第16話「大切なもの」


―2010年10月20日水曜日午後1時20分―

秋田県のとある町外れ。
そこには、畑や野山に混じっていくつもの一軒家が建っていた。
その中の一つ、藍色の瓦屋根を持つ家の前に、青いジャケットを羽織った少年が立っていた。

「………………」

少年はどこか浮かなく、それでも何かを決意したような表情をして目の前の一軒家を眺めていた。
しばらくして、ゆっくりとチャイムに指を伸ばし、

押した。

「はい」

数秒の後、中年女性がドアから顔をのぞかせた。

「っ……!」

その直後、女性は勝の顔を見て非常に驚いた表情を見せた。目の前の光景を信じる事ができないような表情で。

「ただいま……」

勝はその女性に向かって、少しぎこちないような笑顔でそう言った。

「勝……」

「母さん……」


第16話「大切なもの」

―2011年1月10日月曜日午前8時22分―

「おっはよー!」
流沢スクール第一教室の後ろのドアを勢いよく開けて、菜摘が教室に入ってきた。
「おはよう、菜摘ちゃん」
「おはよ、粋。っと……」
粋と軽く挨拶を交わすと、菜摘は急にきょろきょろと誰かを探すように教室を見渡した。
「……半ば予想してたけど、ね。まったく、勝はいったいどこに行ったのよ?」
探してた人物が、勝がいないと認識すると、菜摘はあきれたようにため息をついた。
「仕方ないよ。きっと、勝くんにも事情が……」
「……粋、この際だからはっきり言っておくわ」
粋が困ったような笑顔で答えると、それを静止して菜摘が真剣な表情で粋を見据え、こう言った。
「粋、あなたは自分の気持ちを押し殺しすぎよ。何か不満があるならはっきり言いなさい。もっとわがままになりなさい。自分の気持ちに素直になりなさい」
「な、菜摘ちゃん……?」
「今回だってそうよ。勝が突然いなくなったのに、よくそんな無理して作り笑いができるわね。というか、無理しないでよ。逆に粋の事を心配しちゃうじゃないの」
菜摘の声がだんだんと震えてくる。
「辛かったら泣いていいのよ。憤りがあるんだったら怒っていいのよ。私は、粋の一番の親友なんだから。私ぐらいには素直な気持ちを見せなさいよ」
見ると、菜摘は眼に涙を浮かべていた。普段なら絶対に泣くような事のない、あの菜摘が、である。
「菜摘ちゃん……」
「ね、粋?」
「うん……ごめんね、菜摘ちゃん……」
気が付けば、粋も涙を浮かべていた。いや、既に涙は頬を伝い落ちていた。
そんな粋を菜摘は優しく抱きしめ、頭を優しく叩く。
「ほら、素直な気持ちを言ってごらんなさいよ」
「うぅっ……は、早く、勝、くん、戻ってきて……ぐすっ」
「よく、言えました……」
菜摘はそういって、笑顔で再び粋の頭をぽんぽんと叩いた。

「………………」
そして、その二人の事を慎は複雑な表情で見つめていた。
(……これで、よかったんだ。これで……)
慎は、アルディアは自分に言い聞かせるように何度も同じ言葉を心の中で繰り返した。

―2011年1月11日火曜日午前11時1分―

街中に爆音が響き渡る。
それと同時にビルの合間から神獣ライトゥスが抜け出し、両腕のキャノン砲を勇者達に向かって撃った。
「はっ!!」
「ッ!!」
だが、撃ちだされた弾を神星獣牙とオーガガーディアンがそれぞれの刀と剣で切り裂き、無力化する。
「ちいぃっ!」
「遅い!!」
ライトゥスが体勢を立て直して再度攻撃を仕掛けようとした瞬間、二人は一瞬でライトゥスに近づくと、
「牙っ! 砕、斬っ!!」
「第五層、大叫喚地獄っ!!」
神星獣牙はその刀の峰に手を添えながら薙ぎをいれ、オーガガーディアンは五段突きを目にも留まらぬ速さで繰り出した。
「があぁぁぁぁっ!?」
「西方を護るは白虎なり……!」
二人の素早さにライトゥスは当然ながらついていけず、まともに二人の同時攻撃を受けてしまい、完全にバランスを崩す。
「今です、ヴィザリオン!!」
「悪くないな、行くぜ!!」
そこへ、後方待機していたヴィザリオンが抱えていたユニコーンキャノンを構えなおし、
「ユニコーンキャノンッ!!」
ユニコーンキャノンにエネルギーを充填し、
「ユニコーン、バニイィィッシュッ!!!」
ライトゥスに向かってエネルギーを撃ち出した!!
「ぐあああぁぁぁぁぁぁっ!!」
ライトゥスは一瞬にしてエネルギーに飲み込まれ、
そのままボディを消滅させられた。
「任務、完了」

―2011年1月11日火曜日午前11時18分―

「こちらヴィザリオン。任務は完了した。すぐに戻るからよろしく」
『了解しました』
「ふぅ……」
軽い報告を終了させると、ヴィザリオンは小さくため息をついた。
「さて、帰りながら今日の反省でもするか、神威、オーガチーム」
「承知しています、ヴィザ……もとい、富士指揮官」
神威はヴィザリオンを本名で呼んだ。

勝がVESから消息を絶ち、峯島が謎の襲撃を受けてから数ヶ月が経っていた。
撃たれた峯島は奇跡的に急所を外れていたため、全治3ヶ月の負傷ですんだ。だが、それまでの間は病院での絶対安静が必要なため、VESでは急遽臨時体制が敷かれる事となった。
まず、峯島の代理として副官である霧山が代理長官となり、全体の指揮を執る事となった。
そして、消息を絶った勝の代わりに、指揮官である富士がヴィザリオンに搭乗する事になった。VESでヴィザリオンに搭乗可能なのは、勝以外には富士しか存在しなかったためである。
それに、富士が搭乗した事により、現場での指揮が可能となり、勇者達がより俊敏に動けるようになった。
結果、その後現れ続けた神獣・神機を見事なまでに撃破し続けた。

「神威、今回は砲撃戦を得意とした相手だったとはいえ、懐に入ってからの隙が大きかった」
勇者達は帰路につきながら今回の反省を行っている。
「おかげで接近した時に何発かもらっただろ?」
「すみません……」
「謝るんじゃなくて、これをしっかりと反省して次に活かせよ」
「はい」
神威はしっかりとうなずいて意を表した。
「オーガチームはまた瞬発力と攻撃に頼りすぎだ。常に2歩3歩先を考えて行動しろ」
「了解です!」
オーガディフェンダーが代表して返事をする。
「帰って一休みしたら神威はいつものようにパトロール、オーガチームは俺とトレーニングだ」
『了解(しました)!』
全員の威勢のいい返事が返ってきた。
(ったく、現場での指揮も楽じゃねえぜ……)
富士は心の中で小さくため息をついた。
(今の状態も悪くはないが、適切な指示を出しながらの戦闘はどうも冷静になれないな……)
現場での戦闘指揮は、確かに俊敏に活動が可能にはなるが、その分相手の情報や地形の利、冷静かつ真に的確な判断は乏しくなりがちとなっている。
その分を司令室のバックアップで何とかまかなってはいるが、やはり以前の方がわずかではあるが軍配が上がる。
(ちっ……早く戻って来いよな、勝!)
富士は、ヴィザリオンの中から空を見上げた。
冬の空は、とても澄んでいた。

―2011年1月11日火曜日午後3時26分―

秋田県のとある町外れにたった一軒しかないコンビニ。
「ありがとうございましたー」
そのコンビニのカウンタで、勝は商品を買っていったお客に笑顔を振りまいていた。
とは言っても、町外れのコンビニだ。客の出入りは都会のそれよりもはるかに少なく、1時間に出入りするのは十数人といったところだ。現に、さっきのお客が出て行って店内にお客はいなくなった。
「ふぅ……」
勝は小さくため息をつき、ガラス張りのウインドウから外を眺めた。
すでに収穫の時期を過ぎて何の作物も無い水田、遠くに見える雲がかかった山々。海上区とはまた違った自然の風景に和んでいた。
そこへ、赤ちゃん連れの若い女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ……あ、」
「あら、あなたは……」
勝がいつものように挨拶をしてふとその女性の顔を見て、思わず変な声を上げてしまった。
「秋原さん」
「あの時の仲良し五人組のお一人さん」
勝とその女性、秋原の声が重なる。二人は以前に海上区の病院で知り合った仲だ。お互いにまさかこんな所で会うとは思っておらず、共に驚いた表情を見せている。
「どうしてここに……」
「あっ、私は、陽輔さんがこの近くに転勤になって、今はここに住んでるんです」
「陽輔さん……?」
「はい。私の大切な夫です」
「はぁ……」
こんな偶然もあるものなんだと一人で納得する勝。
「あなたは……そう言えば、あの時に名前を聞いていませんでしたね。お名前は何でしょう?」
「翼守勝です」
「では、翼守さん、でいいですね」
秋原はにこやかな笑顔でポンと手を打った。
「翼守さんは、どうしてあの時病院にいたんですか?」
「はい?」
明らかに間違っている質問に、勝は素っ頓狂な声を出してしまう。
「ああ、間違えました。えっと、どうしてこんな所にいるんですか?」
「えっと……」
秋原のペースにすっかり飲み込まれ、勝は少しばかり答えに窮してしまう。
もっとも、答えに窮しているのはそれだけではないが。
「ん……まあ、秋原さんと同じ様なものですよ」
「そうですか。大変ですね、学生さんなのに」
「はは……」
勝は苦笑するしかなかった。
「……翼守さん、」
「はい?」
そこへ、突然秋原が少し疑問の表情を浮かべてこう尋ねた。
「何か、辛い事でもあったんですか?」
「っ……!」
秋原の言葉に勝はわずかに顔をしかめた。
どんなに時を経ても、あの時に投げ出して失ったものを埋めるものは出てこない。それが表情のわずかな違いとなって出てきていたのである。
「今の翼守さん、どこか悲しそうな顔をしています。病院の時は、もっと生き生きとしてましたよね?」
「それは……他の患者の人が、病気で顔色が悪くなっていて、その対比でそう見えたんじゃないんですか……?」
「そうですか?」
う~ん、と小首をかしげる秋原。こうして見ていると、とても一児の母とは思えないほど仕草が幼い。
「でも、辛い時や悲しい時は我慢しない方がいいですよ。我慢しても、何もいい事がありませんから」
「………………」
かと思うと、急に大人らしい一面も見せる。もしかしたら、普段の雰囲気も全て演じているのではないかと思うくらいに。
「私は、陽輔さんがいてくれたから、色々と頑張れたんですよ」
秋原は少し緩んだような笑顔を見せた。頬もわずかばかり赤みがさしているようにも見える。
「幸せ、なんですね、秋原さんは」
「幸せで悪い事はありませんよ」
にっこりと微笑む秋原。つられて、勝も笑顔になった。

―2011年1月11日火曜日午後7時45分―

「ただいま……」
「お帰りなさい」
少しばかり落ち込んだ声の勝を、母親である良子(りょうこ)が明るい声で出迎えた。
『……次のニュースです。海上区にまたしても未確認生命体が出現しました』
そこへ、つけっ放しになっていたテレビのニュースが勝の耳に入ってくる。
勝は思わず反応してテレビの画面を見ると、そこにはライトゥスと戦うヴィザリオン達の姿があった。
「………………」
『未確認生命体の出現の直後にVESが出動し、破壊活動を阻止しました。この戦闘による被害は一千万円に上ると思われます』
ニュースキャスターの伝える事にただ耳を傾けるばかりの勝だが、その表情はどこか悲しげである。
「勝……」
「……いいんだ、別に」
そんな表情をしていた勝を心配して良子が声を掛けるが、勝は無理に笑顔を作ってごまかした。
「俺の戦いは、終わったんだ……」

―2011年1月11日火曜日とある時刻―

聖なる宮殿ゴッドパレス。
「もうすぐライヴァス様の傷が完全に癒える」
「そうか……」
「いよいよだな」
アルディアの発した言葉に、ゼイヴァとブレイグが喜びの表情を浮かべた。
「ならば、今の内にあの地区の人間だけでも淘汰しないか? あの地区は元々ライヴァス様が最も新しく生み出した場所だからな」
「あの地区?」
「人間が海上区と呼んでいた地区だ」
「っ!?」
海上区という単語を聞いて、思わずアルディアは反応してしまった。
「どうした、アルディア?」
「……まさかとは思うが、お前……」
「い、いや、何でもないよ」
そうは言うものの、二人の視線が突き刺さってくる。
「だ、だけど、あそこを制圧するには、まずヴィザリオン達をどうにかしなければならないんじゃないの?」
「それならば問題は無い。私の神機をあの地区以外の別の場所で暴れさせる。奴らがそっちで戦っている間に、我々が一気に淘汰する」
「………………」
「それが一番だろうな。よし、俺は早速準備に取り掛かろう。お前達も早くしろよ」
ブレイグはそう言うと足早に去っていった。
「……アルディア」
ブレイグの姿が完全に見えなくなった所で、ゼイヴァがアルディアに話しかける。
「お前が何を思ってるのかは知らないが、どんな事があろうとも、私達はお前の仲間だ。何かあったら私達に言え」
「うん……」
「それと、先程話した作戦は地球時間で三日後に遂行する。覚えておけ」
「うん……」
生返事をして、アルディアもどこかへと去っていった。
「………………」
そのアルディアの背を、ゼイヴァは無表情で見つめていた。

―2011年1月14日金曜日午前10時26分―

流沢スクールの脇にある花壇。そこで、粋がいつもの日課である花壇の手入れを行っていた。
しかし、その場に勝の姿はなく、代わりに慎がただじっと粋の後ろ姿を見つめている。
「………………」
「……うん、これでいいかな」
粋はそう言ってつい今しがたまで手入れしていた花壇を見る。そこには点々と緑が生えているだけであり、どこか寂れているようにも見える。冬だからという事もあるが、まるで花壇が粋の心をそのまま映しているようでもあった。
「……君は、」
そんな粋に向かって、慎が思わず口を開く。
「君は、辛くないの? 彼がいない事が……」
「……辛い、よ……勝くんがいないだけで、胸に穴が開いちゃったようだから……だから、この前、恥ずかしい事だけど、泣いちゃった……」
「………………」
真の表情が曇る。
「でも、それでも、私は信じてる」
「信じてる……?」
「勝くんは、必ず戻ってくる、って。だから、それまで笑顔は忘れないでいよう、って」
「笑顔……」
その時であった。
「っ!?」
「なっ……!?」
突如遠方から爆音が響き、街が黒煙を上げていた。
「な、何、一体……?」
「早すぎる……予定だとあと2時間は……!」
粋はその光景にただ驚愕し、慎は顔をしかめている。
さらに、それだけではなかった。
「!!」
黒煙の上がっている街から、何かがこちらに迫ってきた。
「あ、あれって……!」
迫ってきたものを見て、粋は再び驚愕した。
それは、かつて勝、ヴィザリオン達が倒したはずの神獣・神機達だったのだ。
「っ! 危ない!」
「きゃあっ!?」
突然、慎が粋を抱えて思い切り跳躍した。
その直後、先程まで粋や慎がいた花壇にエネルギー弾が着弾し、爆発を引き起こした。
「くっ、狼影!」
慎は粋を抱えて跳躍したまま、狼影の名を呼ぶ。すると、虚空から黒い人型のロボット、狼影が現れた。
「装神合身!!」
慎がキーワードを口にすると、慎と粋が狼影の中に吸い込まれて一体となる。
「彼女は……大丈夫か……」
一緒に吸い込まれた粋を見やると、粋は怪我はしていないものの、先程の衝撃のせいか気絶していた。
(何をやってるんだ、僕は……だけど、僕は僕を止められない。いや、止めたくない!)
「これじゃただの無差別攻撃だ! 人間以外の生き物まで巻き添えにしてどうするんだ!」
慎は、アルディアは怒りをあらわにし、背負っていた二振りの剣を抜いて構えると、
「このおっ!!」
神獣や神機の群れに向かって突撃した。

―2011年1月14日金曜日午前10時39分―

一方、海上区の街中では。
「でえぇぇぇいっ!!」
ヴィザリオン達がいつも以上に動き回って次々と神獣や神機を撃破していた。
「くそ、こんなきりが無いのはいつ以来だ!?」
「私達は初めてですよ!」
しかし、今までにないほどの大量の神獣や神機を目の当たりにして苦戦していた。
「どうだ! いくらお前達といえども、この数では敵うまい!」
「うるせぇ! どうせ使い回ししかないんだ! だったら、今までの戦闘データがありゃ負けねえ!」
「フン……」
ビルの上から見下ろすブレイグとゼイヴァに向かって、ヴィザリオンは敵をなぎ払いながら言い返す。しかし、状況が好転していない以上、それはブレイグとゼイヴァにとって虚勢にしか見えなかった。
「くそっ!」
そして、それはヴィザリオン達にとってもその場しのぎでしかなかった。

「第三層、衆合地獄っ!!」
オーガガーディアンが目の前の神獣に向かって剣を思い切り突き出した。
剣は神獣の中心を貫き、神獣を爆発させる。
「これで終わりではない……!」
続けてオーガガーディアンは大群に向かって剣を構えると、
「裏最終層……阿鼻地獄っ!!」
その場から一瞬にして消えた。
次の瞬間、神獣・神機達が次々と激しい衝撃に襲われ、いくつにも切り裂かれて爆発することなく倒されていった。
「………………」
そして、その倒された大群の延長線上にオーガガーディアンはいつの間にか立っており、死屍累々となっている大群を眺めていた。
「まだ終わりじゃないぜぇっ!!」
「っ……!」
だが、それもつかの間、休む暇も与えられず次から次へと神獣・神機達が襲い掛かってくる。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!?」
しかし、そのうちの一体が突如疾風によって切り裂かれ、爆発四散する。
「助かった、神星獣牙」
疾風の正体は、刀を持った神星獣牙だった。
「当然の事をしたまでです。それより、こう数が多かったら、攻撃後の隙はなくさなければいけません」
「承知……!」
オーガガーディアンが答えると同時に、二人が一斉に攻撃を再開する。
「まとめて……砕く!!」
神星獣牙は刀を一度鞘に戻し、代わりに盾を取り出した。
「爆裂破っ!!」
その盾を神星獣牙は神獣・神機の大群に向かって投げつける。
盾は回転しながら大群に向かって飛び、神獣・神機達を次々と切り裂いた。
「北方を護るは玄武なり……!」
戻ってきた盾をキャッチし、神星獣牙は再び刀を抜いて構える。
「ヴィザリオン!」
「おぉっしゃあ! 連携パターンBだ、オーガガーディアン!!」
「了解……!」
神星獣牙のかけ声が起爆となって、ヴィザリオンとオーガガーディアンが一斉に動き出し、神星獣牙も駆け出した。
「行くぞ!」
最初に仕掛けたのは、神星獣牙だった。
「重連、空っ!!」
神星獣牙は左右に勢いよく跳躍しながら刀を思い切り振るい、無数の真空の刃を放つ。
ズバアァッ! ズバアァッ! ズバアァッ!
真空の刃が神獣・神機の大群を切り刻むその間に、
「第六層……焦熱地獄・連(つらなり)!!」
オーガガーディアンが次から次へと神獣や神機達の目の前に現れては叩き切り、
「バアァァニングッ、フェニイィィィィックスゥッ!!」
「おぉりゃあぁぁぁっ!!」
そして止めと言わんばかりにヴィザリオンが大群を次々と両断していった。
「果たして、そんな攻撃がいつまで続くかな……?」
そんな三人の姿をゼイヴァは相変わらず余裕で見下ろしていた。
「っ……?」
と、その時であった。
「あれは……!」
遠方の空から、黒い影がこちらに迫ってくるのが全員の目に留まった。
「狼影……アルディアか」
黒い影の正体、狼影に最初に気づいたのはゼイヴァだった。
「ちっ、こんな時に!」
「………………」
狼影は少し遅いスピードでヴィザリオン達の元へと近づく。
「ただでさえ大群をぶつけているのに、ここにきて増援か!? なんとも卑怯だな!」
ヴィザリオンは神獣・神機達を撃破しながら、憎まれ口にも近い言葉を狼影に向かって吐いたが、狼影は無反応のままヴィザリオン達ともゼイヴァ達ともやや離れた位置で静止した。
「………………」
「どうした、かかってこいよ! 俺はあの時みたいにやられたりはしないぜ!」
「…………僕は、」
アルディアがようやく口を開いたかと思うと、次の瞬間には思いがけぬ事を口にした。
「僕は、人質を預かっている……」
「なっ!?」
「何だと!?」
ヴィザリオン達は一斉に驚き、思わず手を止めてしまう。
「アルディア……?」
それは、ゼイヴァ達も同じだった。
「もう一度、言う……。僕は、人質を預かっている。僕にむやみに攻撃すれば、人質も怪我する事になる」
「くっ……!」
「本当に、どこまでも卑怯な奴らだな……!」
ヴィザリオン達が狼影をにらむ。狼影は相変わらず静止したままだ。
「アルディア、よくやった! これならば、奴らはこっちに手を出す事は出来ない! 今の内に……」
「だが、僕に危害を加えない限りは、他は何をしても人質が無事でいられるという事は保障する!」
「何っ!?」
再びヴィザリオン達やゼイヴァ達が驚く。
その間に狼影はその場から飛び去っていった。
「な……」
「何なんだ、一体……?」
狼影が人質をとっているという事は、その人質を盾にして一方的な攻撃をする事が、卑怯でありながらも最も有効な手段である。しかし、アルディアはどういうわけかその手段をとらなかったのだ。
彼らの目的は、全人類の淘汰である。そして、その目的を阻んでいるのが、ヴィザリオン達なのである。そのヴィザリオン達を倒すと同時に海上区の人達を淘汰ために、今回の作戦が行われている。それをいち早く終わらせるためにも、上の方法は有効だったはずだ。
「何を考えている……アルディア……」
ゼイヴァは狼影の去っていた方向をじっとにらみながら、誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいた。

―2011年1月14日金曜日とある時刻―

「ん……」
粋は、自分が横たわっているひんやりとする床の冷たさで目を覚ました。
「目が、覚めたんだね」
「え……?」
突然声を掛けられて、粋はまだはっきりとしない意識の中で、その声の主を探し出すために声の聞こえた方を振り向いた。
そこには、マントを羽織った少年が、少し悲しそうな、嬉しそうな、複雑な表情を浮かべて立っていた。
「あな、たは……?」
「創生神ライヴァス様に仕える神の三天衆が一人、心の使徒アルディア」
少年、アルディアは自己紹介をして軽く会釈する。
「もっとも、君には……」
「え……?」
「明智慎、と名乗った方がよかったかな?」
「っ!?」
そこで粋は意識が完全に覚醒した。
目の前に立っている少年、それは紛れもなく自分がよく知る人物、明智慎だった。
「慎くん……何で……?」
「これが本当の僕なんだ。明智慎は、本当は存在しない」
「嘘……!?」
粋は驚いた表情のまま慎を、アルディアを見つめる。
「本当だ。そして、今君は不本意ながら僕達の人質だ」
「えっ……?」
そう言われて粋は慌てて周りを見回した。
青白い床に青白い柱、そして遠くには闇と今までに見た事も無い場所に、自分とアルディアは存在している。
「こ、ここは……?」
「ここは聖なる宮殿ゴッドパレス。ライヴァス様が眠る場所であり、僕達の本拠地でもある」
「何で私、こんな所に……?」
「地球時間で数時間ほど前、流沢スクールが襲撃されて、その時に君は気を失った。仕方なく僕はここまで連れてきた」
「スクールが!? ね、ねえ、スクールはどうなったの!? みんなは!? みんなは無事なの!?」
アルディアの言葉に再び驚いた粋が、慌ててスクールがどうなったか、スクールのみんなが無事かたずねた。スクールには自分の大切な人達がいる。そして、何よりスクールは自分の、そして勝の帰るべき場所でもある。そのスクールがなくなっていたら、みんながいなかったら……
「安心して。スクールもみんなも無事だよ」
「よ、よかった……」
粋は安心して脱力する。
(安心して、か……何で僕は……)
そんな粋の姿を見て、そして自分が発した言葉を思い返して、アルディアは複雑な気持ちだった。
自分は、自分達は人々を淘汰するのが目的である。それなのに、自分は今、いや、つい先程スクールの危機を救い、スクールの皆を守り、それを喜びとして感じている。
(僕は、これからどうすればいいんだ……?)
アルディアは粋に悟られないように小さくため息をつき、天井を見上げた。
そこには、ただ闇が広がっているだけだった……

To be continued…


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大切なのは、何のために何をするか、自分に正直になることです。

粋が人質にされているという事実を聞かされた勝。
だが勝は、自分は戦いの場から退いた身という事と、粋を助けたいという事との間で葛藤する。
今、自分に出来る事は何なのか?
今、自分がやらなければいけない事は何なのか?
今、自分は何をしたいのか?
答えは、既に彼の中にあるのかもしれない。

勝利勇者ヴィザリオン 第17話「戦う理由」

俺は、俺の手で勝利を、光をつかむ!!

初回公開日:2004年11月8日

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