第8話「光と共に」


―2010年8月29日日曜日午前1時06分―

「ヴィザリオン! 白虎神! オーガガーディアン! 一旦引け!」

富士は三人に対し、一時退却命令を下した。

『な、何だと!?』

『一時……退却、ですか……!?』

『何故、そんな判断を……』

通信機の向こうから、動揺する勇者達の声が聞こえてくる。
そんな勇者達に、富士は少し落ち着いた声で言葉を返した。

「ただし、お前らが今戦ってるヤツをひきつけながらだ!」

『コイツを……』

『ひきつけながら……?』

『どういう事だ?』

勇者達は、疑問を抱いた。同様に、富士以外のVESの隊員達も、同じ事を思っていた。

「富士指揮官……?」

「………………」

富士は、何か策があるといった顔で、モニターを見つめる。
その瞳の奥に、一体何が描かれているのか、それは現時点では富士しか分からないことであった―


第8話「光と共に」

―2010年8月29日日曜日午前1時13分―

『しかし、ひきつけるといっても、一体どこに?』
「近くの海にでもひきつけるんだ。そこに行ったら、そのままVESに戻って来るんだ!」
『りょ、了解しました……』
「分かったらさっさと始めろ! それと、絶対に日が昇るまでには戻って来い!」
富士の一喝で勇者達は慌てて戦闘に気を戻し、富士の言葉を実行に移す。
「富士指揮官、一体何のつもりで……?」
富士の意図が分からない峯島は、富士に質問をかけたが、
「峯島ぁっ! リージョンキャプチャー、3つまとめて使わせてもらうからな!」
「あ、ああ……」
富士はそれを無視して、自分の考えた作戦を行動に移ししていた。
「……どういうつもりなんだ?」
「さあ……? 日高さんは分かる?」
「私に聞かれても……」
VESの隊員達は、一斉に首をかしげた。

―8月29日日曜日午前1時25分―

福岡県福岡市。
「おとなしくこっちへ来やがれ、この野郎!」
一時間しか合体後の姿を保てないため、やむなく合体を解除したオーガチームはトライドをおびき寄せようと奮闘していた。
だが、当のトライドはかなりスピードが速く、おびき寄せようにもそのスピードで逆に翻弄されてしまっている。
これでは、海にひきつけるどころか、陸を抜けるのも難しい。
「くっ……!」
「このままだと、無駄に時間を過ごすだけだな……」
オーガチームに、焦りが見えてくる。
「スピーダー! お前がひきつける事は出来ないのか!?」
「俺のスピードをはるかに上回っている。オーガガーディアン時で追いつかなかったのだから、当然だろう」
「ぐっ……!」
そう言えばそうだった、とオーガファイターは先程の戦いを思い出して歯噛みする。―もっとも、オーガチーム達に歯に相当するものはあっても、歯自体はないが―
「……いや、スピーダー、奴をひきつけてください!」
「っ!?」
だが、そこに突然、オーガディフェンダーが二人とも予想していなかった言葉を口にした。
当然ながら、驚くオーガファイターとオーガスピーダー。
「スピーダーが囮になって、私達が援護します! 多少ダメージは覚悟してください!」
「あ、ああ!」
オーガディフェンダーに言われたように、オーガスピーダーはトライドの前に立ち、トライドの後ろにはオーガファイターとオーガディフェンダーが立った。
「こっちに来い!」
その瞬間、オーガスピーダーがトライドとのいる方とは逆に向かって走り始めた。
当然ながら、オーガスピーダーにあっという間に追いつくトライド。
「スピーダー!」
「受けろ! スピードッ、シューートォ!!」
だが、スピーダーはすぐさま振り向いてエネルギー弾の矢を打ち込む。
トライドは簡単にそれをかわすが、
「くらえ! ファイティングドリルッ!!」
そのすぐ後ろからオーガファイターがドリルでトライドに向かって攻撃してきた。
トライドは瞬時にそれを察知し、再び回避する。
「攻防一体! ディフェンス・トンファー!!」
そこに今度はオーガディフェンダーの攻撃が飛んできた。
それもかわすトライド。
「よし、少しずつですけど、前に進んでます!」
しかし、それを見てオーガディフェンダーは喜びの表情を見せる。
「何?」
「……そうか! 俺を囮にしてひきつけるだけじゃなく、こうして攻撃で意図的に前に進ませてるのか!」
「えっ……?」
オーガファイターは改めて自分、そしてトライドの位置を確認した。
確かに、オーガスピーダーの言うとおり、自分達はわずかながら海の方へと進んでいた。
「……なるほど」
それを見て、やっと納得する。
「よし、そうと分かったら遠慮はしねえぞ! 早いとこ済ませちまおうぜ!」
「ああ!」
「承知してます!」
オーガチームは自分の武器を構えなおし、自分のすべき事を再会した。

―8月29日日曜日午前1時24分―

北海道札幌市。
「…………………」
白虎神は、トラーガと退治していた。
ひきつけろと富士に言われたものの、普通に逃げては簡単に追ってくれないだろう。実際、先程からゆっくりと距離を離しているが、相手は動く気配が全くない。
このままでは海に連れて行く事が出来ない。
「……仕方ない。本来、こんな使い方をするものではないが……」
そう言うと、白虎神は自分の刀を取り出した。
そして、何を思ったのか、白虎神は柄紐を解き始め、完全に解ききるとその紐を大地の牙に結びつけた。
「ついて来ないのならば、無理矢理にでも連れて行く!」
白虎神は紐の端をしっかりと握り、牙をトラーガに向かって投げつける。
牙はトラーガの足を捕らえ、白虎神が引っ張っても取れないようになった。
「パワーは足りないが……!」
白虎神は紐を思い切り引っ張る。しかし、トラーガは全くビクともしない。
「ハッ!」
だが、次の瞬間、白虎神はトラーガに向かって跳躍し、トラーガに向かって思い切り蹴りを入れた。
ダメージこそないものの、トラーガはバランスを失い、後方によろける。
「っ!」
そのわずかな隙をつき、白虎神は素早く走り出した。
すると、トラーガは完全にバランスを崩し、背中から地面に倒れてしまう。
「ここの住人の方々、申し訳ありません。後で必ず償いをさせてもらいます」
白虎神は、今この場にはいない、この辺りに住んでいる人々に向かって謝ると、思い切り跳躍して海へと向かっていった。
こうやって、トラーガを海まで引きずろうとしているのだ。
「やや重い……やはり、パワーは必要か……」
自分の手に来る、トラーガの重量の感触。決して軽くない。
果たして、海にたどり着くまでどれぐらいかかるだろうか?
「……ヴィザリオンじゃないが、こんな事で負けてはならない!」
それでも、人々を守るため、自分に気合を入れると白虎神は力いっぱいトラーガを引っ張った。

―8月29日日曜日午前1時29分―

大阪府大阪市。
「おおぉぉぉぉぉっ!!」
ヴィザリオンとトラウクが組み合う。
ヴィザリオンはトラウクを海に連れて行くため、トラウクはそれを阻止するために。
何故このような事をするのかというと、理由は一つしかない。
ヴィザリオンは、この場から退却しようとした。それをトラウクが追ってくるはずだった。だが、その思惑通りにいかず、トラウクはその場にたたずんだのだ。
だから、仕方なくこの方法を取ったのだ。
「ぐっ……!」
しかし、やはり攻撃力で劣っているためか、全く動かない。それどころか、逆に力負けしてしまいそうである。
このままだと、下手をすればこの場でやられてしまう。
それは絶対にあってはならない。
「こんな……こんな所で、俺は、立ち止まるわけには……行かない!!」
ヴィザリオンはそう言うと、背中のブースターを展開させ、
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
全力を込めてトラウクを押し出そうとする。
トラウクも、それに負けじと力を込めるのだが、結果はヴィザリオンが勝り、トラウクは足を地面に擦らせながらも押されてしまう。

―8月29日日曜日午前2時34分―

大阪湾沖。
「はぁっ!」
ヴィザリオンはその身体を急停止させ、トラウクを海に落とす。
「ここまで来たら……」
『海までひきつけたか、ヴィザリオン!?』
そこに、富士からの通信が再び入ってくる。
「ひきつけたというか、無理矢理連れてきたが、何とか!」
『よし、分かった! そうしたら、五分後にその場から離脱、分かったか!?』
「りょ、了解!」
何故五分後なのか、それを聞こうと一瞬思ったが、富士には何か考えがあるのだと思い直し、素直に指示を受けることにした。
だが、五分はわずかながら長い。
それまで相手が何もしてこなければいいが…
「っ!」
どうやらそうも行かないらしい。
トラウクが起き上がってきたからだ。
「くそっ!」
仕方なく、ヴィザリオンは戦闘の構えを取る。
しかし、その時であった。
『ヴィザリオン!』
「指揮!?」
三度富士からの通信が入ってくる。
『攻撃はするなよ! 今すぐにリージョンキャプチャーがそこに着くはずだ!』
「リージョンキャプチャー……?」
ヴィザリオンがその名前を口にしたとほぼ同時に、それは飛来してきた。
ダビデの星をかたどった、リージョンスターにも似たマシン。
それが、トラウクの目の前で分離したかと思うと、次の瞬間にはトラウクの周りを囲み、特殊エネルギーでトラウクを捕らえた。
トラウクは抵抗するものの、全く身動きが取れない。
「……なるほど」
その光景を見て、ヴィザリオンはようやく納得した。
『さあ、さっさと戻ってこい! 今のうちにエネルギーの補給とかやるぞ!』
「了解!」
ヴィザリオンはすぐさま、とらわれたトラウクのいるこの場から離脱する。

なお、この約二十分後には白虎神が、約三十分後にはオーガチームが沖へとたどり着き、同じようにリージョンキャプチャーが敵を捕らえたのを確認すると、VESへと帰還した。

―8月29日日曜日午前4時41分―

VES格納庫にて、勇者達はエネルギー補給を受けると同時に富士から次の作戦を聞かされていた。
『……いいか、もう一度説明するぞ?』
「ああ」
「お願いします」
富士の作戦とは、こうだ。

ヴィザリオン達が戦っていた三体の神機は、それぞれある一つの力が圧倒的に優れていた。トラウクは攻撃、トラーガは防御、トライドはスピードといった具合である。
そして、ヴィザリオン達はそれぞれ戦っていた神機の力に圧倒されていた。
だが、それはそれぞれの特性を活かしきれてなかったからだ。
ヴィザリオンが優れているのは、勝利へと向かう勇気。それこそが、何よりも力となる。
神威が優れているのは、誰よりも勝るスピード。どんなに素早いものであろうと、神威にはまったくと言っていいほど敵わない。
オーガチーム及びオーガガーディアンが優れているのは、多彩な技による攻撃。その力は、いかなる者でも圧倒する。
その、自分達の特性を活かす事が出来れば、少なからず勝機は見える。その後は彼ら次第だ。
それによって、それぞれが戦うべき相手が富士の口から告げられた。
ヴィザリオンはトラーガ、神威はトライド、オーガチームはトラウクと。

『……以上が、現時点での最良の方法だと俺は思っている。何か文句はあるか?』
「俺は特にないぜ」
「私も異議なしです」
「同感だ」
「ここまでセッティングされたら、後は俺達次第だからな」
富士の作戦に、誰も文句をつけるものはない。
『よし、分かったら次はさっさと出撃準備だ!』
「了解!」
全員が声をそろえて返事をする。
そして、言われたとおり出撃準備を行ない始めた。
と、その時、
「っ……!」
「朝日……ですね……」
現在の時刻、午前5時17分。外はすでに明るくなり始め、朝日が見えていた。
「そうか、もうそんな時間か」
「あまり、ゆっくりとしていられないな」
「この出撃で、今回の戦いは最後にしましょう」
全員はその朝日で、改めて気を引き締める。
その中でただ一人、ヴィクトリーこと勝は別の事を考えていた。
(今は5時過ぎ……粋との約束は9時……往復にかかる時間を除いたら、あまり時間はないな……)
そう、今日は粋と約束した日だ。そして、粋との約束まで、残り時間はあまりない。
「どうかしたのですか?」
「っ!?」
神威に声をかけられ、我に返る勝。
「いや、何でもない」
「そうですか」
勝は改めて気を引き締めなおし、深呼吸すると、
「さあ、行くぞ!」
掛け声をかけてヴィクトリージェットを発進させた。
「了解!」
「おう!」
神威やオーガチームもそれに続き、出撃していく。


―8月29日日曜日午前5時00分―

「ん………」
平日と同じ時間に、粋は起きた。
いつも日曜はもっと遅く起きるのだが、今日は違っていた。
今日は、勝との約束の日。自分にとって、とても楽しみにしていた日なのだ。
「ふぁ……」
夕べは少し寝るのが遅かったからか、眠そうにあくびを一つすると、粋は部屋のカーテンを開けた。
まだ日は出ていないが、夜が白み始めている。
「……よしっ」
粋はまだ完全に目が醒めてないものの、自分に気合を入れると部屋から出て行った。

日曜なのに、早く起きたのには理由がある。
一つはもちろんであるが、今日が約束の日だから。
自分で言ったにもかかわらず、寝過ごして遅刻してしまってはならない。いつも起きる時間でもいいのだが、万一の事を考えて早くしたのだ。
そして、もう一つは、お弁当を作るため。
せっかく勝と一緒にいられるのだ。特別にお弁当を作ってあげようと、粋は思ったのだ。

「勝くん、喜んでくれるかな……?」
期待と不安を胸に秘めながらも、お弁当を作る粋。
同じ頃、勝は再び戦いの場に舞い戻ろうとしてるのを知らずに…

―8月29日日曜日午前6時41分―

北海道札幌市。
「待たせたな!」
合体完了したヴィザリオンは、リージョンキャプチャーの戒めから解かれたトラーガと対峙する。
その手には、鳳凰の剣、フェニックスブレイドが握られていた。
「ここから選手交代だ。行くぞ!」
攻撃を開始するヴィザリオン。
「はぁっ!」
ヴィザリオンは、トラーガに向かって剣を振り下ろした。
当然、トラーガはそれを盾で防御する。
「なるほど……確かに、神威が苦戦しただけあるな……」
フェニックスブレイドでも、その盾に阻まれてしまった。だが、それにもかかわらず、ヴィザリオンは余裕があるように見える。
いや、実際、余裕があった。
「だったら、本気で行かせてもらう!」
ヴィザリオンは一度剣を戻し、改めて構えなおす。すると、剣の刃の部分が赤く光りだした。高温の熱を発しているのだ。
「はぁぁぁぁっ!!」
高熱に発した剣を、再びトラーガに思い切り振り下ろす。
トラーガは先程と同様に盾で防御しようとするが、腕ごと盾は両断され、トラーガはその衝撃で後ろによろめいた。
「まだまだ!」
続けざまにヴィザリオンが剣を振り下ろすと、一瞬ではあるが剣から炎が噴き出し、それが鳳凰を形作る。
「バァァニングッ、フェニィィィィックスッ!!」
鳳凰はトラーガを飲み込み、トラーガを吹き飛ばした。

―8月29日日曜日午前6時39分―

福岡県福岡市。
「………………」
合体した白虎神と、トライドが互いを凝視している。
そして、白虎神の手には鞘に納められた刀が、トライドは両腕から刃を生やしていた。
「………………」
お互い、一歩も動かない。ただひたすら、攻撃のタイミングを計っている。
静かに、ただ時は過ぎていく。

「………………っ!!」
そして、そのまま十分が経過しようとしたその時、ついに動いた。
白虎神の前から姿を消すトライド。そして、後ろに姿を現した瞬間に、両腕の刃を思い切り振り下ろす。
トライドの攻撃は、白虎神をとらえたかのように見えた。
だが、白虎神は全くの無傷だ。
「それが本気か?」
なぜなら、白虎神は鞘に納めたままの刀でトライドの刃を受け止めていたのだ。
「本気だというのなら、これはかわせまい!」
白虎神はそのまま刀を抜くと、目にも止まらない程の速さで振り返りながらトラウクに向かって刀を振った。
刀は空を斬り、トラウクはいつの間にか白虎神と距離を置いていた。
「まだまだ実力を発揮してないか……ならば!」
しかし、白虎神もまた一瞬のうちに姿を消す。
と思ったら、いきなりトライドの目の前に現れ、
「牙っ! 砕、斬っ!!」
トライドに向かって牙の形をした武器を上から叩き込んだ。
牙はトライドを引き裂き、ダメージを与える。
「幻っ!!」
間髪いれず、白虎神は牙と刀を持ち直して、トライドを切り裂いた。
連続で与えられたダメージによって、トライドは倒れてしまう。
「………………」
倒れたトライドを、じっと見つめる白虎神。
「っ!!」
ズガァァッ!
だが、次の瞬間、トライドが急に起き上がり、白虎神の顔に向かって刃を突き入れようとした。
それを察知した白虎神は素早く首を傾けて刃をかわしたが、完全には無理であり、頬の部分がわずかながら切り裂かれた。
「はっ!」
間合いを取り直すため、刀を振ってトライドを払う白虎神。
「本気で来たか……ならば、こちらも全力で行かせてもらう!」
白虎神の言葉を皮切りに、白虎神とトライドは再びぶつかり合う。

―8月29日日曜日午前6時34分―

大阪府大阪市。
「第三層、衆合地獄っ!!」
合体したオーガガーディアンの声と共に、オーガガーディアンの剣がトラウクに突き入れられようとしている。
それに対し、トラウクは拳で対抗する。
剣と拳がぶつかり合った。
ヴィザリオンの戦いの事を考慮すると、状況はどう見てもオーガガーディアンの方が不利でああるはずであった。
だが、トラウクの方がオーガガーディアンに負け、後方に倒れた。
「どんな力を持っていようとも、我が地獄の前では無力……!」
倒れたトラウクに対して、威圧を放つオーガガーディアン。
トラウクはそれでも何とか起き上がり、今度はトラウク自らが攻撃を仕掛けた。
再び拳を握り、オーガガーディアンに向かって殴りかかろうとする。
「第四層、叫喚地獄っ!!」
すかさずオーガガーディアンは剣を構えなおし、今度はトラウクに向かって素早く剣を突き出した。
剣は、人間で言う眉間・喉元・みぞおちの部分を突き、トラウクは拳を当てる事無く吹き飛んでしまう。
「まだだ……貴様の行為は、これぐらいではない……!」
剣を構え、憎しみの言葉を放つオーガガーディアン。
トラウクは起き上がりながら、今度は腕にハサミ状の武器を出現させた。
そして、そのままオーガガーディアンをハサミで切り裂こうとする。
「っ……!」
だが、ハサミはオーガガーディアンを捕らえる事が出来ず、空を切った。
「何処を狙っている……?」
後ろからオーガガーディアンの声が聞こえる。
わずか一瞬で、オーがガーディアンは後ろに回りこんだのだ。
慌てて振り返るトラウクだが、すでに遅かった。
「第一層、等活地獄っ!!」
オーガガーディアンが剣を返し、トラウクに向かって刀を振り下ろす。
トラウクは吹き飛ばされ、同時にその衝撃でハサミを折られてしまった。
「苦しむがいい……!」
オーガガーディアンの言葉は、どこか怒りがこもっていた。

―8月29日日曜日午前7時42分―

「ふぅ……」
お弁当もすでに作り終え、一息ついた粋はテレビをつけようとリモコンのスイッチを押した。
ちなみに、粋の両親は、休みだからという理由でまだ眠りについている。
『……れでは、現場の映像をご覧ください』
この時間は、ほとんどのチャンネルで朝のニュース番組を放映している。粋がつけたチャンネルも、その一つだ。
「あれ?」
だが、その番組は、ほとんどの場合昨日までの一週間に起こった事を報道する。だが、今日は違っていた。
映し出されたのは、崩壊した幾多のビル、立ち上る煙、そして、争う二体のロボット。
『午前0時から、この戦いは続いています。午前2時半までは、こちらの地球側のロボットが不利に陥ってましたが、午後6時半からは状況が一転し、有利に事が進んでいます』
実況にも近い、現場のリポーターが現在の状況を伝える。
「……っ!?」
そして、粋はその映像を見て愕然となった。
「勝くん……!?」
テレビに映し出されていたのは、ヴィザリオンとトラーガ。
ヴィザリオン、つまり、勝が戦っているという事を、粋は知ってしまったのだ。
「……勝くん………」
その戦っている姿を見て、勝の身を案じる粋。
「……大丈夫、だよね……?」
粋は問いかけるものの、当然ながら誰からも返事は帰ってこない。
それでも、粋は勝の返事を聞いたような気がした。
「大丈夫。絶対に、約束の時間に間に合うから」と…

―8月29日日曜日午前7時49分―

三人の攻撃は、すでに神機を限界にまで追いやっていた。
同時に、三人もまた限界が来ようとしていた。すでにエネルギーは底が見え始めている。
「そろそろ限界か……!」
「だが、たとえこの身が動かなくなろうとも……」
「俺は、誰も悲しませたくない! だから……!」
「絶対に、勝利する!!」
三人の言葉が、偶然にも重なり合う。

「行くぞ!」
白虎神は改めてトライドに向かって構えなおすと、
「白虎っ!!」
トライドに向かって高速で駆け出し、
「咆っ哮ぉぉぉぉぉぅっ!!!」
アッパーカットのように、下からトライドを大地の牙で殴り、空へと吹き飛ばした!!
トライドはそのまま空中に投げ出され、爆発する。
「人の心を、傷つけはさせない……!」

「この世から……消えろ!!」
オーガガーディアンは改めて構えを取ると、
「最終層……無間、地獄っ!!!」
トラウクの身を消し去るほどの勢いで、何百何千にも切り裂いた!!
その身体は、爆発することもなくその場に塊として残った。
オーガガーディアンがゆっくりと剣を鞘に収め、
「地獄に落ちて、罪を償うがいい……!!」
足元のトラウクに対して、憎らしげに言葉を吐く。
それと同時に、オーガガーディアンは涙を流した。

「フェニックスブレイドッ!!」
ヴィザリオンが叫ぶと、フェニックスブレイドの刃が高熱を発して赤く光り始める。
「フェニックスッ、ディバイディイィィィィィッ!!!」
そしてトラーガに向かって走り出すと、ヴィザリオンは大きく振りかぶり、フェニックスブレイドをトラーガに向かって思い切り振り下ろした!!
フェニックスブレイドとトラーガが激突し、辺りに衝撃波を撒き散らす。
「切り裂けえぇぇぇぇぇ!!」
結果、トラーガはフェニックスブレイドの切れ味に負け、切り裂かれてしまった。
二つに切り裂かれた身体は、そのまま爆発、四散する。
「俺の……勝利だ!」

―8月29日日曜日午前8時57分―

「ハァ……ハァ……ハァ……!」
勝は走っていた。
約束の時間まで、もう時間がない。粋との約束を守るため、勝はただひたすら走る。

戦闘が終わったあと、勝はすぐさま帰還した。だが、戦闘していた場所から、VESまではどんなに急いでも1時間はかかってしまった。
そのため、こんなギリギリの時間になってしまったのだ。

「粋……粋……!」
走りながら、粋の名を呼ぶ勝。
ふと時計が目に入った。
その時間は…

―8月29日日曜日午前9時00分―

大川駅の噴水前。
時計は、約束の時間を指した。
「………………」
時計を、ただ無言で見つめる少女。
少女は、空のようなパステルブルーのワンピースを着て、手には手提げカバンを持っていた。中身は、この時のために作ったお弁当が入っている。
「ふぅ……」
少女は、粋は、小さくため息をついた。
勝を信じていざ来たものの、約束の時間になっても現れない。
やはり、まだ戦いが続いているのだろうか。
「……あと、10分だけ……」
それでも、粋は来る事を信じて、待つ事にした。

しかし、10分経っても、まだ勝は現れない。
「………………」
もう、勝は来ないのだろう。きっと、戦いが長引いているのだろう。
半ばあきらめて、家に帰ろうとした、その時であった。
「粋!!」
自分の名を呼ぶ声が、後ろから聞こえた。
振り向くと、そこにはよく見覚えのある少年の姿があった。
「勝くん……」
粋は、少年の名を呼んだ。
少年、勝は、息が上がっていた。理由は、おそらく急いでいたのであろう。
「悪い……遅れてしまって……」
「………………」
勝の言葉に、粋は返事をせず、うつむいてしまう。
「……怒ってるのか……?」
今度は首を横に振る粋。
「う、嬉しいの……勝くんが……来て、くれたから……」
粋は涙声になっていた。それほど、勝がこの場に来てくれた事が嬉しいのだろう。
だが、これはこのような状況だからこんなにも嬉しいのだ。何事も無くこの時を迎えていたら、これほど嬉しくはなかっただろう。
「結局……遅刻したけどな……」
「それでも……約束は、守ってくれたから……」
粋は涙を拭き、改めて笑顔で勝を見つめる。
「粋……」
そんな粋を見て、勝もまた嬉しくなった。
自分は約束の時間に来る事が出来なかった。それでも粋は自分を信じて待っててくれた。
今日は、粋のために出来る事をしてあげよう。そう心に誓うと、勝は粋に向かってこう言った。
「それじゃ、行こうか」
「うん……!」
粋は、勝の言葉に再び笑顔になって答えた。

To be continued…


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たとえ、近くに寄れなくとも……!

戦線復帰を果たした体の使徒ブレイグ。
ブレイグは以前とは違い、綿密な作戦を立て、かつ強力な神獣をヴィザリオン達にぶつけてきた。
今までと違った戦いに、またしても苦戦を強いられる勇者達。
一方、VESでは新たなヴィクトリーウェポンを開発していた。
それこそが、勇者達にこの戦いの勝利をもたらす…

勝利勇者ヴィザリオン 第9話「一角獣の砲撃」

君たちのその手で、勝利をつかめ!

初回公開日:2002年11月3日

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