第10話「過去」


―2010年9月22日水曜日午後1時32分―

その日も、勇者達は神獣と戦闘を行なっていた。
そして、その勇者達をサポートするため、VESのメンバーは司令室の前面にある巨大なモニターで戦闘の状況を確認しながら、各々がなすべき事を行なっていた。

「てめぇ……自分の言ってる事が分かってんのか!?」

だが、富士の怒声が、緊迫した雰囲気をより一層緊迫させた。
見ると、富士が上官であるはずの峯島の襟首を掴んで峯島を壁に押し付けている。

「……私の判断に、文句でもあるのか?」

「ああ、大ありだ!」

どうやら、峯島が勇者達に命令した判断が、富士にとって気に食わなかったものであったらしい。

「お前の頭はどうなってんだ? いくら敵を倒すためとはいえ、まだ避難の完了してないビル群を盾にするのは、いくらなんでもやるわけにいかねぇだろ!」

「………………」

富士が口にした、峯島の命令に一同は口を閉じる。

「正義は、多少の犠牲の上で成り立つ」

「だからって……だからって、本当に犠牲を出していいわけねぇだろうが!!」

富士は峯島の言葉でさらに怒り、首を締め上げるように峯島の身体を持ち上げた。

「てめぇは、あの時もそうだ! あの時だって、少しでも助けようとしていれば、万が一にでもあいつは……あいつは、助かってたかもしれないのに!!」

「………………」

(明……まだ、拓馬の事……)

再び訪れる沈黙。そのさなか、日高は富士が口にした人物の事を思い出していた。


第10話「過去」

―2005年10月8日土曜日午後9時16分―

雲が空を覆い、夜をさらに暗くしている時、空を暗躍する者がいた。
「ギィ……!」
鳥に似た姿をしているが、鳥ではない。
鳥にしてはあまりにも巨大すぎるその身体、奇怪すぎる容姿。明らかに地球上の生物ではない。いや、実際に地球上の生物ではなかった。
宇宙を彷徨い、時折近くの星に寄っては自分が生きながらえるために、そこに住む生物を食らう。
これはこの生物にとって本能なのだが、そうは言っても地球上では許される事ではなかった。人を食らう者は、例えそれが本能であろうと止めるしかない。
「ターゲット発見。No.107Huge Eagleだ」
その地球外生命体を、パイロットスーツのような服を着た青年が、ビルの上に待機させてある青い戦闘機のようなマシンの中から眺めていた。
『これで12匹目か。コイツらの回遊ルートに入ってるんじゃないか、地球は?』
戦闘機に取り付けられてある通信機から、違った青年の声が聞こえてくる。
「オレもそう思う。だけど、いずれにしろコイツらは捕獲して宇宙に放す。不可能と判断した場合、抹殺する」
『なるべくなら、殺したくはないけどな……』
通信機から聞こえる青年の声が、少しばかりトーンが下がる。
「仕方ないさ。オレ達の目的は地球の平和を守る事。犠牲が出てしまったら、あきらめるしかない」
『そうは言っても……』
「だったら、犠牲を出さないように行動する。俺が、何度も言ってるだろ?」
そう言いながら、青年は通信機の向こう側の青年に見せるように笑顔を作った。
『……そうだな』
青年の言葉を聞いて安心したのか、通信機の青年の声が少し和らぐ。
『それじゃ、行くとするか、拓馬』
「ああ、明」
拓馬と呼ばれた青年、龍崎 拓馬(りゅうざき たくま)は、通信機の青年に向かって、明と名を呼んだ。
通信を終えると、龍崎は前方に向き直り、操縦桿を握ると軽く深呼吸する。
「ヴィクトリー、出撃する!」
そして、自分をヴィクトリーと呼ぶと、操縦桿を動かして戦闘機を起動させた。

―2005年10月8日土曜日午後9時32分―

雲の上では、瞬く無数の星と月明かりが二つの影を照らしていた。
「ギィィ……!」
一つは、先ほどの地球外生命体。龍崎ことヴィクトリーは、Huge Eagleと呼んでいた怪鳥だ。
「おらおら、そっちへ行けってんだ!」
そしてもう一つは、怪鳥と同じぐらいの大きさの赤い戦闘機。その戦闘機が、装備されているバルカン砲を時折威嚇として撃ちながら、怪鳥を追い掛け回している。
『オッケー、明……じゃなかった。シャイン、後は任せろ』
そこに、先ほどのヴィクトリーからの通信が入る。
「ああ、頼んだぜ」
シャインと呼ばれた青年、富士 明は、ヴィクトリーの指示に従って戦闘機を旋回させて怪鳥から離れる。

「さて、おとなしく宇宙に帰ってもらう!」
ヴィクトリーはそういうと自分の戦闘機を雲の中から怪鳥の前に運ばせた。
「ギィッ!?」
突然現れた戦闘機に、驚く怪鳥。
「リージョンキャプチャー、発射!」
ヴィクトリーが目の前のパネルにあるボタンの一つを押すと、戦闘機からダビデの星をかたどったメカが戦闘機の後方から発射され、その身を分離させる。
次の瞬間、リージョンキャプチャーは怪鳥の周りを囲み、特殊エネルギーを発生させて怪鳥を捕らえた。
怪鳥は必死に脱出しようとその身を激しく動かすが、身動きが取れない。
「今回の奴は、そんなに力はないようだな。だったら、このまま宇宙に持って行かせてもらう!」
ヴィクトリーは怪鳥がまともに抗う事が出来ないのを確認すると、怪鳥を捕らえたまま戦闘機を上昇させた。
戦闘機はスピードを上げながら、夜よりも暗い世界へ向かっていく。
戦闘機とは言うが、このまま上昇し続けると、普通は大気圏の摩擦に耐えられず燃え尽きてしまう。にも関わらず、戦闘機は上昇し続ける。
「いつもの事ながら、大気圏脱出はきついな……」
そういいながらも、表情はいたって平静だ。
そうこうしている内に、戦闘機は成層圏を抜け、中間圏、熱圏へと入っていく。だが、見た所特に変わった様子は無い。
この戦闘機は、どうやら大気圏の脱出も可能なようだ。

「あと少しか……」
ヴィクトリーは、目の前にだんだんと広がってきた藍色の光景を見てつぶやいた。
気がつけば大気圏の完全脱出まであと少し。
5・4・3・2・1……
「……よしっ」
戦闘機は大気圏を抜け、重力の支配が届かない世界、宇宙へとたどり着いた。
はるか彼方で瞬く事もなく輝く星々、目の前にある白い月、後方にある青い地球。どれも宇宙でしか味わう事の出来ないものだ。
だが、今はそんな悠長な事を言っている暇はない。
「ほら、放してやるぞ」
そう言ってヴィクトリーが再び同じボタンを押すと、今度はリージョンキャプチャーは特殊エネルギーを消し、怪鳥の身を自由にさせた。
すると怪鳥は、戦闘機を襲ったり、地球に再び降りる事もなく、そのまま宇宙の彼方へと飛び去っていた。
「……さて」
ヴィクトリーはそれを見届けると、戦闘機を地球に向け、帰還するためにそのまま降下させる。
「こちら、ヴィクトリー。Valiant Earth Saviors、応答願う」
そして、通信回線を開き、報告を自らの所属する組織VESに報告する。
『こちら、Valiant Earth Saviors司令室。用件をお願いします』
通信機の向こうから、女性の声が聞こえてきた。
「Huge Eagleを無事宇宙に帰した。これより帰還する」
『了解しました』
ヴィクトリーは通信を切ったかと思うと、再び通信回線を開いた。ただし、今度はVESではない。
『おう、ヴィクトリー』
聞こえてきたのは、シャインの声だ。
「今終わった。これから帰還するが、その後どうする?」
『そうだな。久々に稔も入れてカラオケでも行くか。明日は日曜だし、ゆっくり歌い明かすとするか』
「分かった。久々にオレの美声を聞かせてやるよ」
二人は同時に笑った。
『さあ、雑談は後にして、さっさと帰って来い。彼女の稔も、お前の帰りを心配してるぞ』
「冷やかすな」
『事実は事実だ』

―2005年10月8日土曜日午後10時49分―

VES司令室。
「二人とも、ご苦労だった」
司令官である峯島が、帰還してきたヴィクトリーこと拓馬とシャインこと明に、穏やかな表情でねぎらいの言葉をかける。
「いや、いつもの事だから」
「そうは言っても、いつも疲れて帰ってきてるじゃない」
そういいながら拓馬に声をかけてきたのは、オペレーターである日高 稔。稔は持ってきたタオルを拓馬に手渡す。
「まあ、そう楽じゃないからな。でも、ここに帰ってきたら、疲れなんか吹き飛ぶ」
拓馬は手にしたタオルで顔を拭きながら、稔の方に向き直った。
「え?」
「こうやって、稔が待っていてくれてるんだからな」
「た、拓馬……」
拓馬が口にした恥ずかしいセリフに、顔を赤くする稔。
「まったく、よくそんな言葉を口に出来るよな」
拓馬の事を、あきれたような目で見る明。当の本人はあまり気にしてない様子だが。
「そんな龍崎君に、耳寄り情報」
「うぉっ!?」
そこに、突然明の後ろに霧山が現れた。いきなりだったため、驚いて横に飛びのく明。
「副官?」
「い、いつからそこにいたんだ……!?」
急激に高鳴った鼓動を止めるかのように、明は胸を抑えながら質問する。
「細かいことは気にしないでおいた方がいいよ」
霧山は笑顔のまま明に忠告した。
確かに、あまり深く突っ込まないほうがいい。明はそれを本能的に察知した。
「ところで、オレに耳寄り情報って何だ?」
「そうそう、本題はそっち」
ふと思い出したかのように言う霧山。
「最近、巨大地球外生命体が増えてきているのは知ってるね?」
先程とはうって変わって、真剣な表情で話し始める。
「ああ。以前から地球外生命体がたびたび地球に降下してきているが、ここ数年のは巨大生物がほとんどだ」
「だから、このVESが結成された。そして、俺達はその地球外生命体に対抗するためにいる」
霧山と拓馬の会話に、明が横から入り込む。
「そして、対巨大地球外生命体用にVジェットとシャインフライヤーを開発しこれが現在までのいきさつ。そして、この話は、これからの事」
「これから?」
拓馬は首をかしげた。
「前々から計画していた、VF計画がついに完成間近となったんだ」
霧山の口から発せられた言葉に、司令室内が騒然とする。
「VF計画が、ついに完成するんですか?」
「ほとんどね。あとは、パイロットだけなんだ」
そういいながら霧山は笑顔を見せた。
「……まさか」
稔の表情が、少し変わる。
「そう、そのまさか。パイロットは、龍崎拓馬隊員、君だよ」
「オレが……!?」
拓馬は、驚いた表情で霧山を見つめる。
稔や明も驚きを隠せない表情になっていた。
「今までの出撃データ、身体能力などを考えると、龍崎隊員がVF計画のパイロットに適している、ということか」
峯島の洞察にうなずく霧山。
「オレが……」
「引き受けてくれる?」
しばしの沈黙。それは無理も無いだろう。
VF計画とは、Victory Form計画の略称で、対巨大地球外生命体用に開発された、巨大人型ロボットの開発から実践投入までの事を指す。
これはVESにとどまったものではなく、全国、全世界の防衛体制を大きく躍進させるかもしれない。
つまり、そのパイロットに選ばれたという事は、未来に関わる重要な存在に選ばれたという事だ。
拓馬は、そんな大役を、自分が引き受けていいのか悩んでいるのだ。
「………………」
何度も何度も同じ質問を自分に投げかけ、必死に悩む拓馬。
「……拓馬」
「明……?」
その沈黙を破ったのは、明だった。
「素直に引き受けろ。これは、お前しか出来ない事だ。俺には荷が重過ぎるしな」
苦笑を漏らす明。
「……頑張って、拓馬」
「稔……」
稔は拓馬に応援の言葉を書ける。
「私は、応援する事と、オペレーターとしてサポートする事しか出来ないけど、それでも、拓馬のする事を支えてあげたい。だから、拓馬……」
「……分かった」
二人の言葉を聞き、拓馬は決意を固めた。
そして、姿勢を整え、霧山に向かって敬礼すると、
「龍崎拓馬、VF計画のパイロットとして、懸命にその命を果たさせてもらいます!」
自分に言い聞かせるように、霧山に向かって宣言した。

―2010年9月22日水曜日午後2時48分―

VES司令室。
勇者達は戦闘を終え、すでに帰還していた。だが、司令室の緊張はまだ解けていなかった。
「………………」
にらみ合ったりはしてないものの、富士は峯島に背を向けて座っていた。その表情は、今までに無いほど険しい。
「……君の要望は通ったんだ。いい加減に職務に戻ったらどうだ?」
「………………」
表情を変えずに、全く答えようとしない富士。
その胸中では、先程から親友との思い出が蘇ってきている。
(拓馬だったら……こんな時、なんていうんだろうな……)
その顔が浮かんできて思わず顔が緩みそうになるが、ハッと我を取り戻すと再び険しい表情に戻る。
それほどに富士の先程の指示が許せないのだろう。

富士だけではない。他のメンバーも、峯島の指示には時々反対したくなる。だが、富士を除き誰も反発しようとしない。
それは、峯島の指示が、その時点で最良の判断と思われているからだ。
当然だが今回のように最良でない場合もある。だが、例え冷静な人間でも緊張状態では完璧な判断など出来ない。それをわかっているから、稀のわずかな判断ミスに関して誰も言おうとしない。
しかし、富士だけは違っていた。
峯島の判断に何かと理由をつけては反対し、自分の判断を勇者達に下す。
こちらも、完璧とは言わないがかなり的確な判断がほとんどだ。
その判断力を買われ、富士は現在の地位に立っているのだ。

―2005年10月15日土曜日午前11時19分―

VF計画のテストプレイの日。
万が一の可能性に備え、このテストプレイは東京湾沖にある隆起した土地で行なわれる事となった。
この土地は、今から約1年前に突然現れた。それによって東京湾にすむ生物は半数以上が死滅したが、その代償としてこの土地は、本島ではありえないぐらいの自然に包まれた土地となった。当然ながら、人はこの土地を有効利用する事にした。
有り余るほどの自然は一部を残して資材として使用し、裸にした場所は近々住宅地となりさまざまな施設が建設される予定だ。現在はそのために土地をならしている最中だ。
そんな場所で、このテストプレイが行なわれる。
もちろん、せっかくならした土地であるため、派手な事は出来ない。そのため、この地で行なえることは一つだけであった。
最も重要なデータを取る事のみ。

「各計器類、全て異常無し。飛行も問題ない」
拓馬ことヴィクトリーは飛行中の戦闘機のコクピット内で、周りにある機械を全てチェックする。
だが、この戦闘機はいつもヴィクトリーが使用している戦闘機ではない。
これこそVF計画の一つであるヴィクトリーマシン・ヴィクトリーウイングだ。
コクピット内も以前の戦闘機とはまるで違っている。最大の違いはと言うと、レバーの類がなく、代わりにグリップの付いたひじ掛けのようなマシンが座席の左右に取り付けられている。
そして、ヴィクトリーウイングには、他の戦闘機には無い機能を備えているのだが、それは後で説明するとしよう。
『よし。それじゃ、これからテストプレイを始める。フェイズ1に移行を開始』
「了解」
通信機から霧山の声が聞こえると、すぐさまヴィクトリーは返事を返して、目の前にある計器の中央にあるボタンを押した。すると、ヴィクトリーウイングは真上に向かって上昇をする。
「変形……開始!」
次の瞬間、ヴィクトリーウイングはその機体を変形させ始めた。

「フェイズ1、移行完了。そのままフェイズ2へ入ります」
最初にヴィクトリーウイングは機首を折り曲げる。
「フェイズ2、移行完了。フェイズ3へ」
機体後部の真ん中、後に腕となる部分が縦に半回転して機体前部に乗っかった。
「フェイズ3、移行完了。フェイズ4へ」
次に、機体後部が横に回転し、脚を形成する。
「フェイズ4、移行完了。フェイズ5へ」
腕となるパーツが横に開き、
「フェイズ5、移行完了。フェイズ6へ」
下に下りると中から手が現れ、腕を形成した。
「フェイズ6、移行完了。最終フェイズに入ります」
最後に眼に光が灯ると、ヴィクトリーウイングは戦闘機からロボットの姿へと変わっていた。
「ヴィッ、ザアァァァァッ!!」
ヴィクトリーはそのロボットの名を叫んだ。
「最終フェイズ、移行完了。ヴィクトリーへ、着地を許可します」
「了解。ヴィクトリー、これより着地を行なう」
ヴィクトリーは指示を受けるとロボットを陸地へと着地させた。

―2005年10月15日土曜日午前11時23分―

VES司令室は、ロボットが地上に降り立つと共に沸きあがった。
モニターに映る、青く輝くボディを持ったロボット。自然の中に立つその姿は、まるで自然を守る守護神のようだった。
「これが、VF計画の一つ……」
「そう、名前はヴィザー。この地球を守る戦士だ」
霧山の口から発せられた名前を、その場にいた全員が心に刻み込んだ。
その名を持つロボットが、後にVESの要となる事を信じて。
「だけど、まだこれで終りではない。すぐさま第2段階に入れ」
「り、了解!」
しかし、峯島の指示が飛ぶと、すぐに全員は我に返り、次の作業を始める。

「VESよりヴィザーへ、これより第2段階に入ります」
『了解。ヴィザー、これより第2段階、ヴィクトリーフォームへと入る』

―2005年10月15日土曜日午前11時26分―

『しっかりやれよ、拓馬。ここからが一番重要なんだからな』
通信機から明の声が聞こえてくる。
拓馬ことヴィクトリーの現在の状態はと言うと、先程とは違って立ってるような姿になっている。だが、その身体は周りを包むフレームのような機械によって支えられてる状態だ。
これこそがヴィザーの操縦法である。フレームがヴィクトリーの動きをそのままヴィザーに伝え、ヴィザーの動きとする。
「分かってる……と言いたいが、これはオレがやる事じゃない。この機体に積んであるコンピュータがする事だ。オレがするのは、せいぜい微調整ぐらいさ」
そういって軽く笑うヴィクトリー。
『それもそうだな。でも、気を抜くなよ』
「ああ」
マスクに隠れてはっきりとは見えないが、ヴィクトリーは小さく笑みを浮かべた。そして、通信を終えると改めて前に向き直る。
「VF計画……正式名称Victory Form計画。その名を、呼ばせてもらう!」
ヴィクトリーはギュッとグリップを硬く握り、あるキーワードを口にした。
「ヴィクトリィィィィィッ、フォオォォォォォムッ!!」

「ヴィクトリーフォーム・コール発動!」
「ヴィクトリーマシン、スタンバイ!」
ここで、三機のマシン―ヴィクトリーマシン―の発進準備が行なわれていた。
「アースヴィクトリー! スペースヴィクトリー! オーシャンヴィクトリー! ベストコンディション!」
順にトレーラー型マシン、戦闘機型マシン、潜水艦型マシンがそれぞれの発進口にセットされ、
「発進!」
日高の言葉と共に地、空、海を駆けていった。

数分たつかたたないかのうちにヴィクトリーマシンはヴィザーの元へたどり着いた。
ヴィクトリーマシンがヴィザーを囲むように周りを回り始めると、四機の間に特殊な磁場が発生する。
「フェイズ1、ガードフィールド形成完了。フェイズ2ヘ移行します」

ヴィクトリーマシンが変形を始める。
アースヴィクトリーの機体が縦に持ち上がり、機体前部が折れ曲がった。
アースヴィクトリーの左右にあるパネルが開き、上に回転して翼を形成する。
機体後部が下に伸び、つま先が立って足を形成する。
「フェイズ2、アースヴィクトリー変形完了。フェイズ3へ移行します」
次に、スペースヴィクトリーが変形する。
スペースヴィクトリーの機体後部が持ち上がり、その部分は肩を形成する。
機首が折りたたまれると、下腕を形成した。
「フェイズ3、スペースヴィクトリー変形完了。フェイズ4へ移行します」
同様にオーシャンヴィクトリーが変形する。
オーシャンヴィクトリーの機体後部が分離し、尾翼が折りたたまれて同じように持ち上がり、その部分が肩を形成した。
そして、機体後部が前へと回転し、機首が折りたたまれ同じように下腕を形成する。
「フェイズ4、オーシャンヴィクトリー変形完了。フェイズ5へ移行します」
ヴィクトリーマシン三機はヴィザーの前で集結する。
アースヴィクトリーは胸部から脚部及び翼、スペースヴィクトリーは右腕、オーシャンヴィクトリーは左腕となって。
そして、アースヴィクトリーは胸部となる部分が欠損していた。
「はっ!」
その時、ヴィザーが飛び上がり、ブロック状の形態となってアースヴィクトリーに結合する。
それと同時にスペースヴィクトリーとオーシャンヴィクトリーはアースヴィクトリーと結合し、拳を出現させた。
「フェイズ5、ヴィザー及び各ヴィクトリーマシン結合完了。最終フェイズへ移行します」
最後に、オーシャンヴィクトリーの後部を形成していたパーツは兜となり、ヴィザーの頭と結合する。
そして、フェイスマスクがヴィザーの顔をおおうと、ヴィザーの目に再び光がともり、
「ヴィッ!! カイッ!! ザアァァァァァッ!!!」
ヴィザーはヴィカイザーと名乗り、大きく構えを取った。

「最終フェイズ、移行完了。ヴィクトリーフォーム、合体成功!」

―2005年10月15日土曜日午前11時37分―

合体が完了すると共に、VESは再び沸きあがった。
「これが、VF計画の真の姿……」
「そう、その名もVictory KIZER、通称ヴィカイザーだ」
「ヴィカイザー……」
再びその名を心に刻み込むためか、誰かが名を口にした。
「VF計画、成功だな」
そこに、明が笑顔でそうつぶやいた。誰もが、この成功を喜んだ。
この成功が、地球防衛の革新を実現させるものなのだから。
しかし、その喜びも、長くは持たなかった。
「!?」
突然、表情を一変させる稔。
「どうしたんだ?」
それに気づいた明が、稔に声をかける。
「長官! 光が丘にHuge Eagleが出現! 暴走して街を破壊しています!」
「何!?」
稔の言葉に、誰もが一瞬にして緊迫感を覚えた。
「くっ、何だってこんな時に!」
明は顔をしかめ、すぐさま司令室から駆け出していった。
「っ!? 龍崎隊員、何をしている!」
その時、峯島の慌てたような声が響く。
『Huge Eagleの暴走は止められるものじゃない! だったら、オレがこのヴィカイザーで止める!』
モニターを見ると、ヴィカイザーがその場からVESに戻ろうとせず、直接現場に向かおうとしていた。
「無茶だ! ヴィカイザーはまだ試験段階なんだ!」
霧山がヴィカイザーを止めようとする。
「……行かせるんだ」
「ま……長官!?」
だが、峯島は霧山と違い、ヴィカイザーを行かせようとする。
「被害が大きくならないようにするには、これが最善だ」
「しかし……」
「これは長官から隊員への命令だ」
『了解!』
峯島の言葉を聞くと、ヴィカイザーは先程よりもスピードを上げて目的の場所へと向かった。
「………………」
霧山が峯島を黙ったまま見つめる。
「……君の作ったヴィカイザーだ。そう簡単に破壊されるとは思っていない」
峯島の言葉は、まるで言い訳のような言葉だった。

―2005年10月15日土曜日午前11時56分―

東京都光が丘。
その街並みは怪鳥によって無残にも破壊され、各所から黒い煙が筋となって立ち昇っている。
「くそっ! こいつ、今までの奴と格が違うぞ!」
明が変身したシャインが、マスクの下で顔をこわばらせた。
窓の外に見えたのは、今までに見たことのあるものより一回り大きなHuge Eagle。その巨大な怪鳥は、激しくいななきながらあちこちを飛び回っては存在する建物を薙ぎ倒していく。
「止まれって言ってるんだよ!」
そう言ってシャインがパネルのボタンを押すと、戦闘機からダビデの星をかたどったメカが戦闘機の後方から発射され、その身を分離させた。
いつもなら、そのメカが怪鳥を捕らえて身動きさせなくするのだが、今回はやはり違っていた。
鮮やかなほど素早い動きでメカをかわし、大空へと舞い上がる。
「ちぃっ!」
舌打ちするシャイン。
「シャイン!」
そこに、聞きなれたヴィクトリーの声が聞こえてくる。だが、それは通信機からではなかった。
「あれは……ヴィカイザー!?」
煙の立ち上る光が丘に現れた、1体の青いロボット。本来なら、いるべきではない存在。
「あとは、俺に任せてくれ!」
「ま、待て、ヴィク……」
「今の俺は、ヴィクトリーじゃない。ヴィカイザーだ!」
ヴィカイザーは高らかに宣言すると、激しく飛び回る怪鳥に向かって構えを取った。
「……これか」
そうつぶやきが聞こえたかと思うと、右腕に装備された翼が展開し、エネルギーによって刃が形成される。
「行くぞ! スペース、ブレェェェドォッ!!」
その刃を振りかざし、ヴィカイザーは怪鳥に向かって突撃した。
「ギィィィィィィッ!?」
肉を切り裂く感触と共に聞こえる、怪鳥の悲鳴。
「くっ……」
あまり聞きたくはないがこれもこれ以上の被害を出さないためだと、ヴィカイザーは自分に言い聞かせながら攻撃を続ける。
何度も何度も、それを払拭するかのように怪鳥を切り裂くヴィカイザー。
「ギィィィィッ!!」
「ぐぅっ!?」
その時、怪鳥がバランスを崩しながらも突進をかけ、ヴィカイザーの右腕の翼を折った。
「ヴィカイザー!?」
「くっ……! 負けてたまるか……守るためなら、例え鬼になろうとも……この星を、守る!」
ヴィカイザーは体勢を立て直し、
「オーシャンッ、イクスプロォォォォジョンッ!!」
今度は左腕を前に突き出すと、左腕がエネルギーに包まれた。
その左腕を、怪鳥に思い切り叩き込む。
「ギィィィッ!!?」
怪鳥は吹き飛ばされ、地面に倒れこんだ。
「強い……」
ヴィカイザーと怪鳥の戦いに、驚きを隠せないシャイン。
決して圧倒的とはいえないが、それでも怪鳥の動きを食い止めている。
「ギイィィィィィッ!!」
すると、突然怪鳥が激しくいななき、ヴィカイザーに向かって体当たりを仕掛けた。
「ぐっ……!?」
何とか防御してダメージを軽減したが、衝撃によって体勢を崩すヴィカイザー。
「ギイィィィィィッ!!」
そこにすかさず怪鳥が二度目の体当たりを行ってきた。
「ぐはあぁっ!?」
今度は防御することも出来ず、ヴィカイザーは後方に吹き飛んで倒れてしまった。
「ヴィカイザー!!」
「くそっ……!」
すぐさま体勢を立て直し、構えを取る。
「もういい! 後は俺がやるから……」
「引くのはお前だ、シャイン!!」
「!?」
突然のヴィカイザーの喝に、シャインはすくんでしまった。
「これで、決める……!!」
「ヴィカイザー……」
ヴィカイザーはゆっくりと左拳を前に突き出す。
「ギィィィィィィッ!!」
同時に怪鳥はヴィカイザーに向かって三度目の体当たりをかけてきた。
「はぁっ!!」
しかし、ヴィカイザーはそれを下から拳で突き上げ、空中に舞い上がらせた。
「おおぉぉぉおぉぉおぉぉぉぉぉ!!」
その直後、ヴィカイザーも空中に上がり、
「ヴィクトリイィィィィィィィッ!!」
怪鳥に向かって左拳を突き出し、
「フィニイィィィィィィッシュウゥッ!!!」
思い切り拳を突き入れた!!
「ギイイィィィィィィィィッ!!」
怪鳥は今までにないくらい大きくいななき、そのまま絶命した。

「………………」
あまりも激しく、あまりにも凄惨なその光景を、シャインは一部始終見ていた。
言葉にする事など、絶対に出来ない。その生々しさを。
「……これで、よかったんだよな……」
そこに、ヴィカイザーのつぶやきが耳に入ってきて、シャインははっと我に帰る。
「……こんなに、苦しませたけど……こんなに、痛めてしまったけど……これで、よかったんだよな……」
「……ああ……」
ヴィカイザーのつぶやきに、シャインはただ一言答えた。
「………………」
それっきり、ヴィザーは何も口にしないでその場に立っていた。
「……おい、ヴィカイザー?」
ヴィカイザーの様子がおかしい事に気付き、声をかけるシャイン。しかし、シャインからの返事はない。
「お、おい、ヴィカイザー! ヴィクトリー! 拓馬!!」
必死になって、何度も何度も呼びかけるシャイン。それでも、返事は返ってこない。
「拓馬! 拓馬! 拓馬ぁぁっ!!」
最後の呼びかけは、すでに叫びとなっていた…

―2010年9月22日水曜日午後7時29分―

ここは海上区にある、海を見下ろす事が出来る名も無い丘の上。
すでに日は落ちてあたりは暗くなっており、聞こえてくるのは岸壁に当たって砕ける波の音だけだった。
「………………」
そこに富士はたった一輪の花を持ってやって来た。
「悪いな、拓馬。本当はお前の命日に来るつもりだったんだけどよ、早く来ちまった……」
よく見ると、丘の先には四角く切り出された石が、正確には墓石があった。
墓石にはアルファベットでTakuma Ryuzakiと書かれてある。
「今日、何故かお前の事思い出してよ、急に会いたくなったんだ……」
小さく笑いながら、富士は墓石の前に一輪の花を置いた。
「……なあ、拓馬」
その墓石に、富士はゆっくりと口を日相手話しかけた。まるでそこに、誰かがいるかのように。
「俺は、直接ではないとはいえまだ戦っている。鬼となってな……」
少し悲しげな表情になる富士。
「……『これで、よかったんだよな』、拓馬………」
顔をうつむかせ、ぽつりとつぶやいた。

「けど、俺はお前を犠牲にはしたくなかった………」
視界が、にじんだ……

To be continued…


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あ、ありがとう、ございました……

動き出した三人目の神の三天衆心の使徒アルディア。
だが、アルディアはどういうわけかヴィザリオン達を倒そうとしない。
疑念を抱くブレイグとゼイヴァ。アルディアの送った者と次々と戦う勇者達。
しかし、これはまだ彼の作戦の序章に過ぎなかった。
そして、アルディアとヴィザリオン達が対峙する時、悲劇の幕は開く……

勝利勇者ヴィザリオン 第11話「痛い涙」

守るべきは輝く心、それを忘れないでください…!

 初回公開日:2003年4月5日

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