第2話「神威」


―2010年5月4日火曜日午後4時42分―

「………………」

少女は自分の左手首と右手に持っているカッターをじっと見つめていた。
右手のカッターは、震えながらも今にも左手首を切り裂こうとしている。

(もう、このまま生きていても……私は……)

「………………!!」

そして、しばらく思い悩んだが、少女は意を決してカッターの歯を手首に押し付け、勢いよく切り裂いた。

あたりに飛ぶ鮮血。そして、少女はそのまま倒れこんでしまう。

とそこに、一人の女性が少女のいる部屋に入ってきた。

「!? これは……っ!?」

そして、女性は目の前に飛び散っている血と手首を切って倒れている少女を見て驚愕した。

一体何が、少女を自殺に追い込んだのだろうか?
それは、この時点では少女しか理由を知らなかった―――


第2話「神威」

―2010年7月4日日曜日午後3時17分―

少女春崎優菜(はるさきゆうな)は橋の上でボーッと川を見つめていた。
「……………………………」
そして、数ヶ月前と同じことを考えていた。
(……早く、ここから飛び降りよう……)
決意した優菜は橋に乗りかかり、
ダッ!
勢いよく身を投げ出す。
そしてそのまま川に落ちるのを覚悟したが、
「危ない!」
空中でその身は止まってしまい、川岸に向かって飛んでいった。
いや、正確に言うなら、何かに受け止められてそのまま川岸に持っていかれた感じなのである。その何かというのは、優菜自身はもちろん分からない。
「………………」
驚いて目を見開く優菜。だが、目の前には誰もいない。それどころか、自分の体が見えない何かに支えられている感じで浮かんでいるのだ。
「大丈夫ですか?」
「!?」
すると、突然何もないところから声が聞こえてきた。驚く優菜。
「あっ、これは失礼しました」
「っ!?」
これが優菜の反応に気づいたらしくそういった瞬間、突然目の前にロボットの姿が現れた。腕に刃と、白いボディを持ったロボットが。
優菜はさらに驚いてしまう。
「さあ、これで大丈夫です」
ロボットはゆっくりと優菜を下ろす。
「………………」
だが、優菜は礼を言わない。当然だ。自分は自殺しようとしていたのだ。それを阻まれて礼など言うはずがない。
しかし、ロボット自信はそのことを知らない。
「一体、なぜ橋から身を乗り出していたのですか?」
ロボットが問いただす。しかし、優菜は全く話そうとしない。
「話してくれなければ、理由が分かりません」
ロボットは必死になってその原因を聞こうとする。
「……さい……」
「は?」
「うるさいって言ってんのよ!」
優菜はロボットに向かって怒鳴るとどこかへと駆け出していった。
「あっ!」
ロボットは一瞬その少女を手で止めようとしたが、少女は細い道に入ってしまったためロボットの手が入らず、そのまま行かせてしまう。
「………………」
そして、ロボットはしばらくその少女の後ろ姿をじっと見詰めていた。

―7月4日日曜日午後6時42分―

VES司令室。峯島は隊員からの今日の報告を受けていた。
といっても、隊員は人間では勝のみであり、残りは全てロボットである。さらに、パトロールに行くのは勝とロボット1体のみだ。

「―以上で、報告を終わります」
勝は全ての報告を峯島に話し終えた。
「ご苦労、今日は帰っていいぞ」
「了解」
「次は神威(かむい)」
『はい』
神威と呼ばれたロボット―先ほど優菜を助けたロボットである―は返事をし、今日の報告をする。
ちなみに、神威自信は格納庫におり、通信で峯島に報告をしているのだ。
『―それで、その途中でこの少女が橋から落ちそうになったので救ったのですが……』
そういいながら、神威は画面に優菜の姿を映し出した。
「春崎じゃないか」
その姿を見た勝が驚きの声を上げる。
『知り合いですか、勝殿』
「知り合いも何も、俺のクラスメートだ」
『そうなのですか……偶然というものは恐ろしいですね』
「それで、その少女がどうしたんだ?」
話が少しそれてしまったため、峯島は話を戻して神威に質問をかけた。
『身を乗り出していた理由を聞いたのですが、全く話してくれませんでした』
「………………」
神威の報告を聞いた勝は、手をあごに持ってきて考え込む。
『どうかしたのですか?』
「いや、ちょっとな……」
そういうも、勝はまだ考え込んでいた。
(そういえば、俺はクラスメートなのにあいつの事全然知らないな……)

―7月4日日曜日とある時刻―

聖なる宮殿ゴッドパレス。
「ブレイグよ」
柱を背もたれにして座り込んでいるブレイグに、ゼイヴァが話しかけてきた。
「何か用か、ゼイヴァ」
「『何か用か』ではない。なぜ出ないのだ? こうしている間にも人間の罪は重くなっていると言うのに……」
ゼイヴァが説教とも取れる言葉をブレイグにかけると、ブレイグは鼻を鳴らしてこう言い返した。
「フン、ならば行こうではないか」
憎まれ口を叩くと、ブレイグは立ち上がってその場を去っていく。
「……憎まれ口よりも、裁きに力を入れてほしいものだな」
そんなブレイグの後ろ姿をにらむように見ながら、ゼイヴァは一言つぶやいた。

―7月5日月曜日午前11時1分―

流沢スクール第1教室。
「―それで、ここの訳はどうなるんだっけ?」
賢が菜摘に教科書の英文を指しながら質問する。
五人はいつものごとく同じ机を使って英語の勉強をしていた。もっとも、灯矢だけは勝達よりも一学年上なので一つ上のレベルの勉強をしている。
「えっと、ここは……こんな感じでいいんじゃないの?」
「こんな感じって……そんないい加減な」
「いいじゃない。同じような問題が出てきても何とかなるでしょ、賢なら」
「う~ん……」
菜摘の反論に、返すことが出来ない賢。
「………………」
灯矢は一人で黙々と英文を日本語に訳して文法なども調べていた。
「灯矢」
「何?」
その時、勝が灯矢に話しかけてきた。
「灯矢はいつも一人で次々とやっているけど、ちゃんと勉強できてるのか?」
勝は灯矢に素朴な疑問を投げかける。前々から気になっていたのだ。
「一応ね。もちろん、分からなかったりした時のために先生がいるからね。先生に聞いたりしてもいるよ」
「そうか」
勝が納得したその時、勝の目に優菜の姿が入ってきた。
「……なあ、粋」
「何?」
「春崎ってさ、どんな奴だっけ?」
勝の唐突な質問に粋は一瞬戸惑うが、それでも何とか答える。
「えっと……私もあまり仲良くないからわかんないんだけど、二年前に転校してきたの」
「それで?」
「ええと……ごめん、これ以上は分からないの」
「そうか……ありがとう」
粋に礼を言った勝は再び優菜の方に目を向けた。が、優菜は教室の中のどこにもいない。
「?」
勝は首を傾げたが、追及するのもなんだと思い、勉強に手を戻した。

―7月5日月曜日午前11時17分―

優菜は、昨日と同じ橋の上でたたずんでいた。
「………………」
そして、昨日と同じように川をボーッと見詰めていると、
「またここにいましたか」
優菜の耳に聞き覚えのある声が入ってくる。
振り向くとそこにはあの神威がいた。
「………………」
神威の姿を見て、優菜は不機嫌な顔になる。自分の邪魔をされた存在だから当然といえば当然だ。
「乗りかかっているとまた落ちますよ」
「………………」
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私は神威といいます」
「………………」
「あなたのお名前は?」
「………………」
神威が優菜の口を開かせようと必死になってしゃべるが、優菜は全く口を開いてくれない。
「あの、何か話してくれなければ私も何を言えばいいのか分からなくなって……」
「見下してる……」
「はい?」
その時、優菜は神威に対してやっと口を開いてくれた。だが、
「そんな高い所から、私を見下してるって言ってるのよ。あなた、何様のつもり?」
「………………」
優菜の口にした言葉はそれであった。
神威はしばらく沈黙したあと、優菜に向かって手を差し伸べた。
「?」
「どうぞ、お乗りください」
どうやら、優菜を高い位置に持ってこさせようという魂胆だ。
「………………」
優菜は少しばかり躊躇したが、見下されてるままと言うのも嫌なので仕方なく神威の手に乗った。
「!」
乗った瞬間に神威の手は大きく上がり、肩の近くまで上がるとやっと止まる。
「肩に乗ってください」
神威にうながされ、優菜は恐る恐る神威の肩に乗った。
「これでいかがでしょう?」
「………………」
優菜は先ほどと変わらず口を開いてくれないが、その表情はまんざらでもない様子だった。
「さて、話を本題に戻しましょう。昨日の事ですが……」
「!」
だが、神威の次の言葉を聞いた途端に表情は一変し、再び機嫌を悪くしてしまう。
「なぜ橋から身を乗り出していたのですか? あれでは危険だと言うことは分かっていたのですか?」
神威は今度こそ機嫌を悪くさせまいと優しく問いかけた。しかし、昨日と変わらず質問には答えてくれない。
「……一つ聞いていい?」
それどころか優菜は、逆に質問を神威にかけた。
「……いいですよ。何でしょうか?」
「何で私にかまうの?」
「それは……」
優菜の質問に神威は一瞬戸惑ってしまい、
「………………」
優菜はどう答えるかあきれたような目で神威を見ている。
「私は、」
しばらくした後、神威がやっとのことで口を開いた。
「私は、ただあなたの理由が聞きたいだけなのです。それ以外に理由は……」
「答えになってないわ」
「そう言われましても……」
神威は優菜にどう答えればいいのか分からず、困ってしまう。
「……それに、あれは事故じゃないわ」
「え?」
だが、優菜野思わぬ返答に表情を変え、
「私は、自殺しようとしたのよ」
次の言葉を聞いて神威は絶句してしまった。
「どう? これで理由が分かったでしょ。だから早く……」
「……なぜ、自殺を?」
「………………」
優菜は早く降ろしてもらおうとするが、神威はそれを最後まで言わせる前に質問する。
「そんなの、昨日会ったばかりのあなたに関係ないでしょ」
「時間なんて、関係ありません……例え昨日会ったばかりでも、私はあなたの事を放っておけないんです!!」
何とかして適当に切り上げようとする優菜に向かって神威は怒鳴るような口調で言い返した。
優菜はそんな神威に対してひどくショックを受けた。まさかこんな風に言葉を返すとは思わなかったからだ。
「……すいません、怒鳴ったりして。ですが、放っておけないのは本当です。それに、あなたが今でも自殺しようとしているのならば、私はあなたの心を救いたい……」
神威は切なそうな表情に変わった。そして、神威を見て、優菜の心に変化が現れ始めた。
「なんで……こんな、小さな存在の私を……?」
「いいえ、あなたの存在は決して小さくなどありません。少なくとも、私はそう思います」
「私なんかいなくなった方が……」
「いいえ、あなたが死んだら悲しむ人が必ずいます。例えあなたの周りにいなくても、いえ、すでに私がいます」
「どういう、事……?」
「私は、悲しくなります。あなたが死んだら……だから、生きてください」
「………………」
優菜は神威のほうとは逆の方を向いてしまう。そんな優菜を見て、神威は一瞬悪い事を言ったかと表情を曇らせたが、次の瞬間にはそれは間違いだと気づいた。
「あ、ありがと……」
優菜は、誰にも聞こえないようなほど小さな声でそうつぶやいた。神威の言葉を聞いて、少なくとも嬉しいのだ。
それを悟った神威は、少しばかりそっとしておこうと思い、何もしないでおこうとした。
だが、それは無理な事であった。
「っ!? 危ない!」
「え!?」
突然、橋を渡る車が神威に向かって襲ってきたのだ。
「はっ!」
「きゃっ!?」
神威は優菜を手で押さえ、空高くジャンプして車をよけた。
目標物を失った車は勢いが止まらず、神威の背後にあった柱にぶつかってしまう。
「な、何なの……!?」
「ぐぅ……よけられたか……」
その時、車から声が聞こえてきた。いや、正確には車がしゃべっているのである。
「車が……!?」
「貴様……なぜ私を狙った!?」
神威が先ほどとは違った荒々しい声で言葉をぶつけた。
「お前を狙った……? 俺はお前の肩に乗っている人間を殺そうとしたんだよ!」
「!?」
車の口にした事に、優菜はひどく動揺する。自分には身に覚えのないことなのに…
「無差別か!?」
「人間は全て排除する、これが俺に与えられた使命。だから、人間は全て殺すのだ!!」
語尾が強くなったかと思うと、車はその姿を変形させ、ロボットとなる。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
全身に力を込めると、橋が崩れてロボットにまとわりつき、鎧となった。
そして、ロボットは神獣ヴリザルとなって再び降り立つ。
「喰らえっ!」
ヴリザルが神威に向かって拳を打ち込んでくる。
「くっ!」
神威は再びジャンプして拳をかわした。
「はぁっ!」
しかし、それを読んでいたのかヴリザルは拳をすぐに引き、空中にいる神威に向かって拳を打ち込んできた。
「!!」
空中では動きが制限されてしまう。そのため、神威は攻撃を真正面から受けてしまう体勢になってしまった。このままだと、神威と優菜は攻撃を受けてしまう。
だが、
「うおぉぉぉっ!!」


「…………………」
優菜は、目の前で起こった事がうまく把握できていなかった。
目の前で起こった事、それはこうである。
神威はヴリザルの攻撃をよけるために高くジャンプした。しかし、それはおとりであり、空中の神威に向かってヴリザルは再び攻撃してきた。逃げることのできない神威。
しかし、そこにヴリザルの攻撃から神威を守った者が現れたのだ。
その名は、
「ヴィザー!」
そう、ヴィザーだ。ヴィザーがヴリザルと神威の間に入り、ヴリザルの攻撃を自らの攻撃で相殺したのだ。
「お前か! 俺達の邪魔をする真の敵は!」
「神威! 今すぐ少女を安全な所に!」
「了解しました!」
ヴィザーの言葉に甘え、神威は優菜をつれてその場を去っていく。
「くっ……!」
「おっと!」
ヴリザルは神威を追いかけようとしたが、その前にヴィザーが立ちはだかる。
「お前の相手は、俺がやってやる!」
「こうなったら、お前から始末してやる!」
ヴリザルは拳に力を込めると、先ほどと同じ攻撃をヴィザーに向かって打ち込んできた。

―7月5日月曜日午後0時41分―

VES本部。
「この中に入れば安全です。すでに入れるよう許可はもらっています」
神威は本部の扉前で優菜を降ろす。
「では、私は行きます」
そういって、神威はその場を去ろうとしたが、
「神威!」
優菜が初めて名前を呼び、神威の足を止めた。
「何か?」
「まだ、話は……終わって、ないから……」
たどたどしい感じで優菜が話すその姿に神威は微笑み、
「分かりました。戻ってきたら、話を聞きます」
と言い残し、再び背中を向けてその場を去る。
その時、優菜には見えなかったが、神威の顔をマスクがおおった。
「………………」
その後ろ姿を、優菜はただじっと見つめていた。

―7月5日月曜日午後0時51分―

ヴィザーはヴィザリオンに合体し、ヴリザルと戦っていた。
「はぁっ!」
ヴリザルのパンチをガードするヴィザリオン。
「エナジィィィィッ、インパクトォッ!!」
うまく受け流したあと、ヴィザリオンはエネルギーに包まれた左の拳で反撃する。
「!?」
だが、ヴリザルは目にも止まらぬ速さでヴィザリオンの攻撃をかわし、
「はぁっ!」
「うわあぁっ!!」
後ろから飛び蹴りをヒットさせた。
たまらず吹き飛んで地面に倒れるヴィザリオン。
「くっ……!」
すぐに起き上がって反撃しようとするが、すでに目の前にヴリザルはおらず、
「ここだ!」
「何っ!?」
再び後ろに現れてヴィザリオンを攻撃した。ヴィザリオンは再び攻撃を受けてしまい、再度倒れてしまう。
「うわぁっ!」
「くらえっ!」
ヴリザルはまさに止めといわんばかりの攻撃をヴィザリオンに叩き込もうとする!
「っ!!」
だが、ヴリザルの攻撃はヴィザリオンに当たる直前で止められてしまった。
「!?」
驚くヴリザル。目の前には鞘に入れたままの刀で拳を受け止める神威の姿があった。
「神威!」
「これで、さっきの借りは返しました……!」
「……ありがとう、神威」
ヴィザリオンの礼を聞き、小さく微笑む神威。
「ぐっ……どうなってるんだ……!? 俺の拳を、そんな刀で……」
そして、ヴリザルはまだ驚いていた。どう見ても自分よりはるかに小さい刀、それが自分の強力な拳を受け止めている。ありえないと思っている事なのだ。
「我が刀『妖刀・神(じん)』は名のとおり妖しの刀。故に力を封じるためにこの鞘は強固に作られている。その鞘が貴様のような拳で折れるはずがない!同様に、神も……」
神威の言うとおり、鞘はヴリザルがいくら拳に力を込めても全くビクともしない。
「ぐ……このぉっ!」
ヴリザルは怒り、開いているもう片方の拳で神威の頭上から攻撃する。
「はっ!」
「!?」
だが、それを察知した神威は素早く刀で受け止めていた拳を流し、ヴリザル自身の拳で拳を止めた。
「ぐわっ!?」
それによってヴリザルの片方の拳は、かなりのダメージを受けて動かせなくなってしまう。
「自爆を誘ったか……いい戦法だ、神威!」
「しかし、どうやら相手はそれだけで済みそうではないようですね……」
神威が刀を改めて腰に携えると同時に、ヴリザルがつぶれた片方の拳を押さえながら二人の方をにらんでいた。
「てめえら……俺の拳をつぶしやがって……タダで済むと思うなよ!」
ヴリザルがそういったかと思うと、突然つぶれた拳を掲げる。
すると、ヴリザルの周りのコンクリートがはがれ、拳にまとわりついて新たに巨大な拳を作り上げた。
「くらえ! マグナム・ナックルッ!!」
ヴリザルはその拳を、二人に向かって思い切り突き出す。すると、拳が二人に向かって飛んできた。
「くっ!」
二人は何とかかわすが、拳は急に反転したかと思うと再び神威を襲ってきた。
「っ!?」
神威はその身軽さから再びかわす事に成功する。しかし、拳はまた神威を襲ってくる。三度目が来ると思わなかった神威は、拳を真正面から受けそうになってしまうが、
「ウイング、スラァァッシュ!!」
ヴィザリオンが右腕の翼によって形成されたエネルギーの刃で拳をはじき、神威を守った。
「大丈夫か?」
「辛うじて……すみません」
「謝る必要はない。それより神威、相手の動きは早い。おそらく今の神威よりスピードは上だろう」
ヴィザリオンの言葉に神威が少し反応する。
「だけど、お前には今を上回る力を持っている。それを使うんだ!」
「了解!」
「ゴチャゴチャしゃべってると、痛い目見るぜ! マグナム・ナックルッ!!」
神威がうなずいた瞬間に、ヴリザルが再び拳を撃ってきた。
「エナジィィィィッ、インパクトォッ!!」
だが、ヴィザリオンがエネルギーに包まれた左の拳で対抗する。
「ぐっ……!!」
そして、どちらの拳もはじかれることなくその場で静止した。
「神威! 俺が止めている間に、早く……!」
「分かりました!」
神威はうなずくとすぐに構えを取り、

「現れよ! 四聖獣、『白虎』!!」
と叫びながら手を開いて思い切り上に突き出す。

VES本部。
「白虎召喚・コール発動!」
「四聖獣・白虎、スタンバイ!」
オペレーターである日高の言葉と共に、バックパックを背負った虎の姿をしたマシン四聖獣・白虎が発進口にセットされ、
「発進!」
その言葉と同時に地を駆けていった。

しばらくして、白虎は神威の元へとたどり着くと変形を開始する。
白虎の四肢が折りたたまれ、最後部を軸にして胴体下部が後ろに開いた。
その部分が左右に開き、つま先が立って足を形成する。
バックパックが左右に開かれ、後部が伸びて後部は下腕を形成し、前部は肩を形成した。
バックパックのあった部分には、空洞が存在していた。
「はっ!」
神威は白虎に向かってジャンプするとその姿を手裏剣の形に変形させ、空洞と結合する。
同時に、腕から拳が出現した。
最後に、白虎の頭部が上を向いた状態から前を向いた状態になると口が開き、中から顔が現れ、
「地神武装! 白虎ぉぉぉっ、神っ!!」
神威は白虎神と名乗り、大きく構えを取った。
白虎神―神威が四聖獣である白虎と地神武装する事によってこの姿になる事ができる。
白虎神となれば、神威のスピードは飛躍的にアップする。

「ヴィザリオン!」
白虎神がヴィザリオンの方を向くと、先ほどと全く同じ姿勢のままであった。
だが、
「くそ……こうなったら、こっちもやってやるぜ!」
ヴリザルは先ほどとは反対の拳を掲げ、もう一つ巨大な拳を作り上げる。
「ファントム・ナックルッ!!」
そして、その拳をヴィザリオンに向かって撃った。
「!!」
反撃しようにも、今はエナジーインパクトを放っている。同時に二つの技を放つとなると、一つにかかるエネルギーが半減してしまう。そうなると、エナジーインパクトで押さえている拳までもが襲ってきてしまい、逆効果だ。
どうすることもできないヴィザリオンにヴリザルの拳が迫ってくる。
「はっ!」
しかし、ヴィザリオンに当たる直前、拳は阻まれて動きを止められてしまった。
白虎神が、先ほどのように刀の鞘で止めたのだ。
「ぐっ……」
「白虎神!」
「お待たせしました。ここからが、本当の戦いになります!」
「ああ!」
ヴィザリオンが嬉しそうにうなずくと、白虎神は行動を開始する。
「はっ!」
白虎神は縦に構えて抑えていた鞘で拳を下から突き上げ、軌道をそらす。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
同様にヴィザリオンは左の拳に力を込め、同じように軌道をそらした。
すると、ヴリザルの二つの拳はヴィザリオンと白虎神の後方で激突し、互いの力によって粉々に砕け散る。
「何ぃっ!?」
自分の拳が砕け散ったのを目の当たりにして、驚くヴリザル。
「エナジィィィィッ、インパクトォッ!!」
そこに、ヴィザリオンがエネルギーに包まれた左の拳でヴリザルに向かってきた。
「当たるかっ!」
ヴリザルは持ち前のスピードでヴィザリオンの攻撃をジャンプしてかわす。
「逃がさない!」
「!?」
だが、逃げた場所にはすでに白虎神が待ち構えていた。
「くっ!」
ヴリザルは着地すると同時に別の方向へと飛ぶ。
「!」
「遅い」
しかし、その場所にはいつの間にか白虎神が再び待ち構えていた。
「馬鹿な!?」
ヴリザルは驚きつつも、今度は全力でその場から駆け出す。
「遅いといってるのが、分からないのか?」
「!!?」
驚いたヴリザルは張りしながら横を振り向いた。そこには、ヴリザルと同じ速度で走る白虎神の姿があった。
「鬼ごっこは終わりだ。大地の牙!」
白虎神はどこからともなく取り出した、牙の形をした武器を手に持ち、
「牙っ! 砕、斬っ!!」
「ぐああっ!!」
ヴリザルの頭から牙を叩き込み、下へと引き裂いた。
ヴリザルは今までにないダメージを受け、ひざをついてうずくまってしまう。
「人を傷つけるものは、いかなる存在でも許さず! 行くぞ!」
白虎神は改めてヴリザルに向かって構えなおすと、
「白虎っ!!」
ヴリザルに向かって高速で駆け出し、
「咆っ哮ぉぉぉぉぉぅっ!!!」
アッパーカットのように、下からヴリザルを大地の牙で殴り、空へと吹き飛ばした!!
「ぐ……ぅあぁぁぁぁぁっ!!!」
ヴリザルは空中で悲鳴を上げ、爆発する。
「人の心を、傷つけはさせない……!」

―7月5日月曜日午後2時23分―

VES格納庫。
戦闘終了後のメンテナンスを受けている神威に、優菜は話しかけていた。
「……大丈夫?」
「はい。幸い、傷はほとんどありませんので」
神威は笑顔で優菜に質問に答える。
「そう……」
神威の笑顔に、優菜はどこかぎこちないような笑顔を返した。
「……そういえば、まだあなたのお名前を聞いてませんでしたね」
「そう、だっけ?」
「はい。では、改めて……あなたのお名前を聞かせてください」
神威は礼儀正しく、優菜に問いかける。
優菜はしばらく神威をじっと見ていたが、小さく笑った後、自分の名を名乗った。
「私は優菜、春崎優菜。ちゃんと覚えてよ」

―7月5日月曜日とある時刻―

聖なる宮殿ゴッドパレス。
「またしくじったのか!?」
ゼイヴァの怒鳴り声が当たりに響く。
「………………」
「いい加減にしろ! こうしている間にも事態は進行しているというのに!」
ゼイヴァがブレイグに向かって何度も怒鳴っているのだ。
「はぁ…………」
その光景を見て、アルディアはあきれていた。
「そんなに言うのなら、お前が行けばいいだろうが」
ブレイグもややあきれたような感じで、ゼイヴァにそう言い返す。
「……いいだろう、次は私がやる。お前はここで見てるがいい!」
ゼイヴァがブレイグにそう言い放つと、どこかへと去って言った。

To be continued…


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合体……できない!?

突然、街で起こった停電。それは神の三天衆が一人ゼイヴァによるものであった。
すぐに現場に向かうヴィザーと神威。
そこに待ち構えていたのはゼイヴァとゼイヴァの配下。
合体して戦おうとするヴィザー。だが、どういうわけか合体する事ができない。
実は、これがゼイヴァの考えた罠だった。

勝利勇者ヴィザリオン 第3話「阻まれた勝利」

君たちのその手で、勝利をつかめ!

初回公開日:2002年5月4日

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