第14話「二つの顔」


―2010年10月13日水曜日とある時刻―

「……何故なんだ……?」

「何故、僕は……いや、僕達は、下等な人間と、その人間が作り出した機械に負けるんだ……?」

「……奴らは、心がどうとか言っていたな……」

「……心なら、自分は最も理解しているはずだと思っていたけど……人間は、知らない間に心を勝手に発展させたのか……」

「……ならば、もっと知る必要がある。奴らの心を」

「そして、心を完全に掌握した時、その時こそが……」

「人間の、終わりだ……!」


第14話「二つの顔」

―2010年10月17日日曜日午前10時11分―

ここは、神奈川県横浜市内に存在する、海に近い事で有名なアミューズメントパーク・コズミックワールド。
規模はそれほど大きくはないが、様々なアトラクションが所狭しと立ち並んでおり、かなり充実している。
しかも、観覧車から眺める夜景がまた絶景となると、絶えず人は訪れてくる。
「………………」
少年は、この場所にたった一人でやってきた。
普通に考えると、遊園地に来る時はほとんどの人が誰かと一緒にやって来る。
それは恋人、家族、友達など様々だ。
だが、彼は親しい中の者はおろか、誰一人として行動を共にしていない。たった一人で、このコズミックワールドにやってきたのだ。
「ここ、か……」
コズミックワールドの門を仰いでぽつりとつぶやく。
彼の表情は、どこか悲しげである。この地に悲しい思い出があるのか、それとも別の理由があるのか、それは分からない。
ただ一つ、言える事は、彼が何らかの目的を持ってここへやって来たという事だ。
しかし、もしここへ遊びに来たというならば、先ほどのような表情を見せるはずがない。だがここはアミューズメントパーク。遊ぶ事以外に目的は普通考えられない。
一体、彼はどういった理由でここに来たのだろうか?

「………………」
沈黙したまま、上着のポケットに手を入れてゆっくりと歩を進める少年。
コズミックワールド内は、外よりもかなりにぎやかだ。
様々なアトラクションのBGMや効果音などに加え、人々の楽しそうな笑い声や話し声も聞こえてくる。
その音が不快なのか、少年は少しばかり表情をゆがめた。
「……何が、そんなに楽しいんだろう……?」
少年は再びぽつりとつぶやいた。
彼にとって、遊園地のアトラクションが面白そうには見えないらしい。
だが、他の人々は誰もが楽しそうである。
中には親とはぐれたのか、ただ泣きじゃくる子供も見えたが、せいぜい一人だ。例外である。
「……こう言った所に来れば、何か分かると思ったけど……結局無駄足だったか……」
はっきりとした意味の取れないような言葉をつぶやき、少年は小さくため息をつく。
そして、ポケットから手を抜いてゆっくりと手を挙げようとした、その時だった。

「慎じゃないか?」
「っ……?」
少年は突然自分の名前を呼ばれて軽く驚き、ゆっくりと声が聞こえた後ろを振り向いた。
そこには、自分が見慣れた顔ぶれが五人、並んで立っていた。
「ホントだ、明智君だね」
とやや驚いたようなリアクションを取ったのは、木葉賢。
「君も、ここへ遊びに来たのかな?」
優しい笑顔で質問をかけてくる空崎灯矢。
「だけど、一人で来るなんて変わってるわね」
不思議そうな目で見つめているのは百合野菜摘。
「そ、そんな事言ったら慎くんが傷つくよ……」
少し困ったような表情をしているのは星月粋。
「こんな所で会えるとは思ってなかったな」
少し驚いたような、だけどいつもの様な笑顔を見せた翼守勝。
「……何で、君達が……?」
まさかここで会うとは全く予想していなかった慎は、虚を突かれた様な表情で五人を見つめている。
「私達は、粋の誕生日が明後日だから、今日という休みを利用してここへ遊びに来たの」
「明後日にも誕生日パーティをやるつもりだけど、遊園地に行く事は休みじゃないと出来ないからね」
「そう、なんだ……」
あまり納得してはいないようだが、慎はそれが事実だと自分に言い聞かせて納得させた。
「そうだ、慎も一緒に回らない?」
「えっ……?」
その時、菜摘が唐突に提案を掲げたので、慎は再び驚いて菜摘を見た。
「そうだね、慎君がいいんだったら、僕は反対しないよ」
「右に同じく」
「私も」
「僕も、賛成するよ」
慎を除く全員が菜摘の提案に賛成する。
「さあ、あとはあなたの返答次第よ」
菜摘に詰め寄られ、その勢いに負けそうになって思わず後ずさりしてしまう慎。
「う……」
慎は困っていた。
人と馴れ合って行動するのがあまり好きでない慎にとって、この誘いは断りたい。しかし、この菜摘の勢いに押され気味な自分がいる。
このままでは、彼女の、いや、彼女たちのペースに飲み込まれてしまう。それだけは避けたい。そう思っていた。思っていたはずなのに、
「うん……」
結局勢いに負けてしまい、首を縦に振ってしまった。
「決まりねっ。それじゃ、早速行きましょ!」
「えっ、あっ……?」
そして慎はそのまま菜摘に手を握られ、引っ張られる形で五人と行動を共にする事となった。

―2010年10月17日日曜日午前10時53分―

「うぅ……高い……」
粋は今にも消え入りそうな声で呟いた。
ここは、コズミックワールドの名物アトラクションの一つである、バニシング・ダイヴ。
一見するとただのジェットコースターだが、コースの途中でコースターが一度地下に潜り込むのだ。その瞬間が消えるように飛び込むように見える事から、この名がついている。
速度自体は並みのジェットコースターと変わらないが、地下に潜り込む瞬間、地面が眼前に迫ってくるので、激突するのではないかと言う恐怖が付け加えられ、絶叫マシンとしては十分なものである。
六人は約三十分ほど長蛇の列に並んで待ち続け、今ようやくその番が回ってきて乗ったと言うわけだ。しかも、偶然にも勝と粋が最前席に座る事となったのだ。
「粋は、高い所は駄目なのか?」
粋の横に座っている勝が少し心配そうに聞いてきた。
「だ、大丈夫じゃ、ないけど……でも、せっかく私のために皆がセッティングしてくれたから……我慢する……!」
「………………」
大丈夫じゃないと言っているだけあって、粋は少し震えて顔も少しばかり血の気が引いているようだった。
このままだと、途中で粋がどうにかなってしまうかもしれない。そう思った勝は、
「っ……!」
震えている粋の手を優しく握り締めた。
粋はそれに少し驚いて勝の方を見つめる。
「俺がついているから、大丈夫だ」
「……うん……」
勝の一言で安心したのか、途端に粋の震えが止まり、表情に笑みと赤らみが戻ってきた。

同じ頃、粋達の二つ後ろで慎は隣に灯矢がいる状態でつまらなそうな表情でいた。
「随分と余裕なんだね」
そんな慎を見て余裕があると受け取ったのか、灯矢が笑顔で話しかけてきた。
「そっちこそ、余裕があるように見えるけど?」
つまらなそうに返事をする慎。
「そんな事はないよ。これでも内心はかなりドキドキしてるんだ」
「……この高い所から落ちる時の恐怖を利用した機械に、何で人は乗りたがるんだろうか……?」
灯矢の返答を聞き流して、慎は思っていたことを口にする。
「う~ん……ジェットコースターに乗る事によって、確かに怖いって気持ちもあるけど、やっぱりそれに勝る爽快感を感じたいからじゃないかな?」
「そうかい、感……?」
「中には本当に怖い人も、好奇心で乗る人もいるだろうけど、好きな人だったらジェットコースターに乗った後は、きっと例えようのない気持ちを得ているんだと思うんだ」
「……他にも、その爽快感を得る方法はいくらでもあると思うんだけど?」
「でも、ジェットコースターに乗った時だけしか味わえない爽快感は、きっとあるよ」
灯矢が言葉を返した瞬間、コースターは頂上にたどり着いた。
「そうかな……?」
「そうだよ、きっと」
そして、まるで灯矢の言葉が引き金となったかのように、コースターは線路にそって勢いよく降下し始めた。
「きゃーーーーーーっ!!」
菜摘の、恐怖心などかけらも感じさせない、嬉しそうな悲鳴が虚空に飲まれていく。
「~~~~~~~っ!!」
一方、粋は勝に握られている手に思い切り力を込め、声に鳴らない悲鳴をあげていた。

そして一分の後、コースターは無事にスタート地点まで戻り、六人はバニシング・ダイヴを後にした。

「あぅ……」
「だ、大丈夫か?」
勝が手を握ってくれた事による安心感もさすがにジェットコースターには勝てなかったらしく、粋は少し足元がおぼつかなくなっている。
そんな粋を、勝が抱きとめる様にして優しく介抱する。
「あー、楽しかった」
粋とは対照的に、菜摘はさっぱりとした表情で意気揚々と歩いていた。
「………………」
そして、慎はと言うと、粋ほどではないにせよ、顔面がやや青白くなっていた。
落ちる直前までは余裕だった慎でも、実際に乗ったのは初めてであり、意外な速度や急降下にわずかばかり負けてしまったらしい。
「どうだった?」
「内心はドキドキしている」といっていた灯矢は、対してあまり変わっていない。
「……乗ったのは初めてでも大丈夫と思ってたんだけど……ちょっと、辛かったね……」
「そうなんだ」
いつもと変わらない笑顔を見せる灯矢。
彼は本当にドキドキしていたのか? と慎は心の中で疑問に思ったが、それを口に出そうとはしなかった。
「さて、次は何にする?」
「出来れば、落ち着いたのがいいな……」
「それじゃ、暗黒館にしましょ」
粋の意見を聞いてか聞かずか、菜摘は質問から五秒も経たずにさっさと次のアトラクションを決定してしまう。
ちなみに、暗黒館というのはこのコズミックワールド内にあるお化け屋敷の名称である。内部の長さはそれほどでないのだが、リアルに造形された異形の生物や幽霊は十分に恐怖を引き出させることが出来、これまた人気アトラクションの一つである。
また、何故か日本元来の妖怪や西洋の悪魔などが混在している。
「あ、あの、菜摘ちゃん……」
「さあ、さっさと行くわよ~!」
粋が何とか講義しようと呼びかけるものの、菜摘は全く耳もくれずに向かっていく。
もしかしたら、菜摘はわざと粋が苦手そうなアトラクションを選び、粋が困っているのを見て喜んでいるのかもしれない。

―2010年10月17日日曜日午前11時4分―

「ガァァァァァッ!!」
「きゃあぁっ!!」
暗がりの中、突然現れた異形の生物に驚きと恐怖を覚え、思わず勝に飛びついてしまう粋。
「さ、さすがにビックリしたな……」
勝はと言うと、恐怖はあまり感じていないようだが、突然に登場する様々な異形に驚きっぱなしのようだ。暗くてはっきりとは分からないが、顔が引きつっているようにも見えた。
「………………」
一方、慎は先ほどのジェットコースターとは対照的に、本当に余裕があって六人の最前線に立って進んでいる。
「余裕ね、慎。ま、これぐらいで怖がってるようじゃ、男としてカッコ悪いもんね」
同じ様に、全く怖がっているそぶりを見せない菜摘。むしろ、入ったときから笑みが絶えていない。
「気配でどこから飛び出るのか丸分かりだからね。ほら、あと五歩で……」
「ヴォォアァァァァッ!!」
「きゃあぁぁっ!!」
「ほらね」
慎の予告どおりに異形が現れ、粋が再び悲鳴をあげる。
「面白いわねー、粋」
菜摘がケラケラと笑った。
「わ、笑い事じゃないよ……」
「はぁ……」
先ほどのジェットコースターに続き、また粋が憔悴しそうだなと思うと、勝は思わずため息が漏れた。

―2010年10月17日日曜日午前11時29分―

「それじゃ、僕達が行ってくるね」
「粋はそこで勝に優しく介抱されてなさいね」
「ごめんね、菜摘ちゃん……」
「気にしない気にしない。今日は粋のためなんだから」
賢、菜摘、灯矢の三人がそう言って一旦勝達と別れた。
ジェットコースター、お化け屋敷と粋にとって過酷なアトラクションが続いたためか、粋は暗黒館を出た時にはかなり疲れていた。
そこで、六人は一旦アトラクションに乗る事を中断し、賢達は飲み物を買いに行ったのだ。
「ふぅ……」
粋は三人を少し無理に引き出した笑顔で見送ると、そのままゆっくりとベンチに座り込んだ。
「大丈夫か、粋?」
粋の横で、少し心配そうに粋を覗き込む勝。
「うん。ありがとう、勝くん」
「怖かったんだったら、入らなければよかったんじゃないの?」
ベンチに後ろ向きに寄りかかっている慎が、振り向かずに聞いてきた。
「そうも行かないよ……私のためにみんな集まってくれたんだし、それに、一人だけ残るのも寂しいから……」
「ふ~ん……」
自分から質問したにもかかわらず、粋の返答に無関心気味な慎。
「……その言葉に、偽りはないみたいだね」
「えっ?」
「いや、何でもないよ」
慎は小さく笑った。
「ところで、慎は何で一人で来てたんだ?」
「んー、秘密にしておくよ」
「……まあ、別にいいけどな」
三人の間に沈黙が流れ始める。
「……ああ、そうなんだ」
だが数秒後、慎が突然よく分からない言葉を発した。
「何が『そうなんだ』なんだ?」
「いや、これが『楽しい』って事なんだな、って」
そう言って小さく笑う慎。
「……今まで、楽しい事がなかったのか?」
慎の姿がどこか自嘲的にも見えた勝は、思わず質問をした。
「なかったと言えば、なかったね。いずれも憂うことばかりだよ……」
「……だったら、これからは、いや、今からはいい事があるさ」
「?」
勝の言葉の意味が理解できず、慎は勝の方に振り向いた。
勝もまた、慎の方に振り向いている。
「俺達がいるからな」
そう言って勝は笑顔を見せる。
「……だけど、僕は……」
「何を遠慮しているんだ?」
「そうだよ」
「え……?」
「俺達は、既に友達だろ?」
再び笑顔を見せる勝。
「一緒の時をすごして、一緒に笑いあう。それができてるんだったら、私達はもう友達だよ」
「友達……」
慎は、勝や粋が言った言葉を反すうするかのように、その言葉を繰り返した。
「お待たせ、三人とも」
「あっ、お帰り」
そこに、ジュースの缶を合計六本持った菜摘達が戻ってきた。
「はい、ジュース」
「ありがとう、菜摘ちゃん」
「サンキュー」
「……あり、がとう……」
勝達は菜摘達からジュースを受け取る。
「さて、次は何にする?」
ジュースを飲みながら、菜摘が他の五人に再び質問をかけてきた。
くぅ~っ
同時に、誰かの腹の虫が「お腹が空いた」と言わんばかりに声を上げる。
「………………」
一瞬間が空き、
「それじゃ、お昼にでもする?」
菜摘が必死に笑いをこらえながら提案を掲げた。
全員が同じ様に笑いをこらえながらそれに賛同するが、ただ一人、粋だけは顔を耳まで真っ赤にしてうなずいた。

―2010年10月17日日曜日とある時刻―

―一体、何をしているんだ?

―こんなはずじゃなかったんだ。だけど、あいつらが……

―言い訳をしても仕方がない。

―分かっている。

―だったら、早い所この場から立ち去って……

―いや、もう少し待とう。今、この時は絶好の機会なんだ

―本当に待つのか?

―これを利用して、次の時に活かせばいい。

―ならば、気をつけろ。

―何に?

―過剰な馴れ合いは、余計なものを生み出してしまう。

―心配ない。そんな簡単に、自分の心が変わるはずがない。

―だったら、いいんだ。

―そう、これでいいんだ……

―本当に、いいのか?

―2010年10月17日日曜日午後1時27分―

昼食も終え、勝達は次のアトラクションを満喫していた。
そのアトラクションの名は、『クリムゾンスマッシャー』。遊撃戦車と称された、移動するゴンドラ状のライドマシンに乗り、付属のレーザーガンで、次々と出現する灰色の怪物型のターゲットを撃つ、ゲーム性の強いアトラクションだ。
このクリムゾンスマッシャーでは、ターゲットを見事撃つ事が出来たらその度に点数が20点加算され、最終的に高得点を出したら景品がもらえるというシステムが存在する。ちなみに、途中何度も『ボス』と称される強敵が登場し、ボスを倒すと一気に500点が加算される。
「このっ、このっ、このっ!」
バシュッ! バシュッ! バシュッ!
そして、このアトラクションに向かう事を提案したのは、当然ながら賢である。
設定やゲーム性の面から、賢がコズミックワールドで最も体験したかったアトラクションとして挙げていた。それを、先ほどの昼食時に賢が再提示した所、次のアトラクションを決めかねていた菜摘はしぶしぶ了承したのだ。
「この地球という名の星は、僕が守る!」
バシュッ! バシュッ! バシュッ!
嬉々として次々とターゲットを撃ち抜く賢。とは言っても、実際にはレーザーがターゲットに仕掛けられている受信機に当たるだけで、実際に撃ち抜かれているわけではない。
「ものすごく楽しそうね、賢……」
同じゴンドラに乗った菜摘が、やる気のなさそうに適当にターゲットを狙って撃ちながら、賢の姿にあきれていた。
このスペースセイバーズのライドマシンは二人乗りであり、一人でも二人でも楽しめるようになっている。
菜摘達は、このアトラクションに二人ずつ三組で参加していた。それぞれ勝と慎、粋と灯矢、そして賢と菜摘となっている。
「そりゃあもう、これだけは前々からやりたかったから!」
満面の笑みを浮かべ、ターゲットを撃ち抜きながら答える賢。
賢の点数は、すでに1000点を越えていた。ちなみに、菜摘は適当に撃っているため、今しがたやっと200点を越えたばかりである。
「まあ、楽しんでなさい……」
大きなため息をつき、菜摘は適当に引き金を引いた。

一方、勝と慎のペアは。
「甘いね……!」
「負けるかっ!」
二人とも見事に一発で全てのターゲットを撃ち抜いており、点数は共に1200点を超えていた。
「なかなかやるな、慎」
「キミこそ、ちょっと熱くなりすぎてない?」
互いに笑みを浮かべながらターゲットを撃ち抜いていく。
「俺は、慎に負けたくないだけだっ」
「へぇ……だったら、僕も負けないよ!」
二人はターゲットと言うターゲットを次々と撃ち抜いていき、順調に点数を稼いでいった。

そして、粋と灯矢はと言うと。
「きゃあっ!」
先ほどの暗黒館ほどではないにせよ、いずれも凶悪な姿をした怪物にただ驚くだけの粋。
「……なかなか、難しいね」
そして、思ったようにターゲットを倒すことが出来ずに苦戦する灯矢。
二人の点数は、共に100点を下回っていた…

最終的に、勝と慎が2000点を超える驚異的なスコアを叩き出し、見事景品を手に入れた。
そして、賢も二人ほどではないにせよ、かなりの高得点を出し、同じ様に景品を貰って満足していた。

この後、六人は様々なアトラクションを楽しみ、終始笑顔を絶やしていなかった。
慎もまた、少しずつ笑顔を見せていき、数時間も経った頃には、この日初めて勝達と会った時と比べ、かなり自然に笑顔が見られるようになった。

―2010年10月17日日曜日午後5時21分―

この日の締めくくりとして、六人は三組に分かれて観覧車に乗ることにした。
「今日は、楽しかったね」
「そうだな……」
勝と粋は、向き合った形でゴンドラに乗り、他愛のない会話をしていた。
「ここから見る夕陽って、綺麗だね」
「そうだな……」
「また、いつか来たいな……」
「………………」
不意に、勝の言葉が途切れた。
「……勝くん?」
「………………」
見ると、勝は声も立てずに眠っていた。正確には、うたた寝をしていた。
日頃、人々の平和を守るために戦っており、そこへ今日の出来事が入った。見た目では分からないが、かなり疲労がたまったのだろう。
「仕方ない、か……」
そんな勝の事情を知っているからこそ、粋はその言葉を思わず口にした。
「…………でも、」
でも、せっかく二人きりで観覧車に乗っているんだから、同じ時を過ごしていたい。
わがままかもしれないけど、そうしたい。今、自分はそう願っている。
「……勝、くん」
「んん……?」
粋がささやくように勝の名前を呼ぶと、勝は少しうめきながら、ゆっくりと目を開けた。
「あ……俺、寝てたか?」
「ほんの少しだけ」
粋が微笑む。
「ああ……悪いな、粋」
「ううん、仕方ないよ。それより、見て」
「ん?」
粋が指した方を見ると、そこにはビルの合間に沈もうとしている、真っ赤な夕陽があった。
「綺麗だよね……」
「ああ」
「また、こうやって、夕陽が見たいな……」
「そうだな。また、いつか来よう」
粋はやや頬を赤らめながら、勝の言葉にうなずいた。

―2010年10月17日日曜日午後5時27分―

「いい雰囲気になってるじゃないの」
同時刻、粋と勝の乗るゴンドラの一つ後のゴンドラに、菜摘と慎は乗っていた。
しかも、菜摘は窓に張り付いて二人のゴンドラを必死に眺めている。
「何が、いい雰囲気になってるって?」
「あの二人よ。やっぱ互いに気づいてないだけで、相思相愛よ、きっと」
嬉々として語る菜摘。
「ふ~ん……」
対照的に、慎はあまり興味がなさそうな返事をする。
「ところでさ、慎」
「何?」
「あんたってさ、どこか読めない所があるのよね」
菜摘は突然真剣な表情になって、慎を見つめた。
「どこかオープンじゃないって言うか、何か仮面をかぶってる感じなのよね」
「そうかな?」
少し首を傾げて見せる慎。
「その態度が、仮面をかぶってるって感じなのよ」
「僕としてはそんなつもりはないんだけど……」
慎は苦笑するが、菜摘は表情を変えない。
「そういう態度だと、最初はいいかもしれないけど、いつかは孤独になって誰一人として味方がいなくなるわ」
「………………」
まただ、彼女に言われると、どうしても強制的に納得させられてしまう感じがする。
彼女は人を引っ張る力がある。時には自ら率先し、時には人を説き伏せる。論理的な説得力はあまり無いが、心理的な説得力が強い。
このままだと、また彼女にしてやられてしまう。
「……だけど、」
「え?」
慎がそう思っていた直後だった。
「今日の慎は、良かったわよ」
また唐突に表情を変え、菜摘は今度はやわらかい笑みを慎に見せた。
「心の底から笑っている証の笑顔、今日はすごく見られたわ。その笑顔をいつも見せてくれたら、きっとさっき言った様にはならないわ」
「笑顔……」
「そうよ。やっぱり、何にしても大切なのはそれよ」
菜摘はビシッと慎を指差し、ニッと笑って見せた。
「だから、今日の事は忘れないようにしなさい」
その言葉は、慎の心に深く刻み込まれた。

―2010年10月17日日曜日午後5時49分―

「それじゃ、また明日学校でね」
挨拶と共に、五人と慎は別れた。
慎はまだ用事があるという事で、ここに残ったのだ。
「………………」
慎は五人を見送った後、軽くため息をついて空を仰いだ。
すでに空は夜の帳が下りており、星も幾つか見る事ができる。
「……そうなんだ……」
慎は、今日の出来事を振り返り、思わずその言葉を口にした。
「この気持ちを、この想いを守りたいから、彼らは強いのか……」
慎がそうつぶやいた直後、突然慎の服装に異変が起きる。
服が一度素粒子まで分解され、その構造を再構築する。すると、慎は黒いマントを羽織った姿となり、腕には機械のような装置が取り付いた姿となった。
「だったら、この想いを砕けば、彼らは弱くなるはずだろう……」
その姿は、心の使徒アルディアそのものであった。
「もうすぐ、あれも完成する。この星のために、全ての人間が滅ぶ日も、遠くない……」
アルディアは、そうつぶやくとその場から立ち去っていった。
わずかばかりに、悲しげな表情をしながら。

―本当に、いいのか?

To be continued……


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そんな……そんな、事が……

勝利勇者ヴィザリオン 第15話「真実」

それが事実、そして、真実。

初回公開日:2004年6月6日

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