくけどね、あたし達はそんな事で人を簡単に嫌いになったりはしないわ。わざと私達に嫌われようとしてたんでしょ? そんなの、私が見抜けないと思ってんの?」
(普通は見抜けないと思うけど……)
賢はそう思いながらも、菜摘の意見に賛同する。
「………………」
慎は嬉しくなった。
どんな事を言っても、彼女達は自分に対する態度を変えようとしない。思っていたよりも、彼女達の心は強い。
「私達は、昔も今もクラスメート……いいえ、友達よ」
「……ありがとう」
菜摘の言葉を聞いて、慎は先程よりも嬉しそうな笑顔を見せて、感謝した。

―2011年1月26日水曜日午後2時46分―

VES司令室。
「それでは、改めて。お帰りなさい、峯島司令」
富士は、にこやかに敬礼しながら峯島を迎えた。
「ああ、ただいま」
それに対し、峯島は今までにあまり見せた事がないような、穏やかな笑顔で返す。
峯島は数ヶ月前の怪我が完治したので、つい先程退院してVESに戻ってきたのだ。
「もう少し入院しててもよかったんじゃねーか?」
そんな峯島に、富士は相変わらずの悪態をつく。
「富士君……」
「構わないさ。それより……」
「ん?」
峯島は笑顔を崩さずに富士と日高の方に振り向くと、富士に向かって頭を下げて謝った。
「龍崎君の事、本当に申し訳なかった」
「えっ……」
「なっ……!?」
峯島が今までに見せた事のない態度に、二人だけではなくその場にいた全員が驚きを隠せない。
「今更謝っても遅いかもしれないが、どうしても言いたかった」
「そ、そんな……顔を上げてください、司令」
「何で、今更そんな事を言うんだよ?」
「入院している間、ずっと考えていた。私が今までに行ってきた事は本当に正しかったのかと」
ゆっくりと顔を上げると、峯島は淡々と語り始めた。
「私は今まで、多くの人々のためならばいくら犠牲が出ても構わないと思っていた。人々を救うには、必ず誰かが犠牲になる。それは当たり前の事だとは今でも思っている。しかし、だからといってその犠牲をなすがままにしていたのは、果たして正しかったのだろうか?」
「………………」
「これまで犠牲になった人に対して、私は何もしないでよかったのか? もしあの時、私が何かしていれば、その犠牲はなくなったのではないか? そう思うと、今更だが後悔してしまう」
峯島の語りを、黙って聞いているVESのメンバー達。しかし、特に富士はいつものように口を挟むといった事はせず、ただじっとして聞いていた。
「龍崎君も、私が富士君と共に行く事を言っていれば、もしかしたら……」
「もう、いい」
しかし、富士は峯島がそこまで言いかけたところで中断させ、そして一歩歩み寄った。
「もういい、峯島司令。気持ちは、よく分かったから」
「富士君……」
「……俺だって、悪かった所もあると思ってる……」
富士が少しばかりけげんな表情になってポツリとつぶやく。
「俺は、拓馬が死んだ事を誰かのせいにしてなきゃ、認められなかった。それを、峯島司令にぶつけていた」
「………………」
意外な富士の告白に、峯島は目を丸くして富士を見ていた。
「だ、だから、これでチャラだ。別に峯島司令が謝る必要はない」
その視線に気づいた富士は、途端に顔をそらす。
「ありがとう、富士君」
「そ、そんな事を言うな! 恥ずかしーだろ!」
峯島のお礼に、ますます顔を向けられなくなってしまう富士。

―2011年1月27日木曜日午後3時13分―

流沢スクールからの帰り道、勝と粋は菜摘達の仕組んだ計らいによって二人で歩く事となった。
「………………」
「………………」
しかし、それにもかかわらず二人は黙ったまま歩いている。
もっとも、二人とも改めて二人きりになって恥ずかしさが出てきているだけであり、ケンカをしたとかそういうわけではない。
(……やっぱり、何か話さないといけないよな、こういう場合……)
そう思うものの、いざとなると何を話していいのか分からず、なかなか話を切り出す事が出来ない。
「……と、とりあえず」
「え?」
だが、勝がようやく意を決して粋に顔を向けると一つの提案を出した。
「公園に、行こうか?」
「……うん」
粋は少しばかり頬を赤らめてうなずいた。

―2011年1月27日木曜日午後3時19分―

二人はそう遠くない公園にやってきて、ベンチに腰掛けた。
「………………」
「………………」
しかし、それでも沈黙したままの二人。これではまったく意味がない。
(い、今更恥ずかしがってどうするんだ。変に意識しすぎるからよくないんだ。落ち着け、落ち着いて……)
「ねえ、勝くん」
「な、何だ?」
沈黙を先に破ったのは、意外にも粋だった。
「今の、このライヴァスさん達との戦いが終わったら、どうするの?」
「戦いが、終わったら……?」
そんな事、考えた事がなかった。ずっと、ライヴァスとの最終決戦の事ばかりしか考えていなかったから。
しかし、考えてみればその答えは一つしかなかった。
「……俺は、元々外宇宙から来る敵と戦うためにVESにいるんだ。だから、この戦いが終わっても、戦う事はやめない」
「そう、なんだ……」
勝の答えを聞いて、悲しげな表情を浮かべる粋。やはり粋としては、勝が戦い続ける事を辛く思っているのだろう。
「……だけど、普段はちゃんと学校にも行く。今日みたいに、こうやって粋と一緒に……」
「あっ……」
勝の言葉に、粋はまた顔を赤らめてうつむいてしまう。
「いいよな、粋……?」
「……うん……」
「よかった……」
勝はにこっと微笑んだ。
「……私も、」
「ん?」
「私も、応援しているから。勝くんが、ちゃんと帰ってこられるように」
「ああ、ありがとう」
再び微笑む勝。そんな勝を見て、粋も笑顔になる。
「っ!?」
そこへ、勝のヴィクトリーコマンダーが振動して勝に非常事態が起きた事を知らせた。
「どうしたの?」
「非常事態だ。ごめん、行かなきゃならない」
「そうなんだ……がんばってね」
申し訳ない表情をしている勝に対して、粋は屈託のないような笑顔で応える。
「ああ!」
そして勝も、そんな粋の笑顔を見て強気な思いのこもった眼差しで応えた。

―2011年1月27日木曜日午後3時23分―

ここは東京都江戸川区の葛西。普段は平々凡々とした町で、穏やかな雰囲気が流れている。しかし、今は違っていた。
神獣・神機達が何十体も空から降り立ち、一斉に町を破壊している。
「ガアアアァァァァァッ!!」
「うわあああぁぁぁぁぁっ!!?」
彼らの雄たけびと建物が破壊された時の爆音が当たりにとどろく。それから逃れようと、人々は必死に逃げ惑う。
「闇っ!!」
そこへ、神星獣牙が切り返しで神獣を切り裂き、沈黙させた。
「今のうちに避難してください!」
「こちらです! こちらなら安全ですよ!」
そしてオーガチームは、時折飛んでくる敵の攻撃から守りつつ人々の避難誘導を行っていた。
「しかし、思ったより早かったみたいですね、総攻撃は……!」
「ったく、あいつの言ってた通りだったら、あと四日は余裕があったはずだろ!」
「やはり、嘘だったのかもしれないな……」
オーガファイターとオーガスピーダーは、その合間に慎への疑念を口にする。
確かに、慎は24日に「約一週間後にライヴァスの総攻撃が始まる」と言った。その言葉どおりならば、総攻撃が始まるのは31日のはずである。
しかし、今日は27日。慎が言っていた日にちとは四日も違う。
「今はそんな事を言っている暇はありません。私が彼らをひきつけますから、その間に避難を進めてください!」
「了解しました!」
神星獣牙の言うとおりである。
人々がまだ神獣や神機達の脅威から逃れられていない今、そんな議論をしている暇はない。その事を改めて気づいたオーガファイターとオーガスピーダーは、仕方なくも避難誘導を続けた。
(例え、彼が嘘をついていたとしても、私はただ、皆を守るのみ!)
「無っ!!」
神星獣牙はそう思いながら目の前に突き出していた盾をしまうと、一閃のごとく敵を薙いだ。
「さあ、次は誰だ!?」
再び構えを取る神星獣牙。目の前には、まだ大勢の敵がいる。
しかし、それでもここで怖気づいてはいけない。自分の後ろには、敵よりも多くの守るべき人がいる。
「来ないならば……こちらから向かわせてもらう!!」
今目の前にいる敵全てを倒すため、神星獣牙は跳躍した。

―2011年1月27日木曜日午後3時29分―

VES司令室。
「そんな……!?」
慎は驚愕した。
今、メインモニターに映し出されているのは、世界各地の映像である。それも、全て神獣・神機達が各都市を破壊しているという、慎にとってはありえない光景だ。
「これはどういう事なんだ?」
富士は抑揚をつけずに慎に尋ねた。VES、人間側にしてみれば、これは慎がこちらの油断を突くためについた虚言ととれてしまう。
「僕は……僕は、嘘を言っていません……! おそらく、僕が思ったよりも早い段階で始めたのかと……」
「指揮。俺は慎を信じます。慎は嘘を言っていない」
必死になっている慎を、勝は親友として弁解した。
「けどな……」
「彼が嘘を言っていても言っていなくても、今のこの状況は変わらない。大事なのは、これからどうするかではないか?」
「………………」
峯島の言葉に、しぶしぶ引き下がる富士。
「明智君。私は君のせいだとは思わない。だから、そう気負いしなくてもいい」
「……こうなってしまった以上、あまり猶予はありません。早くライヴァス……のもとへと向かって、止めなければいけません」
「そうか……仕方ないな。勝隊員」
「分かっています」
峯島が命令を口にする前に勝は理解したらしく、敬礼して応えた。
やるべき事は、慎と共にライヴァスのもとへ向かい、今行われている全世界への攻撃を止める事。
「行こう、慎。ライヴァスの所へ」
「うん……!」
二人は互いの顔を見つめ、うなずきあった。

―2011年1月27日木曜日午後4時11分―

ゴッドパレス正門前。
ヴィクトリーウェポン四体を引き連れたヴィザリオンと狼影が、その前に立っていた。
「………………」
ヴィザリオンは改めてその荘厳さや迫力を感じると、少しばかり震えた。とは言っても、恐怖は微塵も混じっていない。
例え、直接対決となろうとも、絶対に負けない。みんなのためにも、自分のためにも、粋のためにも、必ず勝って帰る。その志がある限り、恐怖に負けたりはしない。
「もうすぐ終わる……いや、終わらせるんだ……」
「そうだね……」
二人は互いに向き合って一言ずつ言葉を交わすと、再びゴッドパレスに視線を向けた。
「……行こう」
その言葉と共に、二人はゴッドパレスの正門をくぐった。

―2011年1月27日木曜日午後4時12分―

「……来たか、人間……そして、アルディア……
これで、ようやく終わらせる事が出来る……
……始めようか、新たな時代への戦いを……!」

To be continued…


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この緑の中で、僕は安らぎを覚える……

……これで、よかったよな。
これでよかったと、私は思うよ。

後は、頼むぞ……
はい……!

勝利勇者ヴィザリオン

最終回
「眠れる心」

全ての夜に、「お休み」……

初回公開日:2005年3月28日

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