第11話「痛い涙」


―2010年10月3日日曜日午後3時29分―

……俺は、この時を忘れない。

この瞬間を忘れたら、お前の全てを忘れる事になるかもしれないから…

お前は、俺達の大切な仲間だ。

代わりなんていやしない。

……出来る事なら、またお前と一緒に戦いたい。

だけど、それは少なくともしばらく叶わないのだろう…

……分かってる。復讐なんてしない。

そんな事、お前は望まないしな。

お前は、誰よりも人の心を大切にしている。

……だからこそ、お前を失った事が、痛いんだ……


第11話「痛い涙」

―2010年9月27日月曜日午前8時45分―

その日、流沢スクール第1教室に、少し時期を外した一人の転入生がやってきた。
「明智 慎(あけち しん)です。年は16歳、普通の学校だと高一かな? これから、よろしくお願いします」
慎と名乗った少年は、自己紹介を終えると一礼し、柔和な笑顔を見せた。
「……彼、只者じゃないわよ」
ほとんどの人物が暖かい拍手を慎に送っている時に、菜摘がぽつりとつぶやく。
「どういう意味なんだ、菜摘?」
「そのままよ、勝。普通じゃありえないような事を、彼は成し遂げたのよ」
意味深な表情で勝の質問に答える菜摘。
菜摘の言葉に、勝だけでなく粋、賢、灯矢も耳を傾けていた。
「で、彼は何をしたの?」
「いい? 聞いて驚かないで……」
思わずつばを飲み込む四人。
「彼は……」
「うん……」
「……流沢スクール編入試験を、全て満点で合格したのよ」
次の瞬間、五人の間に冷めた空気が流れた。

―2010年9月20日月曜日とある時刻―

聖なる宮殿ゴッドパレス。
「人間の社会に潜入する?」
アルディアの発した言葉に、ブレイグとゼイヴァはほぼ同時に言葉をオウム返しした。
「そう。君達の失敗が重なり、思ったよりも進展がないからね。僕もそろそろ動こうと思ったんだ」
「……随分な言い草だな」
ブレイグは表情を変えずに言ったが、内心は怒りがこみ上げてきている。
「お前の事だ、ただ潜入するだけとは言わないだろうな?」
「勿論、策は考えてあるさ」
アルディアは小さく笑みを浮かべた。
「ただ、一つだけ言っておくよ」
「何だ?」
「これから僕のやる事に、決して疑問を抱かないように」
そういいながら、アルディアは人差し指を立てた。
だが、アルディアの言葉の意味がわからず、二人は表情をわずかに変える。
「どういう事だ?」
「じきに分かるよ」
アルディアは、再び小さく笑みを浮かべる。その笑みは、どこか不敵にも見えた。

―2010年9月27日月曜日午前10時21分―

ここは、流沢スクールの脇にある花壇。10年前まではほとんどと言っていいほど使われておらず、荒れ果てていた状態だった。
だが、偶然それを発見した粋によって、花壇は一変した。
元々植物を育てる事が好きだった粋が、その花壇を必死になって生き返らせ、いっぱいの花を植え、季節によって様々な花が咲くようにした。
今でも使っているのは粋一人がほとんどである。
それも、勝がこの街に来た事によって、さらに変わった。
今まで粋一人で行っていた作業を、勝も手伝う事にしているのだ。
「ありがとう、勝くん」
「二人で分担するって決めたんだから、礼なんていらないよ」
勝が流れてくる汗を手で拭うと、その部分に茶色い筋がついた。土のついた手で拭ってしまったからだ。
「フフ……勝くん、土がついてるよ」
「え?」
粋の笑いながらの指摘に、勝は少し照れながらも手で土を落とそうとする。しかし、同じ手でやってはかえって意味がない。
「ほら、タオル……」
「あ、ああ。悪い……」
粋からタオルを渡され、それで顔を拭く勝。
「何してるのかな?」
そこに、聞きなれない声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには先ほど顔を見たばかりの少年、慎がいた。
「明智……」
「慎でいいよ」
慎は先ほど教室でも見せた柔和な笑顔をする。
「じゃあ、慎。よくここが分かったな。ここは……言ったら悪いかもしれないが、あまり人が来ない場所だ」
「さあ? なんとなく足を運んでみたら、ここにたどり着いたんだよ」
とぼけた口調で慎は勝の質問に答えた。
「そうか……」
「……ところで、さっきの質問に答えて欲しいんだけど」
「あ……」
勝はすっかり忘れてた、という表情を思わず出してしまう。
「この花壇のお手入れをしてたの」
慎の質問に、粋が硝の代わりに答えた。慎はそれを聞き、粋の指した花壇を眺めた。
そこには、花壇一面とはいえないまでも、かなりの数の花が咲いており、にぎわせていた。
「へぇ……すごいものだね……」
「そ、そうかな……?」
粋は慎の感心の言葉に、思わず頬を赤く染める。
「………………」
花壇をじっと見つめる慎。その表情は、どこか悲しげにも見えた。
「あ、」
その時、勝が妙な声を上げた。あまりの妙らしさに、その場にいた粋と慎まで妙な顔をしてしまう。
「どうかしたの?」
「ちょっと、用ができた。悪いな、粋」
少し歯切れが悪い口調で勝が粋に謝る。
「え、ううん、いいよ。仕方がないもの」
粋は笑顔で答えるものの、寂しさが少し入り交じっていた。
「それじゃ、行ってくるから」
「うん」
粋の返事を待たずに、勝は急いで駆け出していった。
「……彼は、どこへ行ったのかな?」
ただ一人、事情が飲み込めない慎が首をかしげながら粋に質問する。
「え……っと……、あ、アルバイト……」
粋は、それに対してなんて答えていいか迷ってしまい、先ほどの勝よりもさらに歯切れの悪い口調で答えた。
それもそのはず、勝は戦いに向かったのだ。
だが、その事を知っているのは勝と、勝と親しい四人のクラスメートだけだ。それに、この事を他人に話してはいけないと、勝自身から釘を刺されている。
そのために、粋は歯切れが悪くなってしまったのだ。
「ふーん……」
慎は納得したような返事をしたが、どう見ても怪しんでいる。
「あ、し、慎くんも、手伝ってくれる? 花壇のお世話……」
その場を何とかごまかそうと、粋は慌てて慎の気をこっちに向けようとした。
「ん? ……いいよ」
慎は先ほどと表情をあまり変えなかったが、粋の申し出を受け入れ、花壇の手入れを手伝う事にした。

この数時間後、勝ことヴィザリオン達VESの勇者はいつものごとく現れた敵を倒す事に成功した。
本来ならば、これだけで済むはずだった。
だが、今回はそうは行かなかった。
翌日、敵は再び現れた。しかも、全く同じ敵が。
再生したというわけではないが、いつものパターンと比較すると、これを疑問に思わずにはいられなかった。
それでも、現れた敵は倒さなければならない。この星に住む人々を守るためにも。

敵は、五日間連続で現れた。

―2010年10月1日金曜日とある時刻―

「あいつは、一体何を考えている?」
ブレイグは、今までずっと疑問に思っていた事を口にした。
「さあな。ただ、何かの作戦だというのは明確だろう。アルディアなら私に劣らず頭の回転が速いからな」
「………………」
ゼイヴァの今の言葉が、自分へのさりげない皮肉だとブレイグは気付き、表情をゆがめる。
「そろそろ仕掛けるよ」
「!?」
その時、部屋の奥からアルディアの声が聞こえてきた。
ブレイグとアルディアはそれに少し驚き、勢いよく振り向く。
「十分に情報を収集できたからね。君達の戦闘情報も組み合わせて、最初の標的を決めたよ」
「最初の標的だと?」
「……彼らは単体でも強い。しかし、単体の力だけだったら簡単に倒せるはず。それでも倒せないのは何故か?」
アルディアは、二人に教えを説くように語り始めた。
「それは、彼らの団結力にある。団結し、単体の力を何倍にも引き上げている。それが敗因となっている」
「ならば、その団結を崩すと?」
「そう。そして、その団結を崩すに最適な作戦が、ここにある」
不敵な笑みを浮かべ、アルディアは手に持っていた物を二人に見せる。
「……これを、何に使うつもりだ?」
「見ていればわかるよ」
アルディアの笑みは、二人も恐ろしく感じられた。

―2010年10月3日日曜日午後2時19分―

その日、人のような姿をした、アルディアの配下である神人(しんと)ムーオットがアルディアと共に街に現れた。だが、破壊行動などは行わず、その場にたたずんでいる。まるで、何かを待っているかのように。
いや、実際ムーオットは待っていた。これから来るであろう敵を。戦わなければならない、滅ぼさなければならない者を。
「………………」
ムーオットの頭上で、アルディアは目を閉じて立っていた。
「……来たか」
すると、アルディアは目を開け、真正面を見つめた。アルディアの視界は全くと言っていいほど変わってなかったが、アルディアは来た事を感じたのだろう。
アルディアがつぶやいてから一分も経たずに、彼ら勇者は現れた。
「お前は……!」
勇者の一人であるヴィザーは、ムーオットの頭上にいるアルディアに気付いた。
「お久しぶり、そして初めまして。僕は神の三天衆の一人、心の使徒アルディア」
「とうとう最後の一人まで現れたか……!」
「いい加減に君達を倒さないと、我々の目的が果たせないからね。ここで終りにさせてもらうよ」
アルディアが笑みを浮かべる。
「ここで終わるのは、そっちの方だ! 行くぞ、神威! オーガチーム!」
「了解しました!」
「おっしゃぁ!」
「了解……!」
「了解です!」
ヴィザーのかけ声に勇者全員は答え、それぞれの行動を開始した。

「ヴィクトリィィィィィッ、フォオォォォォォムッ!!」
ヴィザーは構え、合体するために思い切り叫んだ。

数分たつかたたないかのうちにヴィクトリーマシンはヴィザーの元へたどり着いた。
ヴィクトリーマシンがヴィザーを囲むように周りを回り始めると、四機の間に特殊な磁場が発生する。

ヴィクトリーマシンはそれぞれ胴体、右腕、左腕へと変形し、集結する。
「はあっ!」
ヴィクトリーマシンに向かってヴィザーが飛び上がり、ブロック状の形態となって結合する。
それと同時に各ヴィクトリーマシンが結合し、最後にカブトがヴィザーの頭部を覆ってマスクが覆うと、
「ヴィッ!! ザリッ!! オォォォォォンン!!!」
ヴィザーはヴィザリオンと名乗り、大きく構えを取った。

「現れよ! 四聖獣、『白虎』!!」
神威は構えを取りながら叫び、手を開いて思い切り上に突き出す。

しばらくして、白虎は神威の元へとたどり着くとその姿を変形させ、
「はっ!」
神威と結合する。
最後に、白虎の頭部が上を向いた状態から前を向いた状態になると口が開き、中から顔が現れ、
「地神武装! 白虎ぉぉぉっ、神っ!!」
神威は白虎神と名乗り、大きく構えを取った。

「フォオォォォォムッ、アァァァァァップッ!!」
オーガチームは咆哮した。

三人は一斉に飛び上がり、その姿を変形させていく。
そして、それぞれの変形が完了すると三人が合体し、体を形成する。
合体の完了した鬼神は地面に降り立ち、
「鬼神合体!!」
拳をゆっくりと握りしめ、
「オォォォガッ!! ガァァァァァァァディアァンン!!!」
獣のような眼で敵をにらんだ。

「そう、それでいいんだよ……」
三人の勇者の合体を見届けたアルディアは、先程と変わらず笑みを浮かべている。
「行くぞ!」
最初に攻撃を仕掛けたのは、ヴィザリオンだった。
「エナジィィィィッ、インパクトォッ!!」
ヴィザリオンは、エネルギーに包まれた左の拳でムーオットに向かってパンチを叩き込もうとする。
「何っ!?」
しかし、ムーオットはヴィザリオンの攻撃を片手で軽々と受け止めた。
「すでに攻撃は見切っている。生半可な攻撃だと倒せないよ」
「おおぉっ!」
続けざまに、白虎神が残像を残しながらムーオットに近づいてくる。その手には、武器である牙と刀が握られていた。
「幻っ!!」
白虎神はムーオットの背後に回ると、牙と刀で同時に攻撃した。ヴィザリオンの攻撃を受け止めている今、背後は隙が出来ている。
その隙をついたのだ。
「っ!?」
だが、牙と刀は目の前に現れたバリアのシールドによって防がれてしまう。
「このムーオットに、死角なし……!」
アルディアの表情を変える事が出来ない勇者達。
「これならどうだ……!?」
すると、ヴィザリオンと白虎神が同時にムーオットから離れた。その瞬間、ムーオットの目の前にオーガガーディアンが現れ、
「第五層、大叫喚地獄っ!!」
ムーオットに向かって剣を突き出した。
ガガガガガッ!!
突きは全部で五回行なわれた、が、いずれもピンポイントに強化したバリアで防がれてしまった。
「む……!?」
「だから、生半可な攻撃だと倒せないって言ったんだよ」
「………………」
勇者達は沈黙した。
確かに、それぞれの攻撃が通用していない。しかし、同じような敵なら、かつて何度も戦った経験がある。攻略がないわけではなかった。
「ならば、あの作戦でいくぞ、オーガガーディアン!」
「了解……!」
ヴィザリオンとオーガガーディアンは同時に行動を始めた。
「スタァァ、リィィィジョンッ!!」
ヴィザリオンは腕を空に突き出し、スターリージョンと叫んだ。

リージョンスターはヴィザリオンの近くまでやってくると、その機体を変形させてヴィザリオンの左腕と結合する。
「その攻撃なら……」
次に行動するパターンはすでに見切っている。そう思い、アルディアはムーオットに行動させようとする。
だが、
「!?」
「動かないで貰おう……!」
オーガガーディアンがムーオットの周りを剣で叩き、ムーオットを躊躇させた。
「ホォォォォォルドッ、リィィィィィジョンッ!!」
その間にヴィザリオンが左腕を思い切り突き出すと、ホールドスターが左腕から分離し、ムーオットを捕らえる。
そして、ホールドスターは鋭角部分から特殊エネルギーを発生させ、ムーオットの自由を封じた。
「………………」
ムーオットの頭上にいたアルディアは、飛び上がってその縛りから逃れる。
「オーガガーディアン!」
「了解……!」
続けてオーガガーディアンがムーオットに向かって構えを取り、
「この世から……消えろ!!」
オーガガーディアンは改めて構えを取ると、
「最終層……無間、地獄っ!!!」
ムーオットの身を消し去るほどの勢いで、何百何千にも切り裂いた!!
その身体は、爆発することもなくその場に塊として残った。
オーガガーディアンはその塊に剣を突き立て、
「邪悪、抹殺……!」
憎らしく言葉を吐いて涙を流した。
「俺達の……勝利だ!」
そして、ヴィザリオンはいつもの様に決めの言葉を口にした。
「果たしてそうかな?」
「!?」
本来ならばこれで終わるはずの戦闘だったが、今回はそう行かなかった。
「ぐあぁぁぁっ!!?」
「白虎神!?」
突然、白虎神の叫びが聞こえてくる。慌てて白虎神の方を振り向くヴィザリオンとオーガガーディアン。
見ると、白虎神は強制的に合体を解除され、神威の姿となってその場に立っていた。
そして、頭部の辺りにはクモに似た形をした機械が取りついていた。
「……神威……?」
「か、体が……!?」
神威は自分の体を動かそうとするが、全くと言っていいほど動いてくれない。
「貴様、神威に何を!?」
「見れば分かるよ」
「く……!」
アルディアがまた笑みを浮かべたその時、神威はヴィザリオン達に向かって刀を抜いて構えた。
「神威……!?」
「何を……」
「っ!?」
ヴィザリオンとオーガガーディアンが混乱していると、突然神威がヴィザリオンに向かって刀を振り下ろしてきた。
ヴィザリオンは何とか寸前で回避に成功したが、戸惑いは隠せない。
「神威!?」
「やめろ、神威! 一体どうしたんだ!?」
「か、体が、勝手に……! に、逃げて、ください……!」
次々と攻撃を繰り出してくる神威。その攻撃を辛くも避けるヴィザリオン、そしてオーガガーディアン。
神威の持つ刀は妖刀。うかつに腕などで防御しようものなら、腕を切り取られてしまう。だから、本来回避の苦手なヴィザリオンらも回避せざるを得ないのだ。
「くっ……!」
「なかなか滑稽だね」
アルディアの嘲笑にも似た言葉がヴィザリオン達にも聞こえてくる。
「アルディア……!!」
「これならどうかな?」
そういってアルディアが手を神威に向かってかざした。すると、神威の動きが突然止まった。
「く、ぅ……!」
かと思うと、神威は手を上に突き出した。
「! まさか……!」
「そう、そのまさかだよ」

―2010年10月3日日曜日午後2時31分―

VES司令室。
「長官! 神威から全聖獣の召喚コールが発動されてます!」
オペレーターである日高が焦った表情で長官の峯島に伝える。
「行かせてはならない。全聖獣のシステムを停止させろ」
峯島は冷静に指示を下した。
『ち、長官!』
その時、峯島の元に通信が入ってくる。
「どうした?」
『聖獣達が、強制的に発進しようとしてます!』
「!?」
格納庫にいるメカニックからの報告に、峯島は表情を険しくした。
『こちらからの制御が、一切ききません! このままでは……うわっ!?』
その時、通信機の向こうから爆音が聞こえてきた。
「どうした?」
『せ、聖獣がシャッターを突き破って、出撃しました!』
「……!」
峯島は言葉を発さなかったが、表情は完全に苛立ち、焦りが見えていた。

―2010年10月3日日曜日午後2時39分―

神威のもとに、四体の聖獣がそろった。
「……何故、聖獣が……?」
「僕の作った制御装置は、この君達が神威と呼んでる人形と、それに繋がるしもべを操る事が出来る。君達の、そしてこの人形自身の意思に反して、ね」
アルディアの言葉で、全ての謎が解けた。
何故、先日の敵は連続して現れたのか? 何故、今回の敵はいとも簡単に負けたのだろうか? 何故、神威は突然自分達を襲ってきたのだろうか?
これらは全て、アルディアの作戦だった。
「さて、まずはこれから行ってみようか」
アルディアが再び神威に向かって手をかざすと、神威はゆっくりとではあるが動き出した。同時に、聖獣の一体である朱雀も動き始めた。

朱雀の翼の下部にあるブースターがスライドして腕を形成した。
足が後ろに上がり、身体に対して一直線になると、爪を収納してつま先を立たせ、脚を形成する。
朱雀の背部には、空洞が存在していた。
「くっ……!」
神威は朱雀に向かってジャンプするとその姿を手裏剣の形に変形させ、空洞と結合する。
同時に、腕から拳が出現し、朱雀の首がスライドして前を向いた。
最後に、朱雀の口が開いて中から顔が現れると、神威は朱雀神となって地面に降り立った。

「朱雀神……!」
対峙するヴィザリオン・オーガガーディアンと朱雀神、そしてアルディア。
「さあ、第二幕を開けよう」
望まない戦いが、再開した。

「くっ……!」
朱雀神が剣と刀を十字に構え、オーガガーディアンに向かって振り下ろしてくる。
「っ!」
オーガガーディアンはそれをかわすが、刀の方は完全にかわす事が出来ず、わずかな傷を作ってしまう。
「くぁっ……!」
連続して、朱雀神は刀を腰の位置で構え、素早く振り抜いた。すると、横一文字の真空の刃が発生し二人に襲ってくる。
「はっ!」
その攻撃も回避する二人。
「ぐあぁっ!?」
「ぐっ……!?」
だが、追うように朱雀神が第二撃を放っており、ヴィザリオンとオーガガーディアンはそれを回避できず、ダメージを負ってしまう。
「に、逃げて……ください……!」
さらに、朱雀神は剣を逆手に持ち直し、ヴィザリオンを下から上に向かって切り裂いた!
「がはっ……!!?」
ヴィザリオンは蓄積されたダメージに耐えられず、倒れてしまう。
「ヴ、ヴィザリオン……!」
「く、そ……! 十文字斬りに空の連発、そして朱雀飛翔のコンボか……!」
次々と繰り出してくる朱雀神の攻撃に、圧倒され気味のヴィザリオンとオーガガーディアン。
「次は、これで行ってみようか?」
アルディアがまた、朱雀神に向かって手をかざした。すると、朱雀神は合体を解除し、今度は青龍が動き始める。
青龍はその姿を変形させ、神威と結合し、青龍神となった。
「今度は青龍神か……!」
「さて、いつまで耐えられるかな……?」
アルディアが笑みを浮かべると、青龍神は攻撃を始めた。
「くっ……!」
青龍神は鎚を取り出し、その長い柄によるリーチを利用して、やや離れた位置からオーガガーディアンに向かって振り下ろしてきた。
「ッ!」
とっさにオーガガーディアンは剣でそれを受け止め、連続して青龍神に近づくと、
「ハァッ!」
青龍神に向かって反射的に剣を突き入れようとした。
「やめろ、オーガガーディアン!!」
「!!」
だが、ヴィザリオンの言葉に我を取り戻すと、青龍神に突き入れられようとした直前で剣を止める。
「甘いね」
「ぐっ……!?」
その瞬間、オーガガーディアンの脇腹に鎚が叩きつけられ、
「ぐぅぅっ……!!?」
何度も鎚で体の各部を叩かれた。
「お、オーガ、ガーディアン……!」
そして、止めと言わんばかりに青龍神は鎚を構え、
「がふっ……!!」
オーガガーディアンの腹部に向かって鎚を思い切り叩き込んだ。
その衝撃により、オーガガーディアンが吹き飛ばされる。
「青龍、烈波……!」
「ぐ……は……っ……!!」
かつて受けたことのないダメージに、悶え苦しむオーガガーディアン。
「君の仲間の一人は、戦闘不能みたいだね」
アルディアのその言葉に、ヴィザリオンは怒りがこみ上げてきた。
「アルディア……貴様……!!」
「おっと、僕は何もしてないよ。やったのは、君の仲間……いや、元仲間さ」
『元』の部分をわざと強調して言うアルディア。
「ふざ……けんなぁぁぁぁ!!!」
その言葉に、とうとうこらえきれなくなったヴィザリオンは怒りをあらわにし、腕を大きく上に突き出した。
ヴィザリオンのその動作は、ヴィクトリーウェポンを呼ぶ合図だった。

しばらくして、ヴィザリオンの元にブレイドフェニックスがたどり着くと、ブレイドフェニックスはその姿を変形させ、剣となる。
その剣の柄を両手でしっかりと握り、アルディアに向かってヴィザリオンは構えた。

「アルディア! 俺は、お前を許さない!!」
「許さなくてもいいけど、まさかそれで僕を殺すつもりかい?」
「っ!」
頭に血が上って思考が停止していた事に、ヴィザリオンはようやく気がついた。
ヴィザリオンとアルディアは、体格差とは言えない位に差がありすぎる。それなのに、今自分はこのフェニックスブレイドでアルディアを倒そうとした。
実行に移さなかったとはいえ、自分のなそうとしていた事が、どれだけ愚かか、思い知らされた。
「フ……」
だが、その時であった。
「ヴィ、ヴィザリオン……!」
「ぐはっ!?」
突然、腕に鈍い痛みを感じたかと思うと、自分の体が横に吹き飛んでいた。
青龍神が、鎚でヴィザリオンを攻撃してきたのだ。
「ハッハッハッハッハ! 本当に馬鹿だよ。馬鹿で愚かだよ、君達人間は! 全然何も考えられないくせに、自分達は知恵を持った者だと思い込んでいる! だから自分の過ちにも気づけないんだよ!」
アルディアが、初めて思い切り嘲笑した。
「アル、ディア……!」
「さて、こんな茶番はそろそろ終わりにしよう」
そう言って、アルディアが再び青龍神に手をかざした。
ゆっくりと、青龍神がヴィザリオンに近づいてくる。
「ぐ……!」
体を起こそうとするヴィザリオン。だが、完全に起こしきる前に、青龍神が自分の元にたどり着くだろう。
自分は、このまま操られた仲間の手によって倒されてしまうのか?
人々を守る事が出来ずに、死んでしまうのか?
仲間一人、救えずに終わってしまうのか?
様々な思いがよぎり、悔しさがこみ上げてくる。
「ヴィ、ザリオン……!」
「青龍神……!」
「さあ、終わりだ……」
アルディアの言葉と共に、青龍神は鎚を振り上げた。
「っ!!」
ヴィザリオンは思わず眼をつむり、やられる事を覚悟した。

だが、
「………………?」
一向に、自分に止めを刺すはずの痛みが襲ってこない。
「ぐ……ぅぅ……!!」
「な、何だと……!?」
ゆっくりと目をあけて目の前の光景を見ると、青龍神は振り上げた姿のまま、静止していた。
いや、正確には若干震えていた。
「青龍神……!?」
「こんな事がありえるのか……!? 僕の制御装置は、完璧のはず……!?」
アルディアは、目の前で起こっている光景を信じる事ができずにただ驚愕している。
「ヴィザリオン……! 今の、うちに……私を……」
「青龍神……いや、神威……」
「私を……破壊、して……ください……!」
「な、に……!?」
青龍神の言葉に、ヴィザリオンは驚いた。
「このまま、だと……私は……望まない、行為を、してしまいます……! 私は……そんな事、したく、ありません……! ですから、ヴィザリオン……あなたの、手で……!」
青龍神、神威にとっても苦渋の決断だった。
自分が、操られているとはいえ仲間を攻撃する事は、耐え難い苦痛だった。誰よりも人の心を理解しているからこそ、その痛みは自分の心の痛みとして返ってきていた。
だったらこのまま仲間を傷つけるよりも、自ら死を選ぶ。
仲間を傷つける苦痛か、仲間を救う自分の死か。その二つの選択肢で、神威は後者を選んだのだ。
「俺には……俺には、そんな事、出来ない……!」
だが、仲間を傷つけたくないのは、ヴィザリオンにとっても同じだ。
「お願い、します……! 私、一人の、犠牲で……人々が、救われるのだったら……私は、喜んで……死にます……」
「神威……!」
神威は笑顔をヴィザリオンに見せるが、ヴィザリオンはそれを見るのも痛々しかった。
「ですから……ヴィザリオン……!」
「………………」
「くだらない会話は終わりだ!」
そこへ水をさすようにアルディアが言葉を荒げて三度青龍神に手をかざした。
「ぐああぁぁぁぁぁぁっ!!?」
青龍神に、最初のときと同じような激痛が走る。
「神威っ!?」
「ヴィ、ザリオ、ン……!!」
「くっ……!」
これ以上は、耐えられなかった。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ヴィザリオンはフェニックスブレイドを固く握りしめ、青龍神に向かって突進する。
「!? 何を……!?」
「神威いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
そして、ヴィザリオンはフェニックスブレイドをまっすぐ青龍神に向け、

青龍神の体に、突き立てた……!

「が……はっ……!」

青龍神は小さくうめき、口から血のようなオイルを吐いた。

「ば、馬鹿、な……!?」

―2010年10月3日日曜日午後3時25分―

「あ、ありがとう、ございました……」
「神威……!」
ヴィザリオンは、体の真ん中に穴の開いた神威の体を支えていた。
「すまない、神威……!」
「い、え……これで、いいん、です……」
神威はぎこちなく笑顔を見せるが、その笑顔は、励ましにはならなかった。
「ヴィ、ヴィザリオン……お、お願い、が、あります……」
「……何だ?」
「彼女を……優菜を、よろしく……お願い、します……」
「……それは、聞けない……!」
「な、ぜ……?」
ヴィザリオンからの思わぬ返事に、戸惑いを隠せない神威。
「お前は、まだ死ぬわけじゃない……生きて……これからも、ずっと、俺達と共に戦うんだ……!」
「……そう、ですね……」
神威はそう言って、笑顔を見せた。

その瞬間、神威の目から光が失われ、神威は停まった…

「おい、神威……?」

ヴィザリオンが話しかけるが、神威は返事をしない。

「神威……神威……神威……」

何度も、何度も、呼びかけた。返事をしてくれると、信じて。

「神威………神威いぃぃぃぃぃぃ……!!!」

だけど、それが叶わない事だと諭すと、ヴィザリオンは思い切り叫んだ。そして、ヴィザリオンは……勝は、涙を流した。

涙は、痛かった。

涙を流す時にも痛みが伴う事を、初めて知った………

To be continued…


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全ての想いを……この拳に、込める!!

今日も神の三天衆が送るものと戦う勇者達。だが、その中に神威はいない。
神威のいない分までも戦うヴィザリオン、そしてオーガチーム。そして、アルディアは新たな作戦を実行に移す。
狙いは、勇者の殲滅。
だが、それを黙って受けるヴィザリオン達ではなかった。
自分達の思い、人々の思いを、ヴィザリオンは拳に込める…

勝利勇者ヴィザリオン 第12話「叫ぶ想い」

君たちのその手で、勝利をつかめ!

初回公開日:2003年11月30日

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