第7話「約束」


―2010年8月25日水曜日午後3時46分―

その日、粋は菜摘の家に来て、残っている夏休みの課題を共に済ませていた。

「……そういえばさ、粋」

「?」

その途中、突然菜摘が粋に話しかけてきた。
粋は自分の手を中断させ、顔をあげる。

「勝と上手くいってるの?」

粋は思わず手に力を込めてしまい、シャーペンの芯を折ってしまう。

「な、な、何で、そ、そんな事、聞くの……?」

「だって、粋は勝の事好きなんでしょ?」

「そ、それは……」

あまりにも真正面からついてくる質問に、粋はどう答えていいのか分からなくなり、顔を赤らめた。
確かに、自分は勝の事が好きなのかもしれない。だけど、はっきりと答える事は出来ない。あまり、自分の気持ちを理解してないから…

そんな粋の気持ちを察したのか、菜摘はため息を一つつくと、

「……しょーがない。この私が二人の仲が発展するようにプロデュースしてあげる」

変に自信たっぷりの笑顔を粋に見せた。

「?」

それに対し、粋はただ顔を赤くしたまま、菜摘のその笑顔に首をかしげるだけだった。


第7話「約束」

―2010年8月25日水曜日午後5時11分―

菜摘の家からの帰り道。粋はカバンを抱えながら、複雑な表情をして歩いていた。
「菜摘ちゃんはああ言ってたけど……本当に大丈夫なのかな……?」
どうやら、菜摘から何か色々と提案を出されたらしい。カバンから、何やら色々と書かれている紙があふれそうになっている。
「それに、私がよくても、勝くんはこんなにゆっくりと時間が取れないかもしれないし……やっぱり、菜摘ちゃんには悪いけど、これはなかった事に……」
「どうしたんだ、粋?」
「きゃっ!?」
突然、粋は自分の名前を呼ばれて驚き、カバンを落としてしまった。
「あ、ああ、悪い……」
粋の名を呼んだ人物が、謝りながら粋のカバンを拾い、軽く土ぼこりを腹って粋に渡す。
「あ、ありがとうございます……って、勝くん?」
その時、粋は目の前にいる人物を見て初めて、自分の名を呼んだのが勝だと気づいた。
そして、それを理解すると同時に粋は先程の事を思い出してしまい、顔を赤らめて気が動転してしまう。
「な、何で勝くんがここに……?」
「いや、近くのコンビニで夕食を買って、その帰りの途中だから……」
勝がそう言ってコンビニのビニール袋を見せたので、粋は納得した。
「そ、そうなんだ……」
「それより、さっき上の空って感じで歩いてたけど、大丈夫か?」
勝に言われ、粋は鼓動が一瞬高鳴ったように感じた。
「えっ? も、もしかして、聞いてた……?」
「? 何を?」
「あ、いいの! こっちの話」
「そうか……」
粋は聞いてなかったと聞いて安心し、手を振りながら苦笑する。
さすがにあの独り言を聞かれたら恥ずかしい。特に、勝に聞かれたとなると、これから当分勝とまともに会話が出来なくなっていただろう。
「それじゃ、俺は帰るから……」
「う、うん……」
そして、勝は思い出したように踵を返してそのまま去ろうとする。
粋は勝を見送るつもりで手を上げた。だが、その手が躊躇してしまう。
本当に行かせてしまっていいのか? 菜摘の提案を、このまま無視してしまっていいのか?
さまざまな思考が、粋の頭を駆け巡る。
迷う中、粋は思い切って、
「し、勝くん!」
「?」
勝の事を呼び止めた。
「あ……えっと……」
しかし、言葉がなかなか出てこない。ほんの少し、ほんの少しでも口が動いてくれれば…
「粋?」
自分が戸惑っているその時、勝が自分の名前を呼んだ。
(っ、そうだ……)
大切な事を忘れていた。今、目の前にいるのは他の誰でもない、勝なのだ。
勝は、勇気ある者・勇者だ。
だから、自分も勇気を出して、言わなければ…
そう思うと、口が自然に開き、言葉を発してくれた。
「あ、あの、今度の日曜に、どこか一緒に……い、行かない?」
「えっ……?」
勝は驚いた顔で見ていた。当然と言えば当然の反応だろう。
普段は自分から意見を言う事が少ない粋が、自分から「どこかに行かないか」と誘ったのだから。
「……め、迷惑……かな……?」
不安そうな表情で勝を見つめる粋。
何しろ、勝の返事で、自分の気持ちと勝の自分に対する想いが分かるのかもしれないのだ。不安にならずにはいられない。
その、勝が答えるまでの時間がとんでもなく長く感じられる。10秒か、5秒か、それとももっと短いだろうか。
それでも、粋は何時間も待っているような気分になった。
「えっと……」
勝の口が動き始める。
果たして……?
「俺は、別に構わないけど……」
つまり、OKという事だ。
勝の返事を聞いた途端、粋の顔が明るくなる。それほど勝が自分の誘いにOKしてくれた事が嬉しいのだろう。
「じ、じゃあ、日曜の朝9時に、大河駅の噴水前で。いい、かな?」
粋はものすごい速さで待ち合わせの時間と場所を勝に告げる。
「わ、分かった……」
粋のその迫力に勝は圧倒されそうになったが、何とか持ちこたえて答えた。
「あっ、でも……」
だが、粋は急に何かを思い出したらしく、表情にかげりが出る。
「ん?」
「もし、日曜に勝くんが戦いに行ったら……」
そう、粋はそれが気がかりなのだ。
せっかく勝と一緒にいられるのに、もし戦闘が起こったりしたら、勝はそちらを優先しなければならない。
それだけは嫌だ。普段からよく途中でいなくなってしまうのに、こんな大事な時にいなくなったりしたら…
「大丈夫」
勝は粋のそんな気持ちを読み取ったのか、笑顔で答える。
「え?」
「絶対にどこにも行かないから。だから、安心していい……」
「でも……」
「その日は絶対に戦闘が起こらない。そう信じてれば、絶対に願いは叶う。だから……」
勝の言葉がとても嬉しかった。
その言葉を聞いただけで、粋は不安が消え去って行ったような気がした。
「……ありがとう」
粋は、勝にお礼のつもりで笑顔を返した。
「約束、だよ……私、ずっと待ってるから……」

―8月28日土曜日とある時刻―

聖なる宮殿ゴッドパレス。
「………………」
そこのとある部屋で、ブレイグは目を閉じたまま座禅を組んでいた。
この状態こそ、彼らにとってもっとも効果的に傷を癒す事が出来るのだ。
事実、ブレイグが一ヶ月前にヴィクトリーから受けた傷は、ほとんど回復している。
「ブレイグ……」
そこに、ゼイヴァが音も立てずにブレイグの前に現れた。
「何か用か、ゼイヴァ」
「お前の様子を見に来る以外、何の理由でここに来る?」
「……勝手にしろ」
ブレイグは再び目を閉じて療養に入ろうとするが、
「いつぐらいだ?」
「………………」
ゼイヴァが問いかけてきたので、仕方なくといった表情でブレイグは答えた。
「あと20神日ぐらいだ」
「そうか」
ブレイグの返答を聞くと、ゼイヴァは返事一つだけで踵を返した。
「せいぜい、やられないようにするんだな」
それだけという事に少し腹を立てたブレイグは、以前みたいにゼイヴァに皮肉をかける。
「貴様が言うセリフではないな」
「ぐっ……!」
皮肉さえも返され、余計に腹を立ててしまった。

―8月28日土曜日午後10時12分―

「明日かぁ……」
粋は、自分の部屋にあるベッドの上で、天井を仰いでいた。
横に目を向けると、明日のために何度も何度も考えて選んだ服がかけられてある。
空のようなパステルブルーのワンピース。
普段あまりおしゃれなどを全くしないものだから、正直悩みに悩み抜いた。
「……勝くん、来てくれるかな……?」
粋は未だに不安を拭いきれないでいた。
勝はああ言ってくれたものの、どうしても不安が襲ってくる。果たして勝は来てくれるだろうか? 忘れるという事はないにしても、何らかの事情で来れなくなったりしないだろうか?
色々な考えが頭の中を駆け巡るが、粋は頭を振って全部吹き飛ばした。
「……ううん、考えちゃダメ。勝くんを信じなきゃ」
勝も言ってたのだから。「信じてれば絶対に願いは叶う」と。
「……大丈夫だよね、勝くん……」
粋は身体をうつぶせにし、枕に顔をうずめて小さな声でつぶやいた。
届くはずのない、だけど聞いてもらいたい、勝に向かって。

―8月28日土曜日午後11時43分―

「……そろそろ寝るか」
勝は部屋の電気を消して、眠りにつこうとした。
普段なら、疲れていて9時ぐらいには眠ってしまう。その分、朝は早く起きようと思っているのだが、疲れている身体はどうしても睡眠時間を延ばしてしまう。
ただ、今日だけは違っていた。
今日も、いつものように一日を過ごしていたが、家に帰って明日の準備をしていたらなぜか時が経つに連れて目が冴えるようだった。
事実、今もなかなかまぶたが重くならない。
(何で、俺はこんなに……)
原因は自分でもよく分かっていない。
だけど、もしかしたら、自分は明日を楽しみにしているのかもしれない。子供が、楽しみにしている日を待ちきれないのと同じように。
仮にそうだとしても、その理由は?
明日は、ただ粋と一緒に出かけるだけだ。それ以上は何もない。何もないはずなのに…
「!?」
その時であった。
突然、机の上に置いてあったヴィクトリーコマンダーが電子音を発した。
勝は慌ててヴィクトリーコマンダーを手に取り、ボタンを押して通信回線を開く。
「こちら、翼守 勝!」
『たった今、全国三ヶ所に神機が出現!』
「何だって!?」
勝は、オペレーターである日高の言葉に、驚きを隠せなかった。
今までの戦闘で、同時に何体も出る事はあっても、離れた場所に複数出現する事はなかったからだ。
『すでに神威は北海道札幌市へ、オーガチームは福岡県福岡市に向かっています! 隊員も、すぐに第三の地点、大阪府大阪市へと向かってください!』
「了解!」
日高の指示を受け、勝は急いで着替えをして外に出て行く。
(くっ……何だってこんな時に……!)
そして、その途中で、こんな時に現れた神機に対して怒りを覚えた。
明日は、大事な約束があるというのに…

―8月29日日曜日午前0時31分―

深夜0時を過ぎて日付の変わった、大阪府大阪市。
街の電気はすでに消えており―正確には、神機によって電気を失い、消されてしまった―、夜によって生み出された闇の中でただ一体、神機トラウクはたたずんでいた。
すでに街は全壊し、その機能を全て失っている。
街に住む人々は何とかトラウクの手から逃れられたものの、こうなってしまっては帰るべき場所もない。
そこに、はるか遠方から戦闘機がトラウクの目の前を高速でよぎり、

「チェンジ!」
ヴィクトリーが叫ぶと、ヴィクトリージェットはその姿を変形させはじめる。
ヴィクトリージェットの機首が折れ曲がり、機体後部の真ん中、後に腕となる部分が縦に半回転して機体前部に乗っかった。
次に、機体後部が横に回転し、脚を形成する。
腕となるパーツが横に開き、下に下りると中から手が現れ、腕を形成した。
最後に眼に光がともり、
「ヴィッ、ザァァァァァ!!」
ヴィザーと名乗ったロボットは、トラウクに向かってファイティングポーズを力強く取った。

暗闇の中、対峙するヴィザーとトラウク。
すでにヴィザーは街のあまりにも痛々しい光景を目にしていた。今までに壊されてきた街を何度も見てきたものの、ここまではひどくなかった。
「くっ……!!」
こうなってしまったのは、当然ながら破壊者であるトラウクのせいである。だが、ヴィザーこと勝はそれだけに怒りを向けていなかった。
もっと自分が早く来ていれば、もっと早く神機の存在を感知していたら、ここまでひどくはなかっただろう。
勝は、何よりも自分に対して怒りを覚えていた。
「こんな事、許されるはずがない! お前達の企みは、この俺が食い止める!!」
ヴィザーは怒りによってこみ上げてきた言葉をトラウクにぶつけると、すぐに構えを取り、
「ヴィクトリィィィィィッ、フォオォォォォォムッ!!」
と思い切り叫んだ。

―8月29日日曜日午前0時36分―

「――――っ?」
突如、声が聞こえたような気がして、粋は目が覚める。
辺りを見回すが、特に変わった事はない。当然ながら、部屋の中に自分以外の人間はおらず、テレビやラジオだって、この時間になったら親も寝ているからついてるはずがない。
「………勝くん?」
粋は、ふと勝の名をつぶやいた。
自分でも、なぜ勝の名を口にしたかは分からない。ただ、あえて理由を挙げるなら、その声が勝のものだった気がしたからだ。
だけど、この時間だったら勝も寝ているはずだ。
「………………」
きっと気のせいだったのだろう。
そう自分に言い聞かせ、粋は再び布団の中に潜り込んでまぶたを閉じた。
今度は朝まで目覚める事がないように、少し祈りながら…


―8月29日日曜日午前0時39分―

北海道札幌市では、白虎神に合体した神威と神機トラーガが戦闘を行なっていた。
「牙っ! 砕、斬っ!!」
白虎神が、トラーガに向かって牙の形をした武器を上から叩き込もうとする。
ガギィッ!
「!?」
だが、大地の牙はトラーガを引き裂く事なく、また、突き刺さる事もなく、トラーガの腕に装着された盾にはじかれてしまった。
その感触を今までに全く感じた事がなく、白虎神は戸惑いを隠せない。
「ぐあっ!?」
そのために隙が出来てしまい、白虎神は、トラーガの打撃をまともに受けてしまった。
「くっ……!」
空中で何とか体勢を戻し、一旦トラーガから間合いを取る白虎神。
「はぁぁっ!!」
かと思ったら、白虎神はすぐさまトラーガに向かって、刀を取り出しながら駆け出し、
「幻っ!!」
牙と刀でトラーガを切り裂こうとする。
「ぐっ……!!」
だが、結果は先程と同じであった。
刀の方はトラーガに傷を負わせる事が出来た。だが、全てを切り裂く事が出来るはずなのに、刀は途中で止まっている。
牙は先程と同じく、全く傷を負わせる事が出来ない。
「な、なぜ、私の刀を……っ!?」
白虎神がその事に驚いていると、
トラーガが腕に装着している盾で白虎神に殴りかかってきた。
「くっ……何っ!?」
白虎神は慌てて牙と刀を戻して避けようとした。牙は元から突き刺さっていたりしなかったのですぐに戻せた。だが、刀の方が戻せない。
「ぐわぁぁぁっ!?」
それによって白虎神は再びトラーガの攻撃を受けてしまい、吹き飛ばされる。
「ぐぅ……」
傷ついた身体を何とか起こして、トラーガに向かって構えを取る白虎神。
と、白虎神はある事に気がついた。
「刀……!」
そう、刀が手元にないのである。
ふとトラーガを見てみると、トラーガか刀を自分の体から抜いて手に持っていた。
「っ!」
慌てて白虎神はトラーガから刀を取り戻す。
白虎神の表情は、焦りとなっていた。
(装甲の固い敵……何故、よりによってこんな時に現れるのだろうか……?)
白虎神は、今自分が一人で戦っている事をうらんだ。
しかし、自分達はこうなる事を想定して造られた。自分もまた、攻・防・速・技の4パターンの武装を持っている。
それなのに、何故こんなに苦戦するのか。
(他の全てが、整備中でなかったら……)
そう、その理由は一つ。整備中で出せないのだ。
唯一、よく使う白虎はまめに整備されてたのだが、他は使う頻度が白虎に比べて少ないため、整備の日がずれているのだ。
そして、今日は運悪く他のが整備に出されていた時の出撃だったのだ。
(だが、ヴィザリオンやオーガチームも必死になって戦っているはず。私がこんな所で立ち止まるわけにはいかない……!)
しかし、それでも白虎神は決して戦いを放棄する事などをしなかった。
白虎神は改めてトラーガを見据え、
「うおぉぉぉぉぉ!!」
さらなる反撃を開始した。

―8月29日日曜日午前0時37分―

同じ頃、福岡県福岡市にて。
「………………」
オーガガーディアンが、神機トライドに向かって剣を下段に構えてじっとたたずんでいる。
「第二層、黒縄地獄っ!!」
かと思った瞬間、オーガガーディアンはトライドの目の前に一瞬で近づき、下から上へ剣を振り上げた。
「!?」
だが、剣は空振りし、空を切る。
辺りを見回すが、トライドの姿はどこにも見つからない。
いや、違う。目で追う事が出来ないのだ。
目で追う事が出来ないほど、トライドが速く動いているのだ。その証拠として、何もない所から風を切る音が聞こえる。
「我が剣をかわすとは……相当の強さを持っていると言う事か……」
それでも、オーガガーディアンは落ち着いた様子でその音に耳を傾けていた。
はっきりとトライドの居場所を掴むため、今度こそ自分の攻撃を当てるため。
「………………」
聴覚を最大にまで研ぎ澄ます。
今、音は前方を右から左に、後方を左から右に移動している。そうなると、トライドは自分の周りを反時計回りで回っている事になる。
ほとんどの建物が壊れている事から、その動きは無駄のない円になっているであろう。
周期は、かなり速い。単純に考えても、1秒の間に何度も回っている。
「だが……!」
オーガガーディアンは剣を返し、
「第一層、等活地獄っ!!」
素早く真正面に向かって刀を振り下ろした。
すると、剣は見事にトライドを捕らえ、トライドは自分のスピードとオーガガーディアンの打撃による衝撃で斜めの方向に吹き飛んでいった。
「安心しろ、斬ってはいない……だが、ダメージは十分であろう……!」
オーガガーディアンがそう言いながら第二撃のために剣を構えようとしたその時、
「っ!?」
突然オーガガーディアンは剣を持っていた手に衝撃を受け、剣を落としてしまう。
見ると、トライドがさっき倒れた場所とは正反対側に立っており、両腕から刃を生やしていた。
「そっちも本気で来るという事か……ならこちらも本気で行かせてもらう!」
オーガガーディアンは剣を拾うとすぐに、トライドに向かって構えを取った。
「ハッ!」
かと思った瞬間に、オーガガーディアンはトライドの目の前に立ち、剣を振り下ろす。
「!?」
だが、剣は再び空を切り、
「くっ……!?」
背中から衝撃を受けてしまう。
一瞬のうちに、トライドは攻撃を回避し後ろに回って逆に反撃を行なったのだ。
「この私が、追いつけないだと……!?」
あまりにも速すぎるスピードに、驚きを隠せないオーガガーディアン。
「くっ……!」
何とか落ち着こうと剣を構えてじっと待つ。
トライドの、速すぎるスピードをとらえようと。

―8月29日日曜日午前0時48分―

「エナジィィィィッ、インパクトォッ!!」
ヴィザリオンが、エネルギーに包まれた左の拳をトラウクに向かって叩き込もうとする。
同時に、トラウクは手を開き、そのままヴィザリオンの拳に向かって突き出した。
双方の攻撃がぶつかり合い、辺りに衝撃波を散らす。
その力は互角かと思われたが、
「ぐわあぁぁぁっ!!」
結果は、ヴィザリオンが吹き飛んだ。
「ぐっ……」
身を起こすヴィザリオン。
真っ直ぐにトラウクを見据えるものの、焦りが出始めていた。
「俺の攻撃が、負けている……!?」
その焦りは、先程から続いている戦闘にあった。
主力武器であるエナジーインパクトが負けてしまったのもあるが、負けてしまったのはそれだけではない。格闘戦も、ウイングスラッシュも負けてしまったのだ。
今までに装甲が硬く、効かなかった事はあったが、攻撃同士をぶつけ合って負けたのは初めてだ。
残っている攻撃手段は、あと一つ。
「だったら……これしか、ない!」
ヴィザリオンは構えを取り、
「フェニックス、ブレェェェイドッ!!」
腕を空に突き出した。

しばらくして、ブレイドフェニックスがヴィザリオンの元にたどり着くと、
「モードチェンジッ!」
ヴィザリオンの二つ目の掛け声によりその姿を変形させる。
首が縮んで頭部が胴体と結合したあと、両方の翼が前に来て、刃となる。
両足がたたまれ、横に広がって鍔となり、尾は持ち手となる。
変形が完了すると、ヴィザリオンは完成された剣を手にし、
「ブレイドッ! ヴィッ!! ザリッ!! オォォォォォンン!!!」
トラウクに向かってフェニックスブレイドを構えた。

ヴィザリオンが構えると同時に、トラウクも構えを取る。
「はぁっ!」
ヴィザリオンはすぐさまトラウクに向かって駆け出し、フェニックスブレイドを振り下ろした。
トラウクは、それに向かって握った拳を思い切り突き出す。
ぶつかり合う剣と拳。状況はヴィザリオンの方が圧倒的に有利に思われた。
だが、
「ぐっ……!」
どういうわけか、フェニックスブレイドはトラウクの拳を切り裂くことなく、むしろ逆に押し返されていた。
「な、何だと……!?」
現時点の自分の中で、最強を誇るフェニックスブレイドでさえ、トラウクの攻撃の前で無力となってしまっている。
その事実を突きつけられ、戸惑うヴィザリオン。
その隙をつき、トラウクは空いているもう片方の拳を握りしめ、ヴィザリオンの腹部に向かって思い切り突き出した。
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
再び吹き飛ぶヴィザリオン。
そんなヴィザリオンをじっと見つめるトラウク。表情などあるはずが無いのに、あざ笑っているように見えた。
「くっ……!」
再び立ち上がって構えを取るヴィザリオン。トラウクもまた構えを取ったが、今度は腕にハサミ状の武器を出現させて装備した。
「おおぉぉぉぉっ!!」
ヴィザリオンは再び走り出し、
「バァァニングッ、フェニィィィィックスッ!!」
トラウクに向かって剣を思い切り振り下ろした。
すると、一瞬ではあるが剣から炎が噴き出し、それが鳳凰を形作る。
鳳凰はトラウクを飲み込もうとしたが、トラウクがハサミで剣を受け止めたため、鳳凰は姿を消してしまった。
「くそっ……!」
仕方なくヴィザリオンは一旦フェニックスブレイドを戻し、トラウクと距離をとる。
(フェニックスブレイドもバーニングフェニックスも効かない……残されたのはヴィクトリーフィニッシュとフェニックスディバイディ……)
ほとんどの技が効かないとなると、残るのは最終技である二つ。
だが、もしこの二つさえも効かなかったら? そうなると、自分に残された道はなくなってしまう。
(しかし、このまま無駄に攻撃を繰り出しても全く意味がない。だったら、一か八かそれに賭けるという手も……)
さまざまな考えを巡らすが、答えは一向に出てこない。
(こんな時、神威やオーガチームの存在がとても必要だというのを実感させられるな……)
ふと、ヴィザリオンの頭に、今も別の場所で戦っているであろう神威とオーガチームがよぎった。
一人で苦戦していると、仲間の存在が尊く思えてくる。仲間がいてくれたら…
(いや、あいつらも必死に戦っている。だから、俺は……!)
ヴィザリオンはフェニックスブレイドを持つ手に力を込め、
「行くぞっ!!」
三度トラウクに向かって攻撃を仕掛けた。

―8月29日日曜日午前0時59分―

VES司令室。
巨大なモニターには、三人の勇者によるそれぞれの戦いが映し出されていた。
「くそっ! このままじゃ、三人ともやられちまう!」
富士は怒りのあまり、自分の机に拳を打ち付ける。
「落ち着け、富士指揮官」
「落ち着いてられっか、こんな状況で!」
峯島がなだめようとするものの、それが富士の感情を逆なでしてしまったらしく、富士は怒りを峯島にもぶつけた。
「長官の言うとおりだ、富士君。落ち着いた方がいいよ」
そんな富士を、いつものように霧山がなだめる。
「こんな時、冷静になる方が……」
「こんな時だからこそ、僕達が落ち着いて状況を見て、ヴィザリオン達に指示を出すべきだ。僕たちが焦ったりしてたら、状況は変わらない。いや、むしろ悪化するかもしれない」
「………………」
霧山に上手く丸め込まれ、富士はどこかやりきれない表情で、仕方なく椅子に座りなおした。
「すまない、霧山副官」
「いえ」
霧山は峯島に笑顔を見せると、改めてモニターを見返した。
三者は、いずれも決して状況はよくない。
(どいつも、自分の得意な面を活かしきれてない……それが焦りを生み、何とかしようとあがいてしまう……)
その姿を見て、考えをめぐらせる富士。
(敵の狙いはおそらく戦力の分断。三人を分ければ、勝算があると思ったんだろう……実際、現時点ではこちらが不利だ……)
このまま三人に戦いを続けさせれば、おそらく三人とも敗北してしまうだろう。
そうなる前に、何とかしなければならない。状況がこれ以上悪化しないために、何とか…
「くそっ!」
何かを決意したのか、富士は一言放つと通信回線を開き、
「ヴィザリオン! 白虎神! オーガガーディアン! 一旦引け!」
一時退却命令を下した。
『な、何だと!?』
『一時……退却、ですか……!?』
『何故、そんな判断を……』
通信機の向こうから、動揺する勇者達の声が聞こえてくる。
そんな勇者達に、富士は少し落ち着いた声で言葉を返した。
「ただし、お前らが今戦ってるヤツをひきつけながらだ!」
『コイツを……』
『ひきつけながら……?』
『どういう事だ?』
勇者達は、疑問を抱いた。同様に、富士以外のVESの隊員達も、同じ事を思っていた。
「富士指揮官……?」
「………………」
富士は、何か策があるといった顔で、モニターを見つめる。
その瞳の奥に、一体何が描かれているのか、それは現時点では富士しか分からないことであった―

To be continued…


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俺は、誰も悲しませたくない! だから……!

三体の神機に、苦戦を強いられた勇者達。
だが、富士はそんな状況を打破するため、ある一つの作戦を立てた。
作戦を実行に移す勇者達。人々を守るために。
そして、ヴィザリオンにとって、勝にとって、残り時間はあとわずかだった。
粋との約束の時間は、そこまで迫っている…

勝利勇者ヴィザリオン 第8話「光と共に」

大切な約束を、守るために……!

初回公開日:2002年10月19日

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