第12話「叫ぶ想い」


―2010年10月4日月曜日午前1時12分―

VES格納庫は、いつになく慌ただしかった。

「整備班3から6、向こうへ急いで!」

VESの副官と同時に、メカニックも担当している霧山の怒号が響く。
この慌ただしさは、わずか10時間前に起こった戦闘が原因だった。

10時間前、神威は第3の使徒アルディアの手によってAIの意思を保たれたまま体の全機能を乗っ取られた。
アルディアの策略により、神威はヴィザリオン達を傷つけてしまう。
それを止めるため、ヴィザリオンが神威に向かって悲痛の思いで剣を突き立てた。
だが、その事が神威の体に、そしてヴィザリオンである勝の心に大きな傷をつけた。

「副官……」

次から次へとせわしなく動くスタッフをよそに、勝が霧山に話しかけてきた。

「……なんだい?」

本来ならば、余計な事は全て後に回さなければならないこの状況だが、勝がこれから話そうとしていることを予測していた霧山はあえて手を止めて勝の言葉に耳を傾けた。

「神威は……大丈夫なのか?」

霧山の予測と、勝の言葉は一致した。

「ボディ自体は修理すれば済む。だけど……ボディの全機能を乗っ取られた事、強制的な命令を無理に食い止めた事、そして……君のつけた傷も相まって、神威のAIが激しい損傷を受けている」

「………………!」

「出来るかぎりの修復はするけど……ほぼ100%、今まで培ってきたメモリ……つまり、記憶はなくなっているかもしれないね……」

霧山の言葉が、さらに勝の心に深い傷をつけた。


第12話「叫ぶ想い」

―2010年10月3日日曜日とある時刻―

聖なる宮殿ゴッドパレス。
「………………」
アルディアは怪訝な表情で柱にもたれかかり、先刻の戦いについて考えていた。
先刻の戦いで、形は違えど敵の一人に多大なダメージを与えた。つまり、勝利したのだ。そのはずだったのだが……やはり気に食わない。
自分が操った神威と言う人形は、わずかな間とはいえ自分の命令に反するという異業を成し遂げた。そして、仲間を傷つける事が何よりの苦痛だったはずの奴らも、ためらいがあったとは言え仲間に剣を突き立てた。
ありえない。自分の考えた作戦は、どこにも隙がなかったはずだ。今回の出来事は、万が一にもなかったはずだ。
これだから、心というものは奥が深すぎる…
「だけど……二度目はない……いや、二度目は起こさせない……!」
憤りにも似た感情を含めて、アルディアは呟いた。
「そのためにも、心が生み出す感情を豊富に持つ人間の生活の中に、わざわざ溶け込んでいるのだから……」

―2010年10月4日月曜日午前11時57分―

流沢スクールでは、この時間は昼食の時間も兼ねてお昼休みとなっている。
どの教室からも楽しげな会話や笑い声が聞こえ、楽しく午後を迎えようとしていた。
「………………」
そんな中、勝はただ一人、コンビニで買ってきた弁当を黙々と口に運んでいた。先日の戦いの事を、未だに引きずっているのだ。
(賢、何か話しなさいよ。ほら、いつもみたいにロボットの話でもいいから……!)
(そう言われても、こう勝君の雰囲気が重かったら……)
(……やっぱり、相談にのってあげないと、いけないのかな……?)
(いや、こういう時は、そっとしておくのもまた優しさだよ)
勝の気持ちを、聞かずとも察知している四人は何とかこの場を明るくしようとあれこれ思考をめぐらせるが、全くといっていいほど案が思いつかない。
「どうかしたのかい?」
そこに、事情を知らない慎が勝に話しかけてきた。
「慎……」
「何か、悩み事や心配事でもあるのかな? ひどく落ち込んでいるように見えたから……」
慎の無神経にも近いような言葉に、四人は慌てて慎を止めようとする。
だが、
「心配してくれたのか、慎」
勝が平静を装って受け答えしたのでそのタイミングを逃してしまった。
「……まあね」
「ありがとう。だけど、俺なら大丈夫だ」
そういって、勝が笑顔を作って見せる。だが、その笑顔もどこかぎこちなく見えた。
「……そう、ならいいんだ」
慎は同じように笑顔を見せ、勝の肩をポンと叩くとそのまま教室から出て行った。
「……本当に大丈夫なの、勝くん?」
慎が出て行ったのとほぼ同時に、粋がすぐさま勝に言葉をかけた。その表情は、心から心配している表情だった。
「ありがとな、粋。だけど、これは俺たちが解決すべき事なんだ。粋達に余計な気負いをさせたくないんだ」
勝はそういうと立ち上がり、机の上に残ったゴミをゴミ箱に捨てるとそのまま慎と同じように教室から去っていった。
端から見るといつもと変わらない様に見えたが、勝と親しい四人にとっては勝が何かを背負っているのが明らかだった。
「あ~もう、何で一人で背負うのかしらね、勝は?」
「僕達、友達なのにね」
「………………」
三人が勝の事を色々と言ってる中、粋は一人だけ想いをめぐらせていた。
(……私じゃ、勝くんの力になれないのかな……?)
勝の出て行った扉を見つめ、粋は悲しげな表情になる。

―2010年10月4日月曜日午後4時6分―

その日の放課後、勝は珍しく一人でそそくさと先に帰ってしまった。
こうなると、勝の様子が違うのは明確だった。
「………………」
クラスメートの前では見せなかった暗い表情を、一人になって初めて見せる勝。一日経った今でも、神威の事が頭から離れないでいる。
いくらあの事が仕方のなかった事とはいえ、自分が仲間を傷つけたのは、紛れもない事実。消える事のない罪となってしまっている。
どうすればこの罪を償える? どうすればまた以前みたいに立ち直れる? どうすれば…
「し、勝くん……!」
その時、後方からやや息の上がった少女の声が自分を呼ぶのが聞こえてきたので、勝は後ろを振り向いた。
「粋……」
そこにいたのは、粋だった。
「と、途中まで、一緒に……いい?」
「……ああ」
勝はいつもよりそっけない返事で答えた。
それを聞き、粋は勝の隣に来て歩調を合わせる。
(菜摘ちゃんが勝くんの相談にのってあげてって言ったから、一人で来ちゃったけど……)
粋はチラッと勝の方を見た。
勝と二人きりで歩くのは夏休みのあの日以来だ。しかし、あの時もそうであったが勝と二人きりになるとすごく緊張する。
押さえようとしても押さえる事の出来ない鼓動の高鳴り、顔の紅潮など。
こんな事、勝くんに知られたら…
粋は思わず勝から顔をそらして歩く。だが、これでは本来の目的が遂行されない。
「……ね、ねえ、勝くん」
粋は、思い切って口を開いた。
「ん?」
「何か、辛い事があったのなら……話して」
勝の方に顔を向けずに言う。
「………………」
粋の呼びかけに答えない勝。
「……お願い、一人で抱え込まないで……」
「粋……?」
ようやく粋が勝の方を振り向く。だが、その目には涙が浮かんでいた。
「私……私達って、そんなに信用できない? 勝くんの相談にのる事もできないの? 私達は……こんなに、心配してるのに……」
今にも泣き出しそうな表情で粋が言う。
粋達と勝が出会ってから、わずか半年。それでも、粋達は勝と互いに理解を深め、それこそ何年も前からの親友のように付き合ってきた。少なくとも、粋達はそう思っている。
「……悪かった、粋……」
粋の必死な思いは勝に伝わり、勝は一言謝った。
そうだ、自分はVESの人達だけが仲間、大切な人じゃない。こんなに身近に、大切な人がいる。親友がいる。それを、今の今まで忘れていたなんて…
「それと……ありがとう……」
続けて、感謝の言葉を勝は口にした。それが、今の勝の精一杯の気持ち。

この後、勝は先日の出来事を粋に話し、粋はそれを聞いて勝に励ましの言葉を送った。

―2010年10月4日月曜日午後7時33分―

VES格納庫。
「新たな武器?」
霧山の口から発せられた単語を、勝は繰り返した。
「そう、ヴィクトリーウェポンNo.04が、完成しつつあるんだ」
そして、霧山はいつもと変わらない笑顔を勝に見せた。
「……こんな短期間に、よくそんなに次々と作り出せるな」
勝の言葉は、どこかあきれた感情も混じっている。
「全部ほぼ同時進行で造ってるからね。おかげでこの半年、メカニック全員がゾンビの様になってるけど」
「はは……」
冗談に聞こえない霧山の冗談に苦笑を漏らす勝。
「でも……」
「ん?」
「でも、フェニックスブレイドにユニコーンキャノンの二つで、十分な力があると思うんだが……」
勝の言う事はもっともだった。
元々近距離戦―特に格闘戦―においてヴィザリオンは特化しており、そこにさらに近距離戦を特化したフェニックスブレイド、中・遠距離戦に対応したユニコーンキャノンと、武器を追加する事によってさらに万能に戦う事が出来るようになった。これ以上の追加など、必要はない様にも思えるが…
「まだまだ、ヴィザリオンは強化できるよ」
霧山が以前と同じように怪しげな笑みを浮かべる。そして再び不快な気持ちを感じる勝であった。

―2010年10月7日木曜日午後2時25分―

「がはあぁぁっ!?」
その日、街に現れた神獣ガーマスに対して、勇者達はヴィザリオンとオーガガーディアンの二人だけで戦っていた。
神威はまだ修理中である。その穴を埋めるかのように、二人はいつも以上の力で戦っていた。それこそ、ヴィザリオンは120%の力を出し切るように、オーガガーディアンは鬼神のように。
「第七層、大焦熱地獄っ!!」
オーガガーディアンは両手で剣を持ち、ガーマスの頭上から思い切り振り下ろした。
「がっっっっ……!!!」
声にならない悲鳴をあげ、ガーマスは地面に叩き伏せられる。
「うおおぉぉぉぉぉっ!!」
同時に、ヴィザリオンがオーガガーディアンの後方からガーマスに向かって駆け出し、
「がふっ……!!」
ひれ伏していたガーマスを下から上へと切り上げた。
「これでとどめだっ!!」
そして、空中に舞い上がってるガーマスに剣を構え、
「フェニックスブレイドッ!!」
ヴィザリオンが叫ぶと、フェニックスブレイドの刃が高熱を発して赤く光り始める。
「フェニックスッ、ディバイディイィィィィィッ!!!」
そしてガーマスに向かって飛び上がると、ヴィザリオンは大きく振りかぶり、フェニックスブレイドをガーマスに向かって思い切り振り下ろした!!
フェニックスブレイドとガーマスが激突し、辺りに衝撃波を撒き散らす。
「切り裂けえぇぇぇぇぇ!!」
そして、ガーマスはいとも簡単にフェニックスブレイドに両断されてしまった。
二つに切り裂かれた身体は、そのまま爆発、四散する。
「俺の……勝利だ!」

―2010年10月7日木曜日午後2時30分―

「ふぅ……」
戦闘を終えて、ヴィザリオンとオーガチームは一息ついていた。
「しかし、神威がいないとはいえ、あんなに滅多打ちにしてよかったのでしょうか……?」
「俺達の戦い方としては、荒々しすぎたか?」
「何言ってるんだ、あれぐらいの事じゃないと、奴らは倒せねーぜ」
「その意見には、あまり賛同は出来ないな……」
「何!?」
こんな会話は、ほとんど日常茶飯事だ。神威がいない事を除けば。
(……俺達は、神威がいない事で少し焦ってるのかもしれないな……)
神威に対する罪の意識は、粋に話した後でも正直消えてはいない。だが、その事を引きずっていても、神威が今すぐに復活するわけでもない。だったら、この罪の意識も力に変えて神威の分も戦おう。
そう思っていたのだが……さすがに、力を入れすぎただろうか?
自分もまだまだ未熟なんだな、と、自分を省みていたその時だった。
「っ!!?」
突然、空を黒い雲が覆いつくした。
いや、雲ではない。大量の蟲だ。蟲が、空を覆いつくしてこちらに向かってきているのだ。
「な、なんだ!?」
突然の事に動じる4人。
「君達への、僕からの贈り物さ」
「!?」
突然、後方から声が聞こえてきたので四人が振り返る。
そこには、忘れもしない、あのアルディアの姿があった。
「アルディア!」
「君達にかまっていられるほど、僕たちは暇じゃない。だから、ここで一気に終わらせてもらうよ」
そう言ってアルディアが手を上にかざすと、大量の蟲フリキードがヴィザリオン達に向かって一斉に襲ってきた。
「くっ……!」
「このっ! うっとおしいんだよ!」
全員がその大量のフリキードに襲われ、必死にはたき落とす。しかし、フリキードはヴィザリオン達にとっては蚊やハエほどの大きさでしかなく―それでも、全長20cmはあるが―しかも大量に存在するため、全くと言っていいほどきりがない。
しかも、ただうっとうしいだけではない。
「うわっ!?」
「どうし……なっ!?」
フリキードはヴィザリオン達の体に取り付くと、次から次へとそのストローのような口を突き刺し、
「エ、エネルギーが……!?」
ヴィザリオン達の体のあらゆる所からエネルギーを吸い取り始めた。
「くっ……このっ!」
ヴィザリオン達はそれを何とか振り払おうと懸命に腕を振り回したりする。
「何ともこっけいだね」
そんな姿は、アルディアの言うとおりこっけいでしかなかった。
「ぐ……!」
「どこまでも、ムカつくヤローだぜ……!」
オーガファイターが悪態をつくも、下手をすれば負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
「だっ……たら……!」
こんな状況を打破すべく、
「ユニコーン、キャノォォォォン!!」
ヴィザリオンはゆっくりと腕を空に突き出した。

しばらくして、キャノンユニコーンがヴィザリオンの元にたどり着くと、
「うああっ!」
ヴィザリオンは全身を思い切り震わせてフリキードを振り払い、
「モードチェンジッ!」
ユニコーンはヴィザリオンの掛け声によりその姿を変形させ始める。
ユニコーンの首が前に倒れ、胴体から角が一直線になった。
次に、脚が折りたたまれると同時に背中に持ち手が出現し、尾が弓形となって持ち手となる。
変形が完了すると、ヴィザリオンは完成された大砲を手にし、
「キャノンッ! ヴィッ!! ザリッ!! オォォォォォンン!!!」
ユニコーンキャノンを構えた。

「オーガチーム! 全身の蟲を振り払ったら全速力で退避!」
「り、了解!」
ヴィザリオンの指示を仰ぎ、オーガチームの三人は急いで全身のフリキードを振り払い、その場から退避した。
「トルネェェドッ、ユニコオォォォォン!!」
それと同時にヴィザリオンはユニコーンキャノンから螺旋を描きながら飛んで行く無数のエネルギー弾を放ち、フリキードの大群を貫いた。
それでも、大軍の何割かはその攻撃から逃れ、再びヴィザリオン達に襲い掛かってくる。
「これぐらいなら!」
すると、ヴィザリオンはユニコーンキャノンを手放し、
「エナジィィィィッ、インパクトォッ!!」
エネルギーを纏った拳で次々とフリキードを叩き落していった。
「私達も行きますよ!」
「わかっている……!」
「合点承知だぜ!」
ヴィザリオンが火付け役となったのか、オーガチームもそれぞれの武器でフリキードを落としていく。
「攻防一体! ディフェンス・トンファー!!」
「スピードッ、シューートォ!!」
「ファイティングドリルッ!!」
次から次へと落とされ、無力と化していくフリキード。
「………………」
本来なら怒りや憤りを感じていてもおかしくないアルディアだが、何故かその表情は涼しげだった。
「はああぁぁぁぁっ!!」
そして、今、最後のフリキードがヴィザリオンの手によって落とされた。
「へぇ……アレだけの数を全て落としたんだ……」
「くっ……!」
妙に感心したように呟くアルディア。その態度はヴィザリオン達にとって逆に怒りを覚えさせた。
「まあ、君達もわかっていると思うけど、これで終りじゃないからね」
そう言ってアルディアが笑みを浮かべた、次の瞬間、
「っ!?」
突然、上空からミサイルがヴィザリオン達に向かって襲い掛かってきた。
「な、何だ!?」
何とか間一髪で回避に成功したヴィザリオン達。
しかし、間髪入れずに次から次へとミサイルが、それこそ雨のように降りかかってくる。
「くそっ……!」
ヴィザリオン達はそのミサイルの雨を必死に避けるが、それによって街は次から次へと破壊されていった。
すでに避難は完了しているから死傷者が出る事がないとは言え、建物が破壊されるのは,決して放っておける事ではない。
「さすがに、こんなんじゃ生ぬるいか……なら、これでどうかな?」
アルディアが手を上に掲げる。すると、
「!?」
「ぐわああぁぁぁぁぁっ!!?」
今度はミサイルではなく、エネルギー弾が激しい雨のように放たれてきた。
先ほどのミサイルとは違って面での攻撃のため、一瞬の判断だけで回避することができず、ヴィザリオン達はエネルギー弾の雨をまともに受けてしまう。
「あ……ぐ……!」
この攻撃はかなり効いたらしく、まともに立ち上がる事さえ困難になっていた。
「やっぱり、ちょろちょろと動き回る虫には面での攻めが効くね」
満身創痍といってもいいほど傷ついたヴィザリオン達を見下ろし、アルディアは嘲笑する。
「アル……ディ、ア……!!」
ヴィザリオン達に怒りがこみ上げてくる。しかし、体を動かそうとしても思うように動いてくれない。
エネルギー弾の雨だけでなく、先ほどのフリキードにエネルギーを吸収された事もあって、各部に十分なエネルギーが行き届いておらず、それによって動きが鈍くなっている。
「さて、これで本当に終りにさせてもらうよ。君達との縁もね」
アルディアは嘲笑したまま、手を上に掲げようとする。だが、その時であった。
「……!」
「それは……こっちの……セリフ、だ……!」
「!?」
オーガスピーダーが、ゆっくりではあるが立ち上がった。
「俺達は……これぐらいの攻撃、ダメージで倒れるほど、弱くない……!」
「当たり前だ……まだ、果たしてない事も、あるしな……」
次はオーガファイターだった。
「地球に住む全ての人のため……そして、私達に、笑顔をくれた……人の、ために……!」
続けてオーガディフェンダーが。
「これ以上……お前達の好き勝手には……させない……!」
最後に、ヴィザリオンが立ち上がり、
「俺達の……大切な、帰る所を、傷つけさせたりは……しない!!」
アルディアに向かって思い切り吼えた。
それは、戦いの始まりの時から既に抱いていた想い。誰しもが持っている、希望という光を放つ想い。
人の心にある光を消させはしない。
「……何故……なんだ……」
ヴィザリオン達のその不屈の精神、消える事のない闘志。それをアルディアは理解できずにいた。
彼らは、何故崖っぷちの絶望下に置かれても、あきらめという選択肢を取らないのか? 死と言う楽の道を選ばず、戦いと言う苦しみの道をあえて選ぶのは何故だ? 何故、そこまでして…
「お前達みたいな輩には、一生理解できない……! これが、人間の……人の持つ、心だっ!!」
ヴィザリオンの言葉が、アルディアの胸に深く突き刺さる。
「くっ……! ごたくを並べていられるのも、今のうちだけだ!」
アルディアは当惑しながらも次の指示を出そうと再び手を上に掲げようとした、まさにその時だった。
「この戦いに勝利するのは、俺達だっ!!」
突然、ヴィザリオンが腕を空に突き出し、
「ザウラァァァァ、ナックルゥッ!!」
「!?」
あるキーワードを思い切り叫んだ。

VES本部。
「ヴィクトリーウェポンNo.4・ナックルザウラー、スタンバイ!」
日高の言葉と共に、ヴィクトリーウェポンである二体の肉食恐竜型のマシン―ナックルザウラー―が発進準備される。
「発進!」
そして、ナックルザウラーは発進口を通り、走り出していった。

しばらくして、ナックルザウラーがヴィザリオンの元にたどり着くと、
「モードチェンジッ!」
ヴィザリオンの二つ目の掛け声により二体は同時にその姿を変形させ始める。
ナックルザウラーはその上半身を横に半回転させ、尾と足を体に収納する。
それと同時に、機体内部から巨大な拳を出現させた。
ナックルザウラーの頭部は折りたたまれて拳の上部となり、それはまるで手をガードする甲のようになった。
変形が完了すると、ヴィザリオンは巨大な拳を自分の腕に装着し、
「ナックルッ! ヴィッ!! ザリッ!! オォォォォォンン!!!」
アルディアに向かって思い切り構えを取った。

「な、何だ……!?」
ナックルヴィザリオンのその姿に、驚きを隠せないアルディア。
『今回もテスト無しのぶっつけ本番だが、問題ないか?』
そこに、ヴィザリオンの通信回線に峯島がつなげてきた。
「はい、問題どころか付属されていたエネルギーパックで動きが楽になりました」
ヴィザリオンはそういいながら軽く体を動かす。
「く……だけど、いくら新しい物を入れても、君たちはここで終わる!」
アルディアはやや焦り気味に手を上に掲げた。
『ヴィザリオン! そこから北西約70mの地点から上空へ約400m!』
「了解!」
ヴィザリオンは富士の少し雑な指令を受け、空に向かって思い切り跳躍した。
「な……!? 空を、飛んだ……!?」
その姿に、アルディアは再び驚く。
正確に言うと、ヴィザリオンは空を飛んだわけではない。思い切り跳躍し、そこからブースターで滞空しているのだ。
ヴィザリオン達VESの勇者達は、ほとんどが空を飛ぶ事ができない。唯一、空を飛べるのは朱雀神だけであり、空戦は朱雀神に任せるのがほとんどだ。
しかし、今回は神威がおらず、空中への攻撃はヴィザリオンのユニコーンキャノンに限定される。
だが、ユニコーンキャノンは滞空しながら撃つ事は不可能であり、空中への攻撃と言ってもせいぜい100m強が限界だ。そうなると、ヴィザリオン達は空中への攻撃が事実上ないと言ってもいい。アルディアも、それを考えて神人サティレートで攻撃していたのだ。
「おおおぉぉぉぉぉっ!!」
反撃ができず、どうする事もできないヴィザリオン達だったが、それを打破したのは、ナックルザウラーだった。
「見えた!」
ヴィザリオンは、その眼中にサティレートを捕らえた。サティレートは今まさに、大型キャノン砲を構え、オーガチームのいる所へと撃とうとしていた瞬間だった。
「全ての想いを……この拳に、込める!!」
拳をぐっと握りしめ、滞空しながら構えを取る。
ナックルザウラーならば、滞空しながらでも攻撃は可能である。
原理は簡単だ。
昔からスーパーロボットと言われる巨大ロボット達が、悪を次から次へと砕いていった、オーソドックスだが有用なこの攻撃手段。
今、ヴィザリオンはザウラーナックルを放つ!!
「ザウラァァァァッ、インパアァァァァァルスゥッ!!!」
「ぐぅぅっ!!」
激しい音と共にザウラーナックルがサティレートへと撃たれ、内蔵されているブースターで急加速して突き進む。
その反動でヴィザリオンは勢いよく落下していく。
「貫けえぇぇぇぇぇぇ!!」
ヴィザリオンの叫びが轟いたと同時に、ザウラーナックルはサティレートに達し、サティレートを拳で砕いた。
サティレートはそのまま爆発四散し、ザウラーナックルはそのまま地面へと落下する。

「ヴィザリオン!!」
上空から落下するヴィザリオンを発見したオーガチームはその傷ついた体を全力で動かし、
ガシイィィッ!!
地面と激突する寸前でヴィザリオンを受け止めた。
「ぐっ!」
その反動が大きかったのか、ヴィザリオンはうめき声を漏らす。
「大丈夫ですか!?」
「上空の敵は!?」
「倒したのか!?」
オーガチーム三人から同時に質問を受けるヴィザリオン。
「俺は、大丈夫だ……上空の敵も、倒した……」
ヴィザリオンはその質問に答えると、ザウラーナックルのない方の手で親指を立てるサインを見せた。
そして、ヴィザリオンの中で、勝は自然と笑顔になっていた。

―2010年10月7日とある時刻―

聖なる宮殿ゴッドパレス。
「何故なんだ……」
アルディアは、先刻の、そして、前回の戦闘を思い返していた。
いずれの戦闘も、自分の予想外の範囲で結果が出てしまっている。前回は止めるためとは言え自分の仲間を手にかけた。先ほどは絶望に身を任せる事無く立ち向かい、しかも向こうが勝利している。
自分の考えた作戦は、全てが成功するはずだった。向こうの行動を予測した上での作戦だったから、それは間違いないはずだった。
しかし、自分は二度も負けてしまっている。勝てるはずの戦いでも、だ。
「……人の心……」
アルディアは、ふと先ほどの戦闘でヴィザリオンが叫んだ言葉を思い出し、口にした。
「……もし、それが、ボクの敗因だとしたら……」
アルディアの表情がわずかにゆがむ。
「……もっと、研究する必要があるな……」
そう言って、アルディアはその場を去っていった。表情を険しくして。

―2010年10月9日土曜日午後3時49分―

「………………」
優菜は、かつで神威とはじめて出会った橋の上でボーっと川を見つめていた。あの時と同じように。
だが、気持ちは違う。今はあの時みたいに悲しみや苦しみで心は埋まっていない。今心を埋めているのは、不安と寂しさだった。
「何で……来ないのよ……!」
そして、ほんの少し怒りも混じっていた。
理由は、神威にある。
優菜は神威に助けられたあの日以来、ほぼ毎日神威とこの橋の上で会っていた。戦闘があって神威が来なかった日もあったが、その翌日になって神威は事情を話してくれたので1日や2日なら来なくても平気だった。
しかし、今はどうだろうか?
神威はもう5日も来ていない。何か事情があるにせよ、自分をこんなに待たせてどうするつもりなのだろうか? それとも、神威の身に何かあったのだろうか?
いろんな事を考えていると、不安が渦巻き、寂しさが募ってくる。
「神威の……バカ……」
目に涙を浮かべ、優菜は言葉を呟いた。

―2010年10月9日土曜日午後10時21分―

VES格納庫。
「……どうにか、ほとんど修復できたな……」
霧山は疲れ果てたような顔で、横たわる神威を見つめていた。この前の戦闘がまるで無かったかのように、傷がなくなっている。
だが、相変わらず瞳に光は灯っていない。
「……けど、果たして記憶が残っているかどうか……」
ため息をつきながら、霧山が壁にもたれかかってその場に座り込む。
「……もし、残っていなかったら、全部一から教え直すしかない、か……」
そう言って、ちらっと神威の横にあるマシンに目を向けた。
「せっかくのマシンだけど、しばらく出番はないかな……?」
霧山のその言葉には、どこか自嘲的な感情も混じっているように思えた。

To be continued…


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忘れ……ちゃった、の……?

修復が完了し、戦線復帰した神威。しかし、その神威は以前の神威とは違っていた。
全ての記憶をなくし、ヴィザリオン達の事はおろか、優菜の事さえも初対面と認識した神威。
傷つく心、悲しみの涙。その表情に、何故か神威は痛みを感じる。
そんな優菜に、危機が迫る。優菜を、与えられた命令で優菜を守ろうとする神威。
少女の涙の先にあるのは、笑顔か、悲しみか……?

勝利勇者ヴィザリオン 第13話「涙の向こう側」

もう一度……いえ、何度でも、あなたの笑顔が見たいから……!

初回公開日:2004年1月5日

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