第15話「真実」


―2010年10月17日日曜日とある時刻―

聖なる宮殿ゴッドパレス。
アルディアは何もない空間の中で、目の前にある四角い画面を見つめながら、手元をせわしなく動かしていた。

「ふぅ……」

しばらくして、アルディアはその手を止め、改めて目の前の画面を見直した。

「これが完成すれば、彼らを打ち倒す事ができる。そうすれば……」

ふと、アルディアの脳裏に粋をはじめとする五人の顔がよぎる。

「……そうすれば、終わりに向かう事ができる……」

もの悲しげにつぶやいた。
表情も、どこか浮かない。

―何をためらっている?

―ためらってなど、いない。

―何を苦しんでいる?

―苦しんでなど、いない。

―何を、泣いている?

―………………

気が付いたら、涙を流していた。


第15話「真実」

「父さん、母さん、どこにいるんだ……!?」
少年は、傷ついた体を引きずりながら炎にまみれた街中をさ迷い歩いていた。
はぐれてしまった両親を探し求めて。
「っ!?」
「うわあぁぁぁぁっ!!」
だが、それは突然襲い掛かってきた爆発によってはばまれてしまった。
少年は爆風に吹き飛ばされ、地面に激しく頭を打ち付けてしまい、そのまま気絶してしまう。

気がついた時、少年は見た事もない建物の中のベッドの上にいた。
そこで、少年は聞きたくなかった言葉を告げられてしまった。
「そんな……嘘だ!」
「嘘ではない。君の両親は死んだ。あの惨事だ、助かる可能性はまずない。君が生きているだけでも奇跡というものだ」
目の前にいる、30代後半と思われる見ず知らずの男から聞かされた事。その事を、少年は信じられずにいる。いや、信じようとしない。
自分の両親が死んだなど、嘘であるに決まっている。
「そんなの……俺は信じないぞ!」
「ならば、君の両親の死体を見るか? もっとも、大部分が激しく損傷していて原形をとどめていないがな」
「それじゃ、俺の親が死んだかどうかなんて……」
「その死体に、君と同じ苗字が書いてある免許証などがあった。翼守なんて苗字はそうそう無いからな」
「う……ぐ……!」
何とか言葉を返そうと思っても、返す事が出来ない。男の言葉には、説得力があった。そして、それに自分は納得しようとしている。
「悲しい事だが、これは現実だ。現実からは目をそらしてはいけない」
「う……うぅ……うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
少年は、大声をあげて泣いた。辛くて、悲しくて、痛くて、残酷で、泣いた。

―2010年10月19日火曜日午前2時13分―

「―――――っ!!」
勝は飛び起きた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
嫌な夢を見てしまった。
自分の過去。誰にも話していない、出来れば二度と思い出したくない過去。そして―
そして、峯島との出会いの過去。
「なんで、今更……」
何で今更、この事が夢に出てきたのだろうか…?
思い出したくもない過去だから、今の今まで忘れていた事だ。それこそ、自分の誕生日以上に。
「うっ!」
勝は、突如額に鋭い痛みを感じ、額を抑えた。
だが、手を見てみても、特に出血などはない。過去を思い出した事によって、体もあの時の痛みを思い出したのだろうか。
額に出来た、大きな傷痕。それは、勝にとって過去と共に封印したものだった。
この傷痕を見るたびに、あの時を思い出してしまう。だから、いつもバンダナで額を隠していた。
外すのは、風呂に入る時と寝ている時ぐらいで、その他の時は例え一人の時であってもつけていた。
「……くそ……!」
気分を紛らわせるため、勝は一旦ベッドから出て水を飲む事にした。

「………………」
その光景を、アルディアは遠方から眺めていた。
とは言っても、勝の部屋の窓にはカーテンがかかっており、物理的には眺める事が出来ない。
アルディアは、勝の心の声を聞き、その様子を声で見ていたのだ。
「……ユメは、見れたかな……? 悲しみの、ユメを……」
アルディアは勝に向けて、それでも、勝に聞こえないくらいの小さな声で、つぶやいた。

―2010年10月19日火曜日午後12時49分―

流沢スクールの屋上。
「はぁ……」
そこで、勝は本日二十度目のため息をついた。
夜に見た夢を拭い去る事ができずにいるのだ。
「勝くん……」
「ん?」
その時、勝は誰かに自分の名前を呼ばれたのを耳にし、その声が聞こえた方に振り向いた。
「粋……」
そこには、心配そうな表情を浮かべる粋が立っていた。
「どうしたの、勝くん? 朝からずっと元気がないようだったけど……」
「ん、まあ、ちょっとな……」
粋の質問にあいまいな答えを返す勝。
「……もしかして、この前の事、まだ……?」
「いや、それはもう解決したんだ」
粋が言うこの前の事とは、神威の事である。粋は、勝がその事をいまだに引きずっているのかと思ったのだ。
「それじゃ、何で……?」
「………………」
勝は黙り込んでしまった。
果たして、この事を粋に言うべきなのだろうか?
確かに、この前は粋のおかげで気分を持ち直せた。しかし、今回はその時とは比べ物にならない―そもそも比べる事が間違っているが―事なのである。
それに、下手に気遣わせるのは好きではないし、気遣ってもらうのも嫌だ。
「勝くん……?」
粋が心配そうな表情のまま、ゆっくりと勝に近づく。
「……粋……!」
「きゃっ!?」
勝は、思わず粋を抱きしめた。
「し、勝、くん……!?」
粋は何がなんだかわからずに、ただ顔を真っ赤にしてされるがままになっている。
「ごめん、粋……。だけど、しばらく、こうさせてくれないか……?」
勝の体は、震えていた。いや、体だけではない、声も、わずかに震えていた。
「勝、くん……?」
何があったのかはわからない。もしかしたら、自分は到底理解する事の出来ない事かもしれない。
だけど、勝はすごく辛そうにしている。そして、勝は今安心したいと思っている。
「……うん、わかった……」
だったら、自分は、今できる事をするだけだ。
粋は、勝の背中に手を回し、軽く頭に手を置いて、優しくなでた。
「大丈夫、だよ……。私が、そばにいるから……」
粋のその言葉は、勝にとってとても嬉しいものだった。

―2010年10月19日火曜日午後4時5分―

放課後、勝達五人は誕生日パーティーを行うために、粋の家へと向かっていた。
「さあ、今日は盛り上げるわよ!」
パーティーを始めるのはまだ数時間先の事なのに、今からテンションが上がっている菜摘。
「慎は誘わなかったの?」
「慎君は、用があって来れないって言ってたよ」
「そうなんだ」
「仕方ないさ。あいつにはあいつの事情がある」
「そうよ。だから、彼の分まで盛り上げましょ!」
菜摘のテンションの高さに全員が苦笑する。
「!」
その時、勝は腕につけているヴィクトリーコマンダーから振動を感じ、あわててヴィクトリーコマンダーを押さえた。
「勝くん?」
粋はそんな勝の行動を見逃しておらず、勝を悲しげな表情で見つめる。
「ごめん……だけど、すぐに戻ってくる」
「当然よ。今日は粋の誕生日なんだから」
勝は菜摘の言葉にうなずくと、すぐさま走り出して去っていった。
(……勝、くん……)
いつもの光景、いつもの事なのに、粋は今回に限っていつも以上の不安を感じずにはいられなかった。
何故だかわからない。何故だかわからないが、今回はいつもと違う。それに、勝も、今日はいつもと違っていた。いつものような落ち着きが見られない。
もしかしたら……
(そんな事、ないよね……?)

―2010年10月19日火曜日午後4時22分―

東京都渋谷区。
大小さまざまなビルや建物が立ち並ぶその場所に、黒いロボットがたたずんでいた。
黒いロボットは右肩に狼の頭をアーマーとして装備しており、背中には二振りの剣を携えている。
「………………」
そして、その黒いロボットの上に、一人の少年が立っていた。
少年の名は、アルディアという。
アルディアは、つい先程日本のあらゆる通信回線を独自の方法で占領し、VESに通信を入れていた。
「ヴィザリオン単独でこの国の時刻で午後4時30分にこの場に来い。もしその約束が守られなかった場合、この街を破壊し、人類を抹殺する」と。
向こうはこれが明らかに罠だと理解しているだろう。しかし、『街を破壊し、人類を抹殺する』という脅迫を受けている以上、罠と知りながら応じるしか道はない。
彼らの使命は、人々を犠牲にしてまで自分達を倒す事ではなく、人々を守る事なのだから。
「……来た」
アルディアがそうつぶやくと、遠方からやってくる者が視界に入ってきた。
勝ことヴィクトリーが乗る、青きボディを持つヴィクトリージェット。

「チェンジ!」
ヴィクトリーのかけ声と共にヴィクトリージェットが変形し、ロボットとなる。
「ヴィッ、ザァァァァァ!!」
そして、ヴィザーと名乗ったロボットは、ファイティングポーズを力強く取った。

「アルディア!」
ヴィザーの双眸がキッとアルディアを見据える。
「待っていたよ」
「一体どういうつもりだ!? 神威やオーガチームよりも、まず俺を倒そうと言う事か!?」
「そんな所だね」
アルディアは表情を変えずに答えた。
「今日、ここで決着をつけよう。相手は、この僕自身だ」
「何っ!?」
ヴィザーがアルディアの言葉に驚いていると、アルディアはゆっくりと浮かび上がり、
「装神(そうこう)合身……!」
キーワードを口にした。
すると、アルディアの体がロボットの中に吸い込まれ、一体となる。
「行こうか、狼影(ろうえい)……!」
狼影と呼んだロボットの中でアルディアが軽く体を動かすと、ロボットもまた同じ動きをとった。
「狼影……!?」
ヴィザー達は目の前に立っているロボットに驚きを隠せないでいる。
「これは、君達が絶やした種、狼の情報をもとに僕が作り上げた装神。君達に勝つために造った神人の進化形だ」
「何……?」
「狼影の実力、その体で知ってもらう……!」
アルディアがそういった途端、ヴィザーの目の前から狼影と呼ばれたロボットが消えた。
「なっ!?」
「ぐわあっ!?」
そして、次の瞬間には背中から強い衝撃を受け、前方に思い切り吹き飛んだ。
「くっ!」
それでも何とか体勢を立て直し、すぐさまビルを背後にして構えを取った。
こうする事によって、単純ではあるが攻撃が来る方向を限定させる事ができる。最大の利点は、どうしても死角になってしまう背後からの攻撃の心配がなくなることだ。
「甘いね!」
しかし、ヴィザーの考えはもろくも崩れてしまう。
「五月雨刃っ!!」
突然、アルディアの叫びと共に前方上空から無数のエネルギーの刃がヴィザーに向かって襲い掛かってきた。
「うあああぁぁぁっ!!」
ヴィザーは倒れはしなかったものの、相当のダメージを受けてしまった。
「攻撃は一撃だけじゃない。それぐらいはわかっているはずだろう?」
「くっ…そおっ!!」
ヴィザーはほぼやけくそに声の聞こえる方に向かって拳を突き出す。しかし、その拳は空を切るのみである。
「こっちだ」
「っ!?」
真後ろから声が聞こえてくる。すぐさま後ろ回し蹴りを放つヴィザー。
ガキッ!
「くっ…!」
だが、その回し蹴りは狼影の持つ二振りの剣によって止められてしまった。
「それが本気なのかい? だとしたら、僕は今まで君達を過大評価していたということになるね」
「何を…!」
「本気で来るんだ。本気で向かって、僕を倒してみろ!」
挑発とも取れるアルディアの言葉で火がついたのか、ヴィザーは後ろに飛びのくと構えを取り、
「言われなくても!」
腕を思い切り上に突き出し、

「ヴィクトリィィィィィッ、フォオォォォォォムッ!!」
合体するために思い切り叫んだ。

数分たつかたたないかのうちにヴィクトリーマシンはヴィザーの元へたどり着いた。
ヴィクトリーマシンがヴィザーを囲むように周りを回り始めると、四機の間に特殊な磁場が発生する。

ヴィクトリーマシンはそれぞれ胴体、右腕、左腕へと変形し、集結する。
「はあっ!」
ヴィクトリーマシンに向かってヴィザーが飛び上がり、ブロック状の形態となって結合する。
それと同時に各ヴィクトリーマシンが結合し、最後に兜がヴィザーの頭部を覆ってマスクが覆うと、
「ヴィッ!! ザリッ!! オォォォォォンン!!!」
ヴィザーはヴィザリオンと名乗り、大きく構えを取った。

「行くぞっ!」
ヴィザリオンはその構えのまま左拳にエネルギーをまとう。
「来い…!」
その姿を見てアルディアは小さく笑みを浮かべ、剣をしまうと同じ様に右拳を前に突き出した。すると、右肩に装備されていた狼の頭部が右拳を包み、手甲となる。
「エナジィィィィッ、インパクトォッ!!」
「牙・影・撃っ!!」
二人の攻撃が同時に放たれる。
一方はエネルギーをまとった拳で、もう一方は口を開いて牙をむき出しにした狼の拳で、攻撃を放った。
二人の攻撃がぶつかり合い、辺りに閃光をまき散らす。
「っ!?」
しばらくこう着状態に陥ると思われたが、意外にも早くその均衡は崩れた。
ヴィザリオンの拳が狼影の拳を弾き飛ばしたのだ。
「おおぉぉぉぉっ!!」
そのままヴィザリオンは狼影に向かって拳を叩き込もうとする。
「くっ…!」
しかし、狼影は体を後ろに反らし、両手を地面に付いた。それと同時に両足を持ち上げ、ヴィザリオンの左腕を絡め取り、
「なっ!?」
「ぐはっ!?」
そのままヴィザリオンのバランスを崩して地面に叩き伏せた。
「これで終わりじゃないっ!」
狼影はバック転の要領で起き上がると再び狼の頭を装備した拳を突き出し、
「狼咆破っ!!」
狼の口からエネルギー弾を放った。
「ぐわあぁぁぁぁっ!!」
まともに起き上がる事もできないままヴィザリオンはエネルギー弾の直撃を受け、その体がバウンドする。
「おおぉぉぉぉぉっ!!」
それでもまだ狼影の猛攻は終わらない。
狼影は狼の頭部を右肩に戻し、再度剣を抜いて剣にエネルギーを込める。
「五月雨…刃ぁっ!!」
狼影は先程ヴィザリオンを苦しめた、無数のエネルギーの刃を再びヴィザリオンに降り注がせた。
「ぅぁ……っ!!?」
もはや悲鳴は声にもならず、ヴィザリオンはただ地面に伏したままうめいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
一通り攻撃を終えたアルディアは、息が上がっていた。
今までに自らが戦闘行為を行った事がないという事もあるが、何より今回のアルディアは今まで以上に力が入っていた。
今までのアルディアならば、最小限の行動で最大の効果を得ようとしていた。それなのに、今回はまるで別人のようにただひたすら攻撃を続けていた。
アルディアらしくないといえば、らしくない行動である。
「ぐ……ぅっ……!!」
ヴィザリオンはその傷ついた体を必死に起こそうとするが、うまく体が動いてくれない。
「……君は、何のために戦っている?」
そこへ、唐突にアルディアが質問を投げかけてきた。
一瞬、何を言っているか判断できなかったが、すぐにその言葉を理解すると、ヴィザリオンは答えた。
「それは、この星を……地球の人々を、守るため……」
「とんだ偽善だね」
「!?」
「君が戦っている理由は、別に存在する」
「なっ……!?」
アルディアの放った言葉に驚きを隠せないヴィザリオン。
「君は、大切な人の居場所を守るために戦っている」
「………………」
「そして、それが全てを守る事につながっていると信じている」
「だとしても……そうだとしても、それのどこが悪い!?」
言い放って、ヴィザリオンがゆっくりと起き上がる。
「悪くはない。僕達も、大切なものを守るために戦っている。目的は違えど、その過程は同じだ」
「何……!?」
「もっとも、君は既に大切な人を失っている」
「っ!!」
「それが悔しくてたまらないんだろう?」
「………………」
アルディアの発した言葉に、ヴィザリオンは心の奥底から驚いた。
確かに、自分は既に大切な人を失っている。だが、その事を知っているのは自分を含めごく少数だ。それを何故、敵であるアルディアが知っているのか? ハッタリか、それとも……
「そして、二度と大切な人を失いたくないから、だから君は戦っている」
アルディアの言っている事は全て的を射ていた。ハッタリでここまで的中させる事は不可能だ。
「一体……何が言いたい!?」
心を見透かされているかもしれないという嫌な気分のままで、ヴィザリオンは虚勢を張った。たとえ虚勢と見抜かれていても、まだ自分の中で威厳を保つ事はできる。戦う意志を折らないでいられる。
だが、次にアルディアが発した言葉にヴィザリオンは虚を突かれた。
「君は、大切な人を失っていない」
「!?」
先程のように、ほんのわずかな間アルディアの言葉を理解できずにいた。
「君の大切な人、君の両親は、死んでなんかいない」
「嘘だ……! 母さんと父さんは、あの時……!」
ヴィザリオンは、勝はアルディアの言葉を否定しようとする。
「その事実を、自分の目で確かめたのかい?」
勝は絶句した。
確かに、自分の目で両親が死んだという事実を確認したわけではない。だが、あの人がその事実を自分に伝えてくれた。だから……
「あくまで人から聞いた事実だろう? だけど、それは真実じゃない」
「何故……何故、お前はそんな事を……!?」
ここに来て、勝は初めてアルディアが何故その事を知っているのかが頭の中に疑問として浮かび上がり、その疑問をそのまま口にした。
「僕はライヴァス様に仕える神の三天衆が一人だ。知らない事実はない」
「だけど、お前が嘘をついている可能性だって……」
どうしてもアルディアの言葉を信じる事が今一つできがたい勝。
「君の正体は、翼守勝。東京都海上区在住で流沢スクールに通う学生。そして、Valiant Earth Saviorsに所属する機動隊員」
「なっ……!?」
だが、アルディアが次から次へと発する自分に関するデータに、勝は完全に固まってしまった。
「スクールには友人が五人。星月粋、百合野菜摘、木葉賢、空崎灯矢、そして、明智慎」
「や、やめろっ!!」
自分のパーソナルなデータが、そして、友人の名が挙がった事で、急に勝は自分の心を完全に見透かされた事を感じ、急激に恥ずかしくなってアルディアの言葉を制止した。
「これでも信用できないかい?」
「もう……分かった……!」
「そうか……」
勝はひどく憔悴した気分に襲われた。
「でも、信用できなくなった人物は出てきたね」
「何っ……!?」
「君に嘘をついたのは誰かな?」
「あっ……!」
アルディアの問いかけで、初めて勝は気づいた。今まで嘘をついてきた人物が、峯島正義という事に。
あの時、峯島は勝に対して「両親は死んだ」と告げた。だが、もしアルディアの言っている事が真実ならば、峯島が嘘をついた事になる。
そして、アルディアの言葉には真実味があった。ならば、峯島は……
「何故、その人は君に嘘をついたと思う? 普通なら、生きているならば必ずそれを告げる。なのに、その人は嘘をついた。何故か?」
アルディアが問いかけるが、勝は答えない。半ば答えは予想できているものの、それを口にしたくない。口にしたら、自分の信じてきたものが全て崩れ去ってしまう気がしたから。
「答えは、単純だよ」
答えない勝の代わりに、アルディアが答えた。
「君を戦いの道具にしたかったからだよ」
「嘘だっ!!」
アルディアの答えを力いっぱいに否定した。それが真実ではないからではない。自分の予想と一致してしまったからだ。
「嘘じゃない。それが事実、そして、真実」
「そんな……そんな、事が……!」
信じたくない。あの峯島長官が、自分をただ道具として扱っていたなんて……
「俺は……俺は、認めないっ!!」
ヴィザリオンはそう叫びながら、狼影に向かって再び拳を繰り出した。
「フン……!」
「うああっ!!」
狼影はそれを最小限の動きでかわし、それと同時に剣で薙いだ。
「身勝手だね。都合のいい事は肯定して、悪い事は否定する。そんな身勝手だから、この星は滅亡に向かっているんだ、人の手によって。だから、僕達は人類を滅ぼさなければならない……!」
「く……そおぉぉぉぉっ!!」
ヴィザリオンは無我夢中で狼影に何度も何度も拳を繰り出すが、単調すぎる攻撃だからか全て紙一重で避けられている。
「これで、終わりだ……!」
そういって狼影は空中に飛び上がると、全身にエネルギーを充填し始めた。
「おおぉぉぉぉっ!!」
その最中、ヴィザリオンがブースターを利用して飛び上がり、ほぼ無防備な狼影に向かって攻撃しようとする。
「……さようなら……!」
だが、狼影は全く動じることなく、ゆっくりと構えを取ると、別れの言葉を口にした。そして、
「狼影、流星弾……!!!」
狼影は全身をエネルギーで包み込むと、いくつもの流星となり、ヴィザリオンに向かってエネルギーの雨を降り注がせた。
「うあぁぁぁぁぁぁっ!!」
真正面から攻撃を仕掛けていたヴィザリオンはその軌道を修正できるはずもなく、そのまま直撃を受けてしまった。
全身に深いダメージを負ったヴィザリオンは攻撃を受けた反動で急降下し、地面に叩きつけられる。
「………………」
そんなヴィザリオンを狼影は黙って見つめていたかと思うと、ゆっくりと後ろを振り返って飛んで去っていった。

その数分後、神威やオーガチームがヴィザリオンのもとへと向かい、ヴィザリオンを回収した。

―2010年10月19日火曜日午後6時47分―

VESの休憩室。
そこで、峯島はタバコをふかしていた。その表情はいつもと変わらない。
峯島は、いや、峯島を含むVES隊員は先程の戦いを司令室の大型モニターで一部始終見ていた。アルディアや勝は人物の名前を出してはいなかったため、誰の事を話しているかはVES隊員には理解できていなかった。だが、峯島と霧山はその話を理解していた。峯島はその話の主演であり、霧山はその話を知っていたからである。
にもかかわらず、峯島は特に感情を表に出していない。もともとこういう人間ではあるのだが、それにしてもわずかに変化があってもおかしくはないはずだ。よほど自分の感情をコントロールできているのだろうか。
「………………」
そこへ、普段着に戻った勝がやってきた。顔をうつむかせており、その表情は峯島の目からは読み取る事ができない。
「長官……!」
勝が、ゆっくりと口を開いた。
「……あれは、向こうの言っていた事が真実だ」
勝が何かを言う前に、先に峯島が答えた。
「君を戦わせるために、私は君の両親が死んだと嘘をつき、君をヴィザリオンに乗せた」
「………………」
勝は先程の体制のまま、全く動かない。
「恨むなら、恨め。憎むなら、憎め。殺したいなら……殺せ。私は、そうされても文句の言えない立場にいる」
半ば自虐的に、峯島は言った。
そして、峯島は何を言われてもそれを受け入れる覚悟を持っていた。ここまでひどい仕打ちをしておけば、どんな罵詈雑言が出てきてもおかしくない。もしかしたら、ヴィザリオンに乗る事をやめると言うかもしれない。だが、それでも、自分には既に止める権利は無い。何を言われても、それを受け入れよう。そう思っていた。
だが、
「ならば、遠慮なく殺させてもらうよ」
「っ!?」
頭の中で想定していたあらゆる言葉に当てはまらない言葉を、勝は口にした。

―2010年10月19日火曜日午後6時51分―

「っ!?」
「な、何だ!?」
遠方から、銃声が聞こえてきた。
富士をはじめとするVES隊員はそれに驚き、一斉に銃声の聞こえてきた方へと走り出した。
「い、今の銃声はどこから!?」
「聞こえ具合からすると、この先の休憩室辺りから……!」
富士は、走りながら嫌な予感がしていた。何とも形容しがたい、漠然とした不安が。
「っ……!?」
「なっ……!?」
隊員が休憩室に駆けつけると、そこには血を流して倒れている峯島と、ヴィクトリーの持つ武器、ヴィクトリーマグナムが放置されていた。
「ま、正義っ!!」
「長官っ!!?」
全員が一斉に峯島に駆け寄る。
「おい、救護だ、救護を呼べ!」
「大丈夫か、正義!」
「長官!」
激しい怒号や悲痛な叫びが休憩室に響き渡る。

―2010年10月19日火曜日午後6時54分―

粋の自宅。その中の粋の部屋で、粋達四人はテーブルを囲んで勝を待っていた。
「まったく、遅いわよ、勝……!」
菜摘がそのイライラからぼやきをもらす。
「仕方ないよ、菜摘ちゃん。勝くんはいろいろと大変なんだから」
「それでも遅いわよ。まったく、七時になっても来なかったら、先に始めてましょ」
「そうだね。これ以上待って遅らせても星月さんに悪いしね」
「………………」
粋は時計をチラッと見た。
現在、時計は七時になる五分ほど前を指していた。
(戻って、来るよね……? 勝くん……)
粋は、勝が戻ってくる事を祈った。

だが、この日、結局勝が来る事は無かった。

To be continued…


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俺の戦いは、終わったんだ……

再開。
失ったはずの感情を取り戻すことができた。
戦い。
終わりはいまだに見えてこない。
待つ者。
いつかまた戻ってくると信じている。
待たれる者。
今を維持しようとしている。
いなくなった。
また、大切なものを、彼は失おうとしている……

勝利勇者ヴィザリオン 第16話「大切なもの」

勝、くん……

……粋……!?

初回公開日:2004年7月4日

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