第13話「涙の向こう側」


―2010年10月10日日曜日午前9時36分―

VES格納庫に、オーガチームを含むVESメンバーのほとんどが集結していた。

「それじゃ、起動させるよ……」

理由はただ一つ。修復の完了した神威を再び起動させるからだ。
神威の起動のその瞬間を、誰もが見届けたいのだ。起動させた後に待ち受けるものが何であっても。

「………………」

緊張の面持ちのまま、神威が起動するのを待っている勝。

「………………」

そして、しばらくして、神威の目に光が灯り、ゆっくりとではあるが動き出した。

「……おはよう、ございます……」

神威は周りを確認した後、VESメンバーに向かって挨拶をした。
この挨拶は、起動が完了した事を告げる合図であり、実質神威の言葉ではない。

「神威……!」

起動したばかりの神威に声をかける勝。その表情は、先ほどから全く変わっていない。
勝は不安なのだ。神威の記憶が、失われているかもしれないという事に対して。
そして、今、自分はそれを確かめる。神威が、以前の神威のままなのか、それとも…

「……初めまして、勝隊長。これから、よろしくお願いいたします」

「……!」

神威の口から発せられた言葉に、勝は絶望を感じた。

第13話「涙の向こう側」

―2010年10月12日火曜日午後4時1分―

「ぐはぁっ!?」
ヴィザリオンは真正面からの攻撃にもかかわらず、それをかわす事が出来ずに吹き飛んだ。
「ヴィザリオン!」
そこへすかさず飛んでくる神威とオーガガーディアン。
「俺の事は、いい……! 奴を倒す事が、最優先だ……!」
「しかし……」
「これ以上、被害を大きくするつもりか……?」
「………………」
「……いくぞ、神威……!」
オーガガーディアンはそういって神威の肩に手をおき、ゆっくりと立ち上がって敵の方をにらんだ。
神機デューラグが、ヴィザリオン達の前方上空からあざけり笑うように、眺めている。
「……了解、しました……!」
神威は仕方なく、と言ったようにデューラグの方を向き、構えを取った。
「敵は空中からの攻撃を得意としている……。神威、朱雀神となって攻撃を頼む!」
「了解!」
オーガガーディアンの助言を聞き、

「現れよ! 四聖獣、『朱雀』!!」
神威は腕を思い切り上に突き出して聖獣の名を呼んだ。

しばらくして、青龍は神威の元へとたどり着くと変形を開始する。
朱雀の翼の下部にあるブースターがスライドして腕を形成した。
足が後ろに上がり、身体に対して一直線になると、爪を収納してつま先を立たせ、脚を形成する。
朱雀の背部には、空洞が存在していた。
「はっ!」
神威は朱雀に向かってジャンプするとその姿を手裏剣の形に変形させ、空洞と結合する。
同時に、腕から拳が出現し、朱雀の首がスライドして前を向いた。
最後に、朱雀の口が開いて中から顔が現れると、
「炎神武装! 朱雀ぅぅぅっ、神っ!!」
神威は朱雀神と名乗り、大きく構えを取った。

「はっ!」
朱雀神は空へと飛び上がり、デューラグの所へと向かう。
それを見たデューラグはすかさず朱雀神へと突進し、両足の爪で引き裂こうとした。
「っ!」
だが、朱雀神はそれを間一髪の所で回避し、
「火炎の刃!」
炎を模した剣を手にするとデューラグの背中を薙いだ。
デューラグはバランスを崩して地上へと落ちていく。
「ハァァ……!」
そこに、オーガガーディアンが剣を持って待ち構えており、
「第五層、大叫喚地獄っ!!」
デューラグに向かって思い切り剣を突き出した。
わずか一瞬のうちにオーガガーディアンは五回突きを行ない、デューラグにダメージを与える。
「ッ!?」
その時であった。
「ぐぅっ……!」
「オーガガーディアン!」
突然、オーガガーディアンは自分の体に衝撃が走るのを感じ、よろめいた。
見ると、デューラグが胸部の砲口からエネルギー弾を放っていた。
「ぐっ……うぅっ……!!」
第二撃、第三撃は何とかガードしてダメージを減少させているものの、このままではオーガガーディアンは反撃に出る事が出来ない。
「おおぉぉぉぉぉっ!!」
と、その時、激しい咆哮と共に朱雀神がデューラグに向かって剣と刀を十字に構えながら突進し、
「十文字、斬りぃぃっ!!」
デューラグを十字に切り裂いた。
デューラグはその攻撃によって横に吹き飛び、今度こそ地面に墜とされた。
「これで、最期だ!」
続けて朱雀神は剣を逆手に持ちなおすと、
「朱雀っ!!」
デューラグに向かって地面を滑空し、
「飛翔ぉぉぉぉぉぅっ!!!」
デューラグを下から上に向かって思い切り斬り裂く!!
シュンッ!
「っ!?」
だが、デューラグは翼をわずかに斬り裂かれただけで朱雀神の攻撃を回避した。
「朱雀神っ!」
そしてデューラグは体勢を立て直すと朱雀神に向かってエネルギー弾を放った。
「ぐあっ!?」
一瞬の油断の隙からか、朱雀神は回避できずに直撃を受けて倒れてしまう。
「第六層、焦熱地獄っ!!」
すかさずオーガガーディアンがデューラグに一瞬で近づき、思い切り剣を振り下ろした。
しかし、その攻撃もデューラグにダメージを与える事が出来ず、地面をえぐるだけに終わってしまう。
「ぐっ……!」
オーガガーディアンも、朱雀神と同じ様にエネルギー弾の直撃を受け、よろめいた。
そして、デューラグは行動を止める事なく翼を思い切り開くと、翼から無数のレーザーを放った。
「ぐうぅっ……!」
「がぁぁっ!」
休む暇もない攻撃の嵐に、なす術がなくなってしまっているオーガガーディアンと朱雀神。このままでは、負けてしまう……!
そう思い始めていた、その時であった。
「ストラァァイクッ、ザウラアァァァァッ!!」
激しい轟音と共にデューラグが横から飛んできた巨大な拳に吹き飛ばされた。まるで、獲物が肉食恐竜の牙で喰らわれるかのように。
「大丈夫か!?」
危機を救ったのは、他の誰でもない、ヴィザリオンだった。
「ヴィザリオン!」
「待たせて悪かったな。だが、これで終わらせる!」
ヴィザリオンはそういって腕を空に突き出し、
「スタァァ、リィィィジョンッ!!」
もう一つの武器の名を呼んだ。

リージョンスターはヴィザリオンの近くまでやってくると、機体を十に分ける。
そのうち、内側を形成していた五つのパーツはザウラーナックルを外したヴィザリオンの右腕と結合し、フィニッシュスターとなる。
残りの五つのパーツ―ホールドスター―がフィニッシュスターと結合し、ヴィザリオンはそれが終わったのを確認するとデューラグに向かって再び構えた。
「ホォォォォォルドッ、リィィィィィジョンッ!!」
ヴィザリオンが左腕を思い切り突き出すと、ホールドスターが左腕から分離し、デューラグを捕らえる。
そして、ホールドスターは鋭角部分から特殊エネルギーを発生させ、デューラグの自由を封じた。
「行くぞっ!!」
ヴィザリオンは左腕のザウラーナックルを構え、
「ザウラーナックルッ!!」
ゆっくりと拳を引いた後、
「ザウラァァァァッ、インパアァァァァァルスゥッ!!!」
デューラグに向かって思い切り拳を放った!!
激しい音と共にザウラーナックルはデューラグに向かって飛び、ブースターで急加速して突き進む。
「貫けえぇぇぇぇぇぇ!!」
拳は身動きの取れないデューラグを貫き、デューラグはそのまま爆発四散した。
「俺の……勝利だ!」

―2010年10月12日火曜日午後4時28分―

「申し訳ありませんでした……」
神威は浮かない表情でヴィザリオンとオーガチームに向かって謝った。
「いや、気にする事はないさ。起動してからまったくといっていいほど日がたってないんだからな」
「調子がでないのも、仕方がありません」
「………………」
「………………」
ヴィザリオンやオーガディフェンダーは神威をフォローするが、対照的にオーがファイターとオーガスピーダーは何も言わない。
「ファイター、ディフェンダー……」
「……パトロールに、行って来ますね……」
「神威……!」
浮かない表情のまま、神威は逃げるようにその場から去っていった。
「……二人とも」
「あんなの、神威じゃねぇ……」
「そうだな……」
神威がいなくなった途端、二人は神威の悪態をついた。
「確かに、今の神威は以前の神威とは違う……」
「ヴィザリオン!」
「だけど、だからといって邪険にするのは良くない」
「………………」
ヴィザリオンの言葉に再び閉口する二人。
神威が起動した事によって、VESのメンバーの間で溝が出来はじめていた…

―2010年10月12日火曜日午後4時45分―

「………………」
神威は傾きかけた陽によって朱に染まろうとしている街を歩いていた。
その表情は、先ほどと変わっていない。
(……私は、足手まといなのでしょうか……?)
神威は考えていた、自分の事について。
先ほどの戦闘で、自分は共に戦うどころか、逆に足を引っ張ったような気がしてならない。
確かに、起動してから間もないと言う事もある。しかし、だからと言って許される事ではない。
(……だめだ、こんな悪い方へ考えていては、余計に悪くなる一方。もっとポジティブに行かなければ!)
イメージを吹き払うかのように首を振って気持ちを切り替えようとする神威。
「あっ」
「?」
その時、神威は何かに驚いたような声が聞こえたので、その声がした方を振り返った。
そこは特に何の変哲もない橋であり、その橋の上には少女が立っていた。
「神威!」
「は……?」
少女は突然神威の名を呼び、走って神威の元へと駆け寄ってくる。
「どこ行ってたのよ、神威! 今までずっと心配してたんだからね!」
少女は本気で心配したというような表情で神威を見つめていた。
(こ、この少女は一体……?)
しかし、当の本人は状況が全く飲み込めず、ただ混乱していた。
「……どうしたの、神威?」
「あの……以前にどこかでお会いした事があるでしょうか?」
「え……?」
神威の言葉を聞いて、少女の表情が途端に驚きの表情に変わる。
「何言ってるの? 私よ、優菜よ。忘れたなんて、言わせないわよ?」
「………………」
そうは言われても、いくら自分の記憶をたどってもこの優菜と名乗る少女に関する記憶は出てこない。自分にとって、彼女は初対面だ。
「忘れ……ちゃった、の……?」
優菜が不安そうな表情で神威を見つめる。
「そう言われましても、私とあなたは初対面のはずですが……」
「何言ってるのよ! 3ヶ月前、この橋の上であなたは私を助けてくれたじゃない!」
神威の言葉を必死に否定しようとする優菜。
「私は、一昨日に起動したばかりですが……」
「嘘よ!」
神威の言葉に全く耳を貸さず、優菜はただひたすらに否定しようとする。
「嘘よ、嘘嘘嘘! 面白くない冗談はやめて!」
「そんな……」
神威が優菜の態度に困惑していた時だった。
「っ!?」
何かが自分達に向かって勢いよく飛んでくるのを感じ、
「危ないっ!」
「きゃっ!?」
とっさに神威は優菜を抱えて跳躍した。
ほんの一瞬前まで神威と優菜がいた場所に、エネルギー弾が打ち込まれる。
もしわずかでも神威の反応が遅かったら、二人ともそのエネルギー弾に直撃していただろう。
「もう復活したのか……やっぱり、形がなくなるまで痛めつけた方がよかったかな?」
「………………!」
神威はとっさに声の聞こえた方をにらんだ。
神威の視線の先には、悠然とした構えでいるアルディアと角錐体だけで形成されたようなボディを持つ神人ディルトがたたずんでいた。
さらに、ディルトは右腕を前に突き出している姿でおり、おそらくはディルトが先ほどの攻撃を仕掛けたかと思われる。
(っ……? 何だ……? 前に、同じ事があったような……?)
その時、神威はデジャビュに似た感覚を覚えた。だが、自分は数日前に起動したばかりだ。そんな事があるはずがない。
「もう、復活した……?」
同時に、アルディアが発した言葉に疑問を感じた。
この少女の事を言っているのか? いや、彼―自分の中で便宜上、そう呼ぶが―は明らかに自分に向かって言っていた。
何故だ? 自分の知らない所で、一体に何がある、もしくはあったというんだ……?
「……へえ、記憶が全てなくなってるのか……。これは面白いね」
「記憶が、なくなっている……? 一体何を言っている?」
アルディアの言葉の意味を全く理解できず、ただ疑問を投げかけるだけの神威。
「知らない幸せ、と言うのもあるものさ。君の場合はまさしくそれだ。だから、何も知らないまま、また死んでもらうよ」
アルディアのその言葉が起爆剤となり、ディルトが動き出す。
「くっ!」
神威は優菜を左手で抱えたまま、右手で妖刀・神を構えた。
「お、降ろしてよぉ!」
神威の手の中で、優菜がバタバタと暴れる。
「しばらく我慢してください! すぐに片付けますから!」
「いや、やめてよ!」
「はぁぁっ!」
神威は優菜を抱えながら、ディルトに向かって突進する。
ディルトは神威の攻撃をいとも簡単にかわし、逆に神威に向かってその腕を振り下ろした。
「がっ!?」
「きゃああっ!!」
神威はまともにその攻撃を受けてしまい、その衝撃は同時に左手の優菜にも伝わった。
「人間をかばいながら戦えるとでも思ってるのかい? おごりだね、それは」
「何……を……!」
アルディアの挑発に怒りを覚える神威。だが、優菜をかばっているから思ったように戦えないのもまた事実。
「だから、降ろしてって言ってるでしょ……! 早く、降ろしてよ……!」
「そうは、行きません……! 私は、人々を守る、義務が、ありますから……!」
そういってゆっくりと立ち上がる神威。だが、先ほどの攻撃のダメージが思ったよりも大きかったのか、立ち上がるだけでも体がガクガクいっている。
「義務って……義務なんかで守られたくないわ!」
神威の言葉が頭に来たのか、優菜は大声で反論する。
「なっ……!?」
意外な優菜の反論に、驚きを隠せない神威。
「神威は、そんな事言わなかったわ! もっと人の事を、私の事を考えてくれてた! もっと優しかった! 私の事を絶対に危険にさらさなかった!」
「な、何を……!」
「あんたなんか、神威じゃない! 神威を……私の神威を、返してよぉっ!!」
そう言って、優菜は、涙を流した。声を上げて泣いた。
「な、何故、泣く、のですか……?」
「ごちゃごちゃ言ってる暇がある?」
「っ!?」
「がはぁっ!?」
「っぁぁっ……!!」
優菜が泣き、神威が困惑している所に、ディルトの放ったエネルギー弾が神威に直撃した。
「惨めだね、本当に」
アルディアの、嘲笑とも取れる言葉が耳に入ってくる。
(……彼女は、何故、泣いているのだ……?)
だが、攻撃を受けたにもかかわらず、神威の思考は止まらなかった。
(私はただ、彼女を、守ろうとしただけだ……それが、私に与えられた、義務だから……)

違う……!

(……え?)
神威は、頭のどこかで声が聞こえたのを感じた。
(何だ……?)

私は……義務で、守っているのではない……!

(どういう、事なんだ……?)

私にとって、彼女が、大切な存在だから……!

(彼女が……優菜が………。……っ!?)
頭の中で、光が閃いた。

そうだ……思い出すんだ……!

(わ、私は……優菜、を……! な、何故、私は、少女の、名を……? さっき、知ったから……? いや、違う……! もっと、もっと前から……優菜を……!)
次々と、とめどなく溢れてくる記憶。
笑った事、辛かった事、ピンチを切り抜けてきた事、仲間の事、優菜の事…

私は……また……!

(そうだ……私は、優菜を……!!)
そこで思考は終わった。いや、正確には、思考を実行に移した。

「おおおぉぉぉぉぉっ!!」
思わず神威はディルトに向かって、今までにないスピードで立ち向かい、腕を神で思い切り切り裂いた。
「なっ……!?」
神威の行動に、驚きを隠せないアルディア。
「これ以上、優菜を傷つけさせはしない……!」
そう言いながら、神威は構えを取った。
「……神威……神威、なの……?」
「そうです、優菜……」
神威は優菜に対して、これまでになかった、優しい笑顔を見せた。
「神威!!」
その優しい笑顔を見て優菜は嬉しくなり、神威に思い切り飛びついた。
「心配かけて、申し訳ありませんでした……」
「……いいの……神威が、戻ってきてくれたんだから……!」
先ほどとは違う、嬉しさのあまり溢れた涙を流しながら、優菜は神威をギュッと抱きしめた。
「記憶が……戻ったと、いうのか……!? そんな、馬鹿な……!?」
ありえない。人間でも滅多にないというのに、ましてや機械の記憶など、復活する物ではない。なのに、何故、記憶が戻ったのだ?
自分の理解の範囲を超えている……!
「私は、もう一度……いや、何度でも、優菜の笑顔が見たいから……! だから、蘇った! 奇跡が、私の味方をしてくれた!」
「そんな、そんな事があってたまるか! ならば僕の手で今度こそ死んでもらう!!」
ディルトがアルディアの怒りの言葉で触発されたかのように、神威に向かってエネルギー弾を連発した。
「はっ!」
しかし、神威はそれを跳躍してかわす。
「すみません、優菜……しばらくの間、我慢していただけますか? 今の状態では、戦闘から離脱するのは困難であり、離脱しても街に被害が及んでしまいます……!」
「これくらい……どうって事は、ないわ……! やっちゃいなさい、神威!」
「了解!」
優菜の言葉が心強かったのか、神威は力強い返事をすると、再びディルトに向かって突進していった。
「はぁぁっ!!」
「さっきも言ったはずだよ! 人間をかばいながら戦えるのか!?」
「やってみせる、いや、私なら出来る!」
そう言ってディルトに向かって思い切り神を振り下ろした。
「っ!?」
だが、神はディルトの手前で何かに阻まれ、止まってしまう。
「君のその刀は確かに切れ味はすごい。だけど、このディルトのフィールドはあらゆる物を防ぐ!」
「ぐっ……!」
確かに、アルディアの言うとおり、神がそれ以上先へと進まない。
「そして、いくら切れる刀でも……!」
「っ!?」
そこに、ディルトが防御の体制のまま、横から神に向かって拳を突き出した。
「なっ!?」
すると、神は真ん中から簡単に折れてしまった。
「横からの力には弱い……!」
折れた神の半分は神威の手に残り、そして残り半分は空中を回転した後、地面に突き刺さった。
「………………!」
「どうするの、神威……?」
神威は少しあせっていた。
自分の攻撃の要である神を折られてしまっては、この状態ではまともな攻撃手段がない。合体すれば何とかなるが、その合体の間に攻撃されたら元も子もない。
「万策尽きた、かい?」
アルディアが再びあざけるような笑みを見せる。
「……フッ……!」
その時、神威はある事に気付き、思わず笑みをこぼした。
「っ……!?」
「まだ、終りではない!」
「その通りだ!」
突然、神威やアルディアとは違った声が聞こえてきた。
「トルネェェドッ、ユニコオォォォォン!!」
「なっ!?」
それと同時に、ディルトの横からエネルギーが螺旋を描きながらディルトを襲ってきた。
「ぐうぅぅっ!!」
あまりにも突然の事であったため、ディルトはその攻撃をかわす事が出来ず、まともに受けてしまう。
「第四層、叫喚地獄っ!!」
連続してディルトに向かって剣による突きが放たれてきた。
突きはほぼ一瞬のうちに三回行なわれ、ディルトはそれによってバランスを崩し、倒れてしまう。
「大丈夫か、神威!」
「ヴィザリオン! オーガガーディアン!」
「早く、その少女を安全な所に……!」
「わかっています」
そう言って神威は優菜を抱えてその場から離れようとする。だが、すぐに立ち止まると、ヴィザリオンとオーガガーディアンの方を向き直り、こう言った。
「今まで迷惑をかけて、申し訳ありませんでした……。ですが、記憶が戻った今、これ以上足手まといにはなりません!」
神威は言い終わると同時に、再び走り出した。
「……神威……記憶が……!」
「奇跡だ、な……!」
神威の記憶が戻った。
その事を知った二人は、体にこそ現さなかったが、心の中では思い切り喜んだ。

―2010年10月12日火曜日午後5時8分―

先ほどの戦場から少し離れた場所。
「ここで、しばらく待っててください。私は必ず戻ります……!」
「絶対、戻ってきてよ……!」
「約束します」
神威は再び優しい笑顔を見せると、改めて戦場に向かった。
「……今まで会えなかった分、しっかりと埋め合わせしてもらうわよ……!」
そう言った優菜の表情も、笑顔だった。

―2010年10月12日火曜日午後5時11分―

『神威』
「副司令!」
戦場へ戻る途中で、神威に霧山から通信が入った。
『記憶が戻ったんだって?』
「はい。心配かけて申し訳ありませんでした」
『心配どころか、メカニックとしては驚いているよ。本当に、奇跡としか言いようがないね』
霧山の言葉に神威は苦笑する。
『ところで、時期を見て告げようと思ったんだけど、記憶が戻ったから今告げるね』
「? 一体何を……」
『新たな武装……いや、強化合体、と言った方がいいかな?』
「強化、合体……?」
霧山の言葉を聞き、思わず足を止めてしまう神威。
『データはもう転送しておいたから、頭に入ってるでしょ? 今の君ならできる。じゃ、頑張ってね』
そこで霧山との通信は終わった。
「……これならば、いける!」
送られてきたデータを読み、神威は自信を手にした。
そして、神威はゆっくりと構えを取ると、

「集結せよ、聖獣達!!」
手を思い切り上に突き出した。

VES本部。
「聖獣召喚・コール発動!」
「聖獣・白虎、青龍、玄武、朱雀、麒麟、スタンバイ!」
オペレーターである日高の言葉と共に、白虎、青龍、玄武、朱雀、そして、鎧をまとった馬のような姿をした聖獣、麒麟が発進口にセットされ、
「発進!」
その言葉と同時に発進していった。

しばらくして、聖獣達は神威の元へとたどり着くと変形を開始する。
はじめに、玄武が頭部を胴体から分離し、後ろ足が横に上がると、胴体が真ん中から左右に割れる。
玄武は、その姿を脚に変形させた。
次に、朱雀が翼を分離させ、それと同時に青龍は胴体を真ん中から折り曲げる。
朱雀と青龍は、その姿を腕に変形させた。
そして、白虎は四肢を折りたたむと、背中のブースターを下に下ろす。
白虎は、その姿を腰に変形させた。
最後に、麒麟もまた四肢を折りたたむと、胸部を形成する。
「聖獣、合体っ!!」
神威の言葉を合図に、変形した聖獣達と神威が集結する。
神威はその姿を変形させると、まず変形した麒麟と結合した。
そして、その麒麟と結合した神威に、右腕となった青龍、左腕となった朱雀、腰となった白虎、脚となった玄武、背部に朱雀の翼が次々と結合する。
全聖獣が結合し終えると、それぞれの聖獣が持っていたパーツが結合し、アーマーとなって胸に結合した。
最後に、両腕から手が出現し、仕上げとして頭部から顔面が現れると、
「武装完了っ!!」
合体した神威は四肢に力を込め、
「神っ! 星っ、獣ぅぅぅぅ牙あぁぁぁっ!!」
大きく構えを取った。
これが、この姿こそが、神威の最終形、神星獣牙である。
あらゆる能力が飛躍的に向上し、ヴィザリオン以上の力を持っているといっても過言ではない。

「待っていてください、ヴィザリオン、オーガガーディアン!」
神星獣牙は合体を終えるとすぐさま翼を広げて戦場へと向かった。
そのスピードもまた、以前の神威以上だった。

―2010年10月12日火曜日午後5時16分―

「第三層、衆合地獄っ!!」
オーガガーディアンの剣が、ディルトに思い切り突き入れられようとする。
だが、先ほどの神威と同じ様に、フィールドにはばまれて突きが通らなかった。
「無駄だよ。ディルトは全てにおいて死角がないんだ。そんな攻撃は通らない」
「おおぉぉぉぉぉっ!!」
続けてヴィザリオンがユニコーンキャノンからエネルギーを放つ。
これもやはり同じ結果に終わってしまった。
「くっ……!」
「無駄だと言ってるのが、わからないのか!?」
アルディアの叫びと共に、ディルトが体中からエネルギー弾を二人に向かって乱れ撃ちした。
「ぐああああっ!!」
「ぐっ………!!」
何とか防御しているにもかかわらず、その攻撃は体を痛めつける。
「僕達は、やらなければならない! 人間は、滅ぶべきなんだ!!」
段々と強くなっていくディルトの攻撃。
「それは……間違っている!!」
「っ!?」
その時、どこからか神威の声が聞こえたかと思うと、突然、何者かによってディルトの残っていた片腕が切り裂かれた。
「なっ!?」
ディルトは再び倒れそうになったが、何とか体勢を戻す。
「人を滅ぼす事など、この私が食い止めてみせる!」
そういうと同時に神威、もとい神星獣牙が地上に降り立ち、手に持っていた刀を持ち直して構えを取った。
「神威……?」
「その姿は……」
声は確かに神威だ。だが、その姿は、今までに見た事のないものだ。
「今の私は、神星獣牙。全てにおいて、パワーアップした姿」
「そうか……」
「くっ……たかが寄せ集めじゃないか……!」
「寄せ集めかどうか、試してみるか……?」
神威のその言葉は、何処かあざけりにも聞こえ、アルディアは恐怖を感じた。
「我が新たな剣、虹彩剣の切れ味、とくと味わうがいい!」
神星獣牙はその言葉と共にディルトに向かって地面を滑空する。
「くっ……!」
そのスピードはディルトが行動に移すよりも速く、ディルトはほぼ無抵抗のまま胸の辺りを思い切り切り裂かれた。
「負けるかっ!」
「遅いっ!」
直後にディルトは胸からエネルギー弾を放つが、放たれる直前に神星獣牙は右に跳躍してかわす。
「一刀流……!」
そして、神星獣牙は着地と同時に再び跳躍し、
「十文字、斬りぃぃっ!!」
刀でディルトを十字に切り裂いた。
「南方を護るは朱雀なり……!」
「そう一方的にやられてたまるかっ!」
ディルトは切り裂かれたと同時にエネルギー弾を乱射した。
「はあぁぁぁぁっ!!」
だが、神星獣牙は今度は避けようとせず、逆にエネルギー弾の雨の中に飛び込むと、手にしていた盾で全てのエネルギー弾を防いだ。
「今です!」
「何っ!?」
「おおぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ムン……!」
そこに、ユニコーンキャノンを持ったヴィザリオンが遠方で構え、剣を振りかざしたオーガガーディアンがディルトに迫り、
「トルネェェドッ、ユニコオォォォォン!!」
ヴィザリオンはユニコーンキャノンからエネルギーを発射し、
「第六層、焦熱地獄っ!!」
オーガガーディアンはディルトに向かって思い切り剣を振り下ろした。
「くっ!」
先に放たれたヴィザリオンの攻撃をフィールドで何とか防御するディルトだが、
「ぐっ……!」
フィールドがオーガガーディアンの第二撃に耐え切る事が出来ず砕け散り、オーガガーディアンの攻撃はディルトの体を破壊した。
「はぁぁっ!!」
そして、神星獣牙は三度ディルトへと跳躍すると、虹彩剣を構えなおし、
「麒麟角っ!!」
ディルトに刀を思い切り突き刺した。
「真方を護るは麒麟なり……!」
そして、刀を引き抜くと、刀についた血を振り払うかのように振るって改めて構えた。
「くっ……!」
今の一突きが止めとなり、ディルトはそのほとんどの機能を失われてしまった。攻撃する事はおろか、行動さえも許されない状態になってしまっている。
「ここまでだな……!」
「……ならば、この場の文明もろとも破壊するまで! 消えるがいい!」
そう言うとアルディアはディルトから飛び上がり、空中で消えた。
「自爆させるつもりか!?」
「そうはさせない!」
誰よりも早く神星獣牙は反応し、刀を振るった。
「己が犯した罪は、己へと還る事を、思い知れ!!」
神星獣牙は、思い切り叫ぶと同時に胸部のアーマーを取り外してディルトに向かって勢いよく投げつける。
すると、そのアーマーは命中する直前に、形成していた四つのパーツに分かれ、ディルトを取り囲むと、エネルギーを放って大極図を描き、ディルトを拘束した。
「おおぉぉぉぉぉぉっ!!」
そして神星獣牙は限界まで加速しながら刀を大きく後ろに振り上げ、
「聖獣っ!! 封、殺、閃っ!!!」
ディルトを思い切り切り裂いた!!
ディルトは、自爆による爆発でなく、切り裂かれた事による爆発で四散する。
また、四つのパーツによって封じ込められていたため、爆発自体も小規模に留まり、街への被害は最小限に食い止められた。
「人の心を、傷つけはさせない……!」

―2010年10月12日火曜日午後5時43分―

「………………」
優菜は、戦闘のあった方をじっと見つめていた。既に爆音や爆煙は上がっていない。
それは既に戦闘が終わったという証拠だ。
「……神威……」
しかし、優菜は戦闘が終わってもまだ気がかりな事が残っている。
神威が、果たして無事に戻ってくるのか?
もし、前みたいに突然いなくなったら……そう思うと、胸が苦しくなる。
「………あっ……!」
その時、遠方に神威の姿が見えた。しかも、無傷な姿で。
「神威!」
優菜は嬉しくなり、思わず神威に向かって走り始めていた。
「そんなに走ると、危ないですよ」
神威は冷静に、しかし嬉しそうに注意をする。
だが、優菜は神威の注意に耳も貸さず走り続け、そして神威に向かって思い切り跳んだ。
「神威!」
神威は優菜を手で優しく受け止め、ゆっくりと持ち上げて肩に乗せる。
「お帰り、神威」
「……ただ今、戻りました」
二人は、同時に最高の笑顔を見せあった。

To be continued…


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俺達は、既に友達だろ?

粋の誕生日が近いと言う事で、勝達は休みに遊園地に行く事にした。
当日、勝達は偶然慎と会い、行動と共にする。
一人でいる事が多い慎との交流を深めるといった意味合いも込めて。
始めはかたくなだった慎も、徐々に笑顔を見せるようになっていった。
それが、運命の歯車を狂わせると知らずに…

勝利勇者ヴィザリオン 第14話「二つの顔」

君たちのその手で、勝利をつかめ!

初回公開日:2004年3月22日

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