第17話「戦う理由」


―2011年1月14日金曜日午後4時45分―

御鈴川総合病院の一角で、峯島は電話をしていた。

「……そうか、一時的にでもしのいだか」

『ちょっと、危なかったけどね』

電話の相手は、霧山である。

「……やはり、現状では苦しいのか?」

『正直、ね。やっぱり、勝君が抜けたのは辛いよ』

「仕方のない事だ……」

そう言って、峯島は小さくため息をつく。

『……引き戻すつもりはないのかい?』

「私達が何か言って強制的に戻しても、状況は好転しないだろう。彼が自ら戻ってこようとしないといけない」

『……そうだね。あえて彼の今いる所に誰も出向かわせようとしてないのも、そのためだからね』

「……私は、これでも戻ってくると信じてる」

『僕もだよ。勝君はきっと戻ってくる』

「根拠はないけどな」

峯島は微笑した。


第17話「戦う理由」

―2011年1月14日金曜日午後8時21分―

ピンポーン
「はーい」
「………………」
翼守家の玄関のチャイムが鳴り、少し慌てて良子が玄関に向かう音を、勝はBGMにしてテレビを見ていた。しかし、テレビの内容はあまり頭に入ってこない。
ここの所、こうしてボーっとしている事が増えてきている。
バイトの時でさえ、気づいたらかなり時間が過ぎている事もある。幸いな事か、バイトをしているコンビニは客の入りが少ないため、それほど大した事にはなっていない。
閑話休題、その原因はおそらく未だに引きずっている数ヶ月前の戦闘だろう。
自分では『もう過去の話だ』と割り切っているつもりだが、やはりどうしても気になってしまっているようだ。

「勝、お客さんよ。お友達だって」
そこへ、勝の思考をさえぎるかのように良子が勝を呼んだ。
「えっ……?」
勝は驚いた。
自分が今ここにいるという事は、自分や家族、それにこの前再会した秋原ぐらいしか知らないはずだ。それなのに、何故……?
勝はそれを確かめるべく、玄関へと向かった。
「やあ、久しぶり」
そこにいたのは、慎だった。
「慎……?」
「ちょっと話をしたいんだけど、いいかな?」
慎は相変わらずの笑みを浮かべている。それが、紛れもなく慎だという事を証明していた。
「あ、ああ、別に構わないが……」
「外で話したいんだけど、いい?」
勝はそれにうなずくと良子に一言言って、慎と共に外へと出た。

―2011年1月14日金曜日午後8時30分―

ここは勝の家から歩いて約10分の所にある公園。中央は広場となっていて、さらにその中心に時計塔があり、それを取り囲むかのように滑り台やブランコなどの様々な遊具が設置されている。
勝と慎は、その公園の時計塔のふもとに立って対峙していた。
「それで、話って何だ? いや、それよりまず俺の質問に答えてほしい」
「別に構わないよ」
慎は笑顔のまま答えた。
「何で、俺のいる所が分かったんだ? 俺は誰にも言ってないはずだ。もちろん、お前にも」
「……簡単な事だよ。僕はずっと君の心の声を発信機代わりに聞いていたんだ。どこにいたって分かるよ」
「なっ……!?」
慎の言葉に驚愕する勝。それに反応したかのように、慎の服が形状を変え、慎はマントを羽織った服装となった。
「慎……!?」
「……君は、逃げたんだ。この僕の、アルディアの前から」
「アルディア、だと……!?」
勝は驚いた表情のまま慎を、アルディアをじっと見た。
その姿は、戦闘時に何度も見てきたアルディアそのものである。憎むべき相手だったのだから、見間違うはずがない。
しかし、そんな思いと同時に勝は戸惑いも覚えていた。
何故、慎がいきなりアルディアになったのだろうか? 慎はアルディアに操られているのか、それとも……
「僕は僕だ。アルディアが真の姿だが、明智慎もまた、僕だ」
そんな勝の心を見透かしているらしく、アルディアは勝の疑問に答えた。
「それじゃ、流沢スクールに転入したのは……」
「君を観察するためだよ」
「何もかも、嘘だったのか……!」
「……そうだ」
「お前は、俺を……俺達を、ずっとだましていたのか!?」
「……そう、だ……」
次の瞬間には、勝はアルディアを思い切り殴っていた。アルディアはそれによって地面に倒れ、勝は怒りに満ちた目でアルディアを見下ろす。
「はぁっ、はぁっ……!」
「……気が、済んだかい……?」
口の中が切れたらしく、アルディアは口の中にたまった血を吹き捨てて勝を見上げた。
「お前は……お前は……!!」
「……憎みたいなら、憎めばいい。あの時僕が君の体を操ってVESの長官を撃った事に怒ればいい。そうして、また戦いの場に戻ってくるといい」
「っ!」
戦いという言葉を聞いて、勝は急に握りこぶしを解き、その場に立ち尽くす。
「どうした? 憎いなら、もっと僕を殴りなよ!」
「……俺は、もう戦いをやめた……だから、いくらお前を憎んでも、意味がない……」
「……君は、そんなに弱い人間だったのか? あれぐらいの事で折れてしまうような、もろい人間だったのか?」
「………………」
アルディアの言葉に何も返す事が出来ない勝。
「……ならば、星月粋を人質として預かっている、と言ったら?」
「っ!?」
粋の名前を聞いて、勝はまた驚きの表情になる。
「今、僕は彼女の身柄を預かっている。危害を加えるつもりはないが、このままでいるのもよくないだろう? だから、君の手で連れ戻しにきなよ」
「……でも、俺は……!」
勝は再び握りこぶしを作った。ただし、今回はアルディアを殴るためではなく、自分はどうすればいいのか迷っているのを表すために。
粋が決していい状態でないのは分かる。出来る事ならば、自分がこの手で助け出したい。しかし、自分はすでに戦いから尻尾を巻いて逃げた身だ。今更どうする事も……
「……二日だ」
「えっ……?」
その時、アルディアがぽつりと言ったのを勝は耳にした。
「地球時間で二日、君に猶予を上げるよ。決心できたら、地球時間で二日後の午後三時、海上区に来るんだ」
「………………」
「……それと、これも言っておく。僕達は流沢スクールを、襲った」
アルディアは暗い表情でそれを口にした。
「なっ!?」
「皆は無事だ。だけど、それを聞いてどうするかは、君次第だ」
そう言うとアルディアは勝に背を向け、
「……君を、待っている……」
勝に聞こえるか聞こえないかの微妙な大きさの声でつぶやいてから、その場から一瞬にして消えた。
「………………」
アルディアがいなくなり、勝は一人、公園でたたずむ。
「俺は……」
空を仰ぐ勝。
彼の目には、公園に設置された電灯で星がはっきりと見えない夜空が入ってきた。

―2011年1月15日土曜日午後3時23分―

「はぁ……」
勝は町をぶらりと歩きながら、本日十度目のため息をついた。
先日アルディアから聞かされた様々な事が頭の中で渦巻き、余計に勝を悩ませているのだ。
(……どうする……?)
先日も思ったように、出来る事なら自分のこの手で粋を助け出したい。今すぐにでも、粋のもとに向かいたい。しかし、既に戦いから身を引いた。だから、その役目はもう自分ではない。
(……それは、自分への言い訳じゃないのか?)
薄々思ってはいた。
あの敗北を味わった事、それによって体の自由を奪われて峯島を撃ってしまった事、その事を引け目に感じて逃げ出した事などの言い訳のために、自分は「もう戦いは終わった」と言い続けているのかもしれない。
しかし、それを分かっていても行動を起こす事が出来ない。もう、今更戻る事は出来ない。だから……
「あれ、翼守さん?」
「えっ……?」
そこへ、思考を中断させる少し気の抜けた声が自分の名前を呼んだ。
「……秋原、さん……?」
声の主は、この前再会したばかりの秋原だった。
「まさか、こんな所で会うとは思いませんでしたよ」
「……それ、二度目ですね」
「あれ、そうでしたか?」
秋原のとぼけた口調や首をかしげるしぐさに、勝は苦笑する。
「でも、また会う事は面白い偶然ですよね」
「確かに、そうですね」
「どうですか、それからのお調子は?」
「……まあまあ、ですかね?」
そうは言うものの、勝の表情は誰が見ても明らかに好調を表してはいなかった。
「……やっぱり、何か無理してますよね?」
「………………」
「……翼守さん」
秋原が神妙な顔で勝を見つめる。
「スマイル、ですよ♪」
「…………は?」
だが、次の瞬間には笑顔を見せ、勝を一気に脱力させた。
「笑顔になる事を我慢してはいけませんし、眉間にしわを寄せたままじゃ跡が残っちゃいますよ? ですから、ほら、笑顔を見せてください」
「………………」
再び沈黙する勝。しかし、今回の沈黙はあ然としたからであり、開いた口がふさがらないから発生しているのである。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもないです……」
勝は頭痛を抑えるかのように眉間に指を当てて、小さくため息をつく。
「あの、質問してもいいでしょうか?」
「私は構いませんよ」
再びにっこりと笑顔を見せる秋原。
「仮に……仮に、ですが、何かやりたい事があって、でもそれをやる事が難しかったら、どうします?」
「やりたい事が……?」
秋原は疑問の表情を浮かべる。
「そうです。やりたいのに、自分の気持ちとかが邪魔してなかなか出来なかったら……」
「私でしたら、やりたい事は我慢しませんよ」
「えっ……?」
即答だった。あまりにも速すぎて、逆に勝は驚いた。
「だって、我慢は体によくないじゃないですか。もちろん、やりたい事にもよりますけど、私は難しいからってあきらめたくありません」
今までの印象とは全く違う、芯の通った意見を発する秋原。しかしその表情は笑顔だ。
「大切なのは、何のために何をするか、自分に正直になることです。自分に嘘をついて我慢をするのは、嫌ですから」
「自分に、嘘……」
勝は秋原の発した言葉を反すうした。
「そうです。ですから、私は陽輔さんと一緒になれたんです」
「………………」
思い返せば、自分は今までずっと自分に嘘ばかりついていた。戦う事を決意した時も、ヴィザリオンとして戦っていた時も、そして今も。
そうする事によって、自分を犠牲にする事によって、周りがよくなると信じていた。
だが結果はどうだろうか?
いい方向に向かった事もあった。しかし、実際はそうでなかった方が多かった。
ならば、自分に正直になった時はあっただろうか?
(……そうか……)
あった。
初めて粋と出会ったあの日、粋達四人と友達になったあの日。自分は自分に正直になって、彼らに自分が戦う者だという事を明かした。
あの時はとっさの事ではあった。無我夢中で『助けたい』と思ったから起こした行動ではあった。しかし、それだけではなかった。
彼女達が、粋達が笑って自分を受け入れてくれたのだ。一切拒絶の色を見せることなく。
それが嬉しかった。だから、決めた。
そして、今改めて決意した。もう迷わない。
(俺は、粋を……みんなを、守りたい……!!)
「……秋原さん、ありがとうございます!」
「どういたしまして……って、何がでしょう?」
突然の勝の謝礼に秋原は反射的に礼を返すが、すぐに理由が分からない事に気づいて首をかしげた。
「秋原さんのおかげで、俺が何をすべきなのか……いや、何がしたいのか、分かりました」
「そうですか、それはよかったですね」
秋原が笑顔を見せると、勝もお返しといわんばかりに、久しぶりに心の底から湧き出た笑顔を見せた。
「いい笑顔ですよ、翼守さん」
そう言われて、勝はまた嬉しくなった。
「それじゃ、俺、行きます」
「いってらっしゃい……どこへですか?」
「俺の、帰りたい所です」
勝はそう言うと秋原に向かって再び頭を下げてから走ってその場を去っていった。

―2011年1月15日土曜日午後3時57分―

勝は家に帰ってくるなり、急いで自分の部屋にある荷物をまとめだした。
「ど、どうしたの、勝?」
夢中で事を成している勝の姿を見て驚きを隠せない良子。
「ごめん、母さん。俺、やっぱり戻るよ」
「……そう。だったら、止めないわ」
勝は必要最低限の事しか口にしなかったが、良子はそれだけで諭したらしく、少し寂しげな、しかし嬉しそうな表情を浮かべた。
「……今やりたい事が終わったら、必ず手紙を書くから」
「……頑張ってね」
やがて、必要なものをまとめ終えた勝はすっくと立ち上がり、
「それじゃ、行ってくる……いや、帰るよ。父さんにもよろしく言っておいて」
「いってらっしゃい」
良子と言葉を交わすと急いで家を出て行った。

―2011年1月16日日曜日午後2時16分―

ゼイヴァ達が一斉攻撃を仕掛けた翌日、海上区の街中は静まり返っていた。
それは当然の事である。戦闘後しばらくは何があるかわかったものではない。だから、しばらくは誰も近づかないし、VESが近づかせようともしない。
「ホント、どこへ行ったのよ……?」
しかし、そんな街中にありえないはずの三人の人影が存在した。
「本当は来ちゃいけないんだけどな……」
「仕方ないよ。星月さんが一昨日から行方不明だから。菜摘が一番心配してるしね」
先頭を歩いているのは菜摘、それに続くように賢と灯矢が少し困ったような表情を浮かべながら歩いている。
彼女達の目的は、どうやら粋の捜索のようである。
「まったく……やっと一つの事が解消したと思ったら、今度は本人ごといなくなっちゃうんだもの。あまり世話を焼かせないでほしいわ」
口ではそう言っているものの、菜摘の表情はどこか暗い。やはり、賢が言ったように粋の事を最も心配しているからであろう。ちなみに、彼女がここを捜索場所に選んだのは、先日の戦いに粋が巻き込まれたと推測したからである。
しかし、一昨日の夜からこの三人だけでなく、スクールの教師や生徒達が一生懸命に探しても未だに見つかっていない。
その理由は慎ことアルディアがゴッドパレスに連れ去ったからなのであるが、当然彼女達が知る由もない。
「このあたりは昨日も探したのに、また探すのかい?」
「当たり前よ! もしかしたら、見落としがあったのかもしれないじゃない!」
菜摘は必死な形相で灯矢を一喝する。
「そうは言っても……」
賢は困った表情のまま周りを見回した。
人がいない事や車が全く走っていない事を除けば、その光景は普段とあまり変わりがない。もちろん、壊れているビルや建物も存在するし、道路も所々破損が目立っているが、それでも激しくひどいとは言いがたい。この状態ならば、例え怪我をしていたとしても必ず発見できているだろうし、怪我をしていなければ自力で家に戻るなど出来るはずだ。
「私は、あきらめないわよ……!」
菜摘がぐっと唇をかみ締めて一歩踏み出そうとした、その時であった。
「っ!?」
突如、大きな爆音と共に前方のビルが破壊された。見ると、巨大な人型のロボットや獣が次々と空から現れ、街を破壊していた。
「ちょ、な、何なの!?」
「だ、だからド……やめようとあれほど……!」
「それより、早く逃げないと……」
あまりにも突然の事に慌てる三人。
(粋……!)
菜摘は逃げる途中も、粋の事を頭の中から放さなかった。

―2011年1月16日日曜日午後2時29分―

「約束と違うじゃないか!」
海上区のとあるビルの上空で、アルディアとゼイヴァが言い争っていた。理由は、今現在行われている破壊活動についてだ。
ゼイヴァは今日もまた以前と同じ方法をとる事を決定していた。そこへ、アルディアが「作戦決行は地球時間で午後3時にしてほしい」と言ったのだ。
にもかかわらず、ゼイヴァは予定より早く作戦を実行した。
その事に対して、アルディアは怒りをぶつけているのだ。
「このような事に約束の時間も何もあるものか。我々は成すべき事を成すだけだ」
アルディアの怒っている姿を見てもどうと思わず、冷静に言葉を返すゼイヴァ。
「くっ……!」
そんなゼイヴァに何を言っても無駄と悟ったのか、アルディアはすぐにその場からいなくなった。
「……アルディア、お前は何をしたいんだ?」
「何かあったのか?」
そこへ、先程まで口論があった事を知らないブレイグがやってくる。
「いや……何でもない。それより、続けるぞ」
だが、ゼイヴァは先程までの口論をブレイグには話さず、マントを翻してアルディアと同じ様にその場から消えた
「お前に言われなくとも、分かっている」
続いてブレイグも消え、その場には誰もいなくなった。

―2011年1月16日日曜日午後2時36分―

「ストライクッ、ザウラアァァァッ!!」
ヴィザリオンの叫びと共に拳が打ち出され、目の前にいた神機を砕いた。
「ちっ、サイクルが早すぎるだろ!」
ヴィザリオンは悪態をつきながらも、神星獣牙やオーガガーディアン達と協力して次々と神獣・神機達を撃破していく。
だが、この前とは若干違っており、ヴィザリオン達がわずかながら押されている場面も見受けられた。
「くっ……!」
「このままだと、全エネルギーを消耗しきってしまうかもしれません……!」
「ちっくしょぉっ!!」
神星獣牙の読みは的中していた。
(全ての生命体は、運動を休みなしに続ければ体力を激しく消耗する。機械であれば、構成する物質の疲弊や原動力の消耗によってやがて停止する。ならば、その瞬間まで戦い続けるがいい!)
ゼイヴァ達の目的は、そこにあった。
いくら強敵といえども、所詮は生命体であり、機械である。限りある存在なのである。限りある存在ならば、必ず限界が訪れる。ゼイヴァ達は、それを狙って自分の配下である神獣や神機を戦わせているのだ。
「第四層、叫喚地獄っ!!」
「破壊っ!!」
「ストライクッ、ザウラアァァァッ!!」
ヴィザリオン達は、その事が分かっていても力を加減する事はせずに、いや、正確には加減する事が出来ずに次々と神獣・神機の相手をしていた。
大量に出現しているが、彼らの相手はこれまでヴィザリオン達を苦しめてきた神獣・神機なのである。いくら対処法が分かっているとはいえ少しでも油断すれば相手に有利な状況に陥ってしまう。ゆえに、彼らは加減が出来ずにいるのだ。
「こんのおおぉぉぉぉぉっ!!」
少しずつ迫ってきている絶望に、ヴィザリオンは不安を感じずにはいられなかった。

―2011年1月16日日曜日午後2時39分―

「ハァ……ハァ……ハァ……」
「な、何とか、逃げられたね……」
菜摘達は戦闘区域から逃れる事ができ、今はすでに郊外にいた。
「ま、まったく……いきなり何なのよ……」
この場合、完全に菜摘達に不備があったのだが、菜摘はそれを何とも思わずに戦闘が行われている街に目を向けた。
街は爆音がとどろき、爆発が起こり、もはや平和という言葉からかけ離れた場所となっている。
「………………」
自分達の街が、戦闘の舞台となっている。その事を実感すると、菜摘は悲しみの感情がこみ上げてくるのを感じた。
その時だった。
「あ……」
「えっ?」
突然、菜摘でも賢でも灯矢でもない声が後方から聞こえ、菜摘達はその方向を振り返った。
「あっ……」
「し……」
「勝君……!?」
「みんな……」
そこにいたのは、リュックを背負って自転車にまたがっていた勝だった。
「し……勝! 今までどこに行ってたのよ!!」
勝の姿を見て菜摘はすぐに勝を一喝した。しかし、その表情は先程までとは違い、非常に嬉しそうである。
「ごめん……俺……」
「まあまあ、帰ってきたんだから怒らなくてもいいじゃない?」
「怒ってないわよ! 私は、久しぶりに顔が見れて嬉しいんだからね!」
「……ありがとう」
勝が微笑んで礼を言うと、菜摘は力強い笑顔を見せた。
「それより、こんな所で話すのもなんだから、どこか別の所に……」
「……ごめん」
しかし、勝は突然灯矢の誘いに対して謝り、真剣なまなざしで三人を見つめる。
「……もしかして、あそこに?」
灯矢は勝の気持ちを察したのか、戦闘の行われている街をチラッと見て質問した。
それに対して勝が黙ってうなずくと、三人は少し悲しげな表情を見せる。
「……俺は、あそこに行って、粋を連れ戻しに行かなきゃならない」
「えっ!?」
「粋を!?」
だが、粋の名を聞いた途端に三人の表情が一変して驚きの表情となる。
「ああ……粋は今、人質に取られている」
「粋が……!?」
「だけど、大丈夫だ。俺は、決めたんだ。粋を、絶対に連れ戻すって!」
勝は力強く拳を目の前で握り、意を表明した。
粋は必ず連れ戻す。そして、また前みたいに同じ時をすごして笑いあおう。そんな気持ちも込めて。
「そう……だったら、さっさと行ってきなさい!」
「僕達は、応援してるから」
「また、一緒に学校に行こう」
三人の笑顔を見て嬉しくなった勝は、もう一度笑顔を見せてから再び自転車に乗り、街へと向かった。
「勝って、帰ってきなさいよ……!」

―2011年1月16日日曜日午後2時48分―

「ハァ、ハァ、ハァ……!」
「くっ……!」
「………………!!」
ヴィザリオンは激しい戦闘によって体力を削られていき、神星獣牙やオーガガーディアンは各部に戦闘に支障をきたすような異常が起き始めていた。
「そろそろ閉めだな……!」
ヴィザリオンたちの姿を見てゼイヴァは自分達の勝利を確信すると、ゆっくりと手を振り上げ、まだ数多く残っている神獣・神機達をスタンバイさせる。
「くっそぉ……!」
「これで、今度こそ……終わりだ!」
ゼイヴァが笑みを浮かべて手を振り下ろそうとしたその瞬間、
「待てえぇっ!!」
「っ!?」
突如叫び声が響き渡り、その手を止めてしまった。
「なっ……!?」
叫び声の主は、勝だった。
勝が、道路の真ん中に仁王立ちしてゼイヴァを思い切りにらんでいた。
「これ以上、お前達の好きにはさせない!!」
勝はゼイヴァに向かって思い切り指を差し、ビシッとポーズを決めてみせる。それが、自信の表れであるかのように。
「勝! てめえ、帰ってくるのが遅いぞ!!」
そんな勝に向かってヴィザリオンに搭乗している富士が怒りの言葉を放った。
「すみません、指揮!」
「謝んのは後でいい! それより、ヴィザリオンをお前に返すぞ!」
「はい!」
勝は急いでヴィザリオンの元へと向かおうとする。
「させるか!」
それを阻止しようとゼイヴァが神機を向かわせるが、
「っ!?」
「ここから先は、絶対に通さない!」
「くっ……!」
神星獣牙やオーガガーディアンが体を張って逆に神機を阻止する。

その間に勝がヴィザリオンへと到達し、富士がヴィザリオンから降りて勝を待っていた。
「指揮!」
「ったく、お前がいつでも帰ってきていいように、って代理長官……霧山副官が言うから、やりづらくて仕方なかったぜ?」
富士はそう言いながらも笑顔でヴィクトリーコマンダーを勝に渡す。
「副官が……」
「ともかく、帰ってきたからには絶対に勝てよ。俺達はそれを信じてるからな」
「はい!」
勝は自信に満ちた表情で答えると、ヴィクトリーコマンダーを装着してヴィクトリーへと変身し、ヴィザリオンに乗り込んだ。

「待たせたな、神星獣牙! オーガガーディアン!」
「ヴィザリオン……!」
「お待ちしていましたよ!」
神星獣牙とオーガガーディアンは神機達の相手をしているせいで振り向けなかったものの、嬉々とした声で勝ことヴィザリオンを受け入れた。
「ちっ……!」
「ゼイヴァ! お前の企みもここまでだ!」
「フン、やられるのは貴様達の方だ。この軍勢に勝てると思っているのか?」
ゼイヴァの言葉は、決して虚勢ではなかった。
ヴィザリオン側は全員で三人。対してゼイヴァの神獣・神機達は、数を減らされているとはいっても、いまだに十体以上は存在している。しかも、ヴィザリオン側は勝を除いて全員のボディにダメージが見受けられる。
「例え不利な状況だろうと……例え、目の前の道が暗闇だろうと……俺は、俺の手で勝利を、光をつかむ!!」
しかし、それでも勝は決して弱気にはならなかった。大切な人のために、自分の勝利を信じ、必ずあるはずの光を手にするため。
「っ!?」
その時、何か獣が発したような咆哮があたりにとどろいた。
「あれは!?」
全員が一斉にその咆哮が聞こえた方を振り向くと、そこには銀色に輝く竜の姿があった。竜が自身の翼を羽ばたかせながら、こちらに向かってきている。
『何とか間に合ったようだね』
それと同時に、霧山から通信が入ってきた。
「副官!?」
『今は代理長官だけどね。それより、今そっちに銀色の竜がたどり着いたはずだよ』
「あれは何ですか?」
『あれこそが、ヴィクトリーウェポンNo.5、アーチェリーバハムート』
その名を聞いて、ヴィザリオンはもう一度銀の竜を確認した。
左右に大きく伸びた翼、鋭さを表しているようなシャープなボディ、太陽の光を受けて銀色に輝く全身。そのどれもが、今のヴィザリオンにとっては頼もしく見えた。
『キーワードは転送済みだよ。あとはそれで、勝利をつかむんだ!』
「了解!!」
ヴィザリオンは霧山の言葉に力強く答えると構えを取り、
「モードチェンジッ! アーチェリーバハムート!!」
その左腕を思い切り空に向かって突き出した。

銀色の竜はヴィザリオンのキーワードを受信すると、その姿を変形させ始める。
竜は一度大きく咆哮し、その身を一直線に伸ばす。
そして、両腕両脚を折りたたんで収納し、翼を左右に大きく広げると、その姿は名が表す様に弓となっていた。
変形が完了すると、ヴィザリオンはその弓を左腕に装着し、
「アーチェリィィッ! ヴィッ!! ザリッ!! オォォォォォンン!!!」
思い切り振るった後改めて前方に向かって構えを取った。

「……いくら新たな武装を手にしようと、この状況を返す事は出来ない!」
「それはどうかな?」
ゼイヴァの言葉に、不敵な言葉を返す神星獣牙。
「何……!?」
「我々は、いくら逆境であろうと常に勝利へ向かう事が出来た」
同じ様にオーガガーディアンも自信にあふれた言葉を返す。
「そう……俺達は勝利する。俺達だから!!」
ヴィザリオンがそう言い放つと同時に神星獣牙とオーガガーディアンは一斉に神機を押しのけた。
「フォーメーション、トゥストレイト!!」
「了解!!」
「了解……!!」
それと同時にヴィザリオンが号令をかけ、二人が行動に移った。
「何をするつもりか知らないが、貴様らに勝機はない!」
ゼイヴァはそう言って三人に向かって神獣・神機を放つ。
「バハムートアーチェリーの力、その目に焼き付けろ!」
だが、ヴィザリオンは迫ってくる神獣・神機達に全く動じることなく、バハムートアーチェリーを構え、
「シャイニングッ、バハムゥゥゥゥゥトォッ!!」
神獣・神機達に向かってエネルギーの矢を放った。エネルギーの矢は途中で上下に広がって竜の姿を作り出し、神獣・神機達を襲う。
先頭にいた神獣がまともにエネルギーの矢を受けてしまい、後方へと吹き飛ぶ。しかも、後を追っていた神獣・神機がそれに巻き込まれて共に吹き飛んでしまっている。
「こっちも、おとなしくしてもらう!」
それに続くように神星獣牙が残像を発生させながら、追いかけてきた神獣・神機達に向かって走り出し、
「幻っ!!」
次から次へと神獣・神機達を斬りつけると同時に思い切り吹き飛ばした。
「…………!!」
ほぼ同じ時、オーガガーディアンもまた神獣・神機達に向かって攻撃を繰り出していた。
「第四層、叫喚地獄・閃(ひらめき)!!」
オーガガーディアンがかけ声と共に剣を神獣・神機達に向かって思い切り突き出す。
神獣・神機達は同時に三段突きを受け、派手に吹き飛ぶ。
「何をしている! 何故消耗した者を相手にそんなに苦戦する!?」
ゼイヴァが喝を入れると神獣・神機達がゆっくりと起き上がって再び攻撃に転じようとする。
「残念だが、もう遅い」
「っ!?」
しかし、そこへ神星獣牙が意味の分からない言葉を発したため、全員の動きが一瞬止まった。
「表面上は冷静さを装っていても、我々の作戦に気づかないほど焦っていたようだな」
「な、何だと……っ!?」
オーガガーディアンに図星をさされてゼイヴァは初めてその焦りの感情を表し、そして気づいた。神獣・神機達がヴィザリオンから見てほぼ縦一直線上に並んでいる事を。
「これで、終わりだ!!」
ヴィザリオンがそう言ってバハムートアーチェリーを構え、攻撃の態勢となる。
「バハムートアーチェリーッ!!」
「くっ……!」
ゼイヴァは慌てて神獣・神機達を回避させようとするが、自分が思っていたよりも焦りが大きかったらしく、神獣・神機達がスムーズに動いてくれない。
その間にもヴィザリオンのバハムートアーチェリーがエネルギーを収束させ、弧となっている翼が引き絞られるようにゆっくりと閉じられていく。
そして、次の瞬間、
「バハムートッ、プロミネエェェェェェンスゥッ!!!」
バハムートアーチェリーの翼が一瞬で開くと同時にエネルギーの矢が放たれた!!
エネルギーの矢は全ての神獣・神機達を一瞬で貫き、
「瞬けえぇぇぇぇぇ!!」
一気に爆発、四散させた。
「そ、そんな、馬鹿な事が……!?」
ゼイヴァは愕然としながら、その場から消えた。
「俺達の……勝利だ!!」
いつもの様に、しかし改めてヴィザリオンは決め台詞を口にした。言葉の一つ一つを、かみ締めるように。

―2011年1月16日日曜日午後3時15分―

「戻ってきてくれたんですね、勝隊長」
「ああ。迷惑をかけて悪かったな」
戦闘終了後、勝は神威達と改めて言葉を交わした。
「とんでもないです! 隊長がいない間、私達が必死になって守っていましたから!」
「はは、ありがとうな、オーガディフェンダー」
勝は小さく笑いながらオーガディフェンダーに礼を言った後、ふと空を見上げた。
空には雲ひとつなく、澄み切った青が広がっている。
(粋……俺はもう、逃げ出したりしない……! 君を助け出して、また一緒に……!)
そして、その空に向かって、勝は改めて自分の中に誓いを立てた。大切な人を、連れ戻すために……

To be continued…


Next preview

行くぞぉっ!!

創生神ライヴァスが復活し、再び最大の危機を迎えようとしている地球。
そして、対峙するヴィザリオンと狼影、勝と慎。
互いに相容れぬ思いを抱きながら、二人は戦う。己の大切なもののために。
ただひたすら、自分の勝利と光の未来を信じる勝。
迷いながらも、それでも神のために尽くそうとする慎。
運命が味方するのは、果たしてどちらなのだろうか……?

勝利勇者ヴィザリオン 第18話「君への言葉」

もう一度、会えるって……信じてた……!

初回公開日:2005年1月2日

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です