序章~Prologue~


―2010年4月12日―

―……この星は、おろかな者どもによって姿を変えてしまった…

―これを嘆かずして、どうすべきだろうか?

―もはや、一刻の猶予も与えるわけにはいかない…

―我はこの手で抹殺を始める。

―憎むべきは人間…

―憎むべきは人間の生み出した文明…

―それら全てを破壊し、この星からかき消す…

―我がこの手を汚さなければ、この星は破滅へと導かれる。

―だが、この星が救われるならば、我は喜んでこの手を汚そう…

―さあ、おろかな人間どもよ! この星から消え去るのだ……!

―この創生神ライヴァスの裁きで!!


序章~Prologue~

―2010年4月12日月曜日午前7時52分―

東京都海上区大河町。
いつもと変わらない、暖かな陽射しあふれる春の朝。木々の花は咲き乱れ、小鳥たちのさえずりも聞こえる。
だが、そんなのどかな朝の雰囲気とは違った光景が、この街の一角にあった。
「あ、あの……」
「別にいいじゃねぇかよ、一緒に来るぐらいよぉ」
眼鏡をかけて緑のワンピースを着た一人の少女が、耳や鼻にピアスをした、いかにも不良という言葉が似合う制服の男達3人に絡まれていた。
「でも、これから学校がありますから……」
「学校なんざ、一日ぐらい休んでもいいだろ? それで死ぬわけじゃねぇんだからよぉ」
「そうだぜぇ。それに、俺達と一緒の方が、学校よりのずっと面白ぇしな」
「だけど……」
少女は困った顔をする。
少女星月 粋は、その場から一刻も早く立ち去りたかったが、男達が自分の周りを囲んでいるため、それが出来ない。
このままでは、何をされるか…
考えただけで恐ろしくなる。だけど、今はどうする事もできない。
「なあ、来るのか、来ないのか?」
「で、ですから……」
「まさか、断らねぇよなぁ?」
男達が威圧をかけてくる。それによって、粋は何の言葉も発する事が出来なくなってしまった。
「じゃ、決まりだな」
それを肯定と取ったのか、男達は粋の手を取って連れ去ろうとした、
「!?」
まさにその時であった。
突然、一人の男の横から別の手が伸びて男の手を押さえる。
見ると、そこには青い服を着た少年が立っていた。年齢は、粋と同じぐらいであろうか。
「な、何だ、てめぇ!?」
「………………」
少年は口を開かずに、男の腕をねじり上げる。
「いでででででで!」
男が情けない声を上げる。
「その女の子が嫌がってるのを、お前達は感じてないのか?」
男の腕をねじり上げたまま、少年は男をにらみつけた。
「な、何なんだよ、お前は!?」
男が少年に問いただす。
すると、少年はねじり挙げていた手を離し、構えを取る。
「……ただの、学生だ」
「ただの学生なら、俺達の邪魔をすんじゃねぇ!」
男達は少年のその態度に腹を立てたのか、一斉に少年に向かって飛び掛ってきた。
「危ない!」
粋が声を上げる。
「君は危ないから下がってるんだ!」
しかし、粋の心配をよそに、少年は粋に下がるように指示を出した。
「人の心配より、まず自分の心配をしろぉ!」
男がそういいながら、少年に向かって殴りかかってきた。
「!!」
「なっ!?」
だが、少年は自分に向かってきた拳を、腕を使って軌道をそらしてかわす。
「がはっ……!?」
と同時に、少年はすかさず男のみぞおちに向かって拳を突き出していた。
急所を突かれ、男は気絶してその場に倒れこむ。
「うらぁ!!」
次に、横から飛び掛ってきた男を、
「!?」
横に飛びのいて簡単にかわし、
「がっ……!?」
首元を叩いてこれまた気絶させた。
「………………」
あっという間に二人の男を倒したその光景を見て、もう一人の男は絶句する。
「お前も眠ってもらう!」
「ぅえっ!?」
だが、そんな暇もわずかしか与えられず、男は少年に右腕をつかまれ、
「ハァッ!!」
男の身体は中を舞い、背中から叩き落された。あまりにも見事な一本背負いである。
「………………」
瞬時に三人もの男を、いとも簡単に倒した。
その光景に、粋もまた絶句していた。
あまりにも早く、あまりにも鮮やか。まるで、テレビや舞台の殺陣(たて)を見ているようであった。
「大丈夫か?」
「えっ? あ、はい」
粋は、少年に声をかけられてやっと我を取り戻す。
「そうか、よかったな」
そういって、少年は表情を緩ませて笑顔になった。
「あ、あの、本当にありがとうございました」
「いや、いいよ、礼なんて。ただ、こいつらが悪かっただけだからな」
「でも、助けてくださったのは事実ですから」
粋もまた、同じように微笑む。
こうして改めて見ると、その姿や顔立ちは決して悪くなく、男達が無理矢理にでも連れて行こうとした気持ちもわからなくはない。もちろん、そんな事をするつもりはないが…
などと少年は思わず考えをめぐらせてしまったが、自分が何故ここにいるかを思い出すと、粋に一つ質問を投げかけた。
「……それより、ちょっと聞きたい事があるんだが……」
少し、恥ずかしそうにしながら。
「はい?」
「………流沢スクールって、どうやって行けばいいんだ?」
少年の、あまりにも情けない質問に、粋は一瞬固まってしまった。

―4月12日月曜日午前8時13分―

私立流沢スクール校門前。
そこで、誰かを待っているらしく、三人の少年少女が道路の向こう側を見詰めていた。
「遅いわねぇ……」
三人のうち、紅一点である少女がやや心配そうな声でつぶやく。
「何か、事故でもあったのかな?」
三人の中で最も背が高く、年配そうな少年が同じように心配の声を漏らす。
「某秘密結社とかの戦闘員に囲まれてたりとか、怪人に襲われてるとか……」
だが、その三人の中で、眼鏡をかけた少年だけがこの場にふさわしくない言葉を口にした。
その言葉を聞き、先程の少女と少年が白い目で少年の方を振り向いた。
「……不謹慎」
「………ゴメン」
少女の重い一言に、少年は素直に謝る。
「……来たみたいだよ」
その時、もう一人の少年が道路の向こう側にある影を見つけ、声を上げた。
二人がその声に反応してその方に振り向くと、そこには粋と先程の少年がやや小走りにこちらへ向かっている姿があった。
「粋!」
「菜摘……ちゃ……ん……!」
そして、粋は少女に向かって菜摘という名を呼び、少し息を切らしながらも三人のいる場にたどり着いた。
「ギリギリセーフってとこかしら?」
「よ……よかった……」
菜摘の言葉に、粋は胸をなでおろす。
「ところで、そっちの彼は誰?」
そこに、眼鏡をかけた少年が粋と共に走ってやってきた少年の方を見る。
「あっ、えっと……」
「はじめまして、俺は翼守 勝。今日、このスクールに転入する事になった」
粋が説明しようとした時、少年は一歩前に出て自己紹介をした。
「あっ、転校生なんだ」
「俺が道に迷ってたのを、星月さんが親切に教えてくれた」
「へぇ~、粋もなかなかやるじゃない。こんなかっこいい男のコを助けるなんて」
勝を少し眺めると、菜摘は粋をからかうような言葉を口にしながら、肘で小突く。
「そ、そんな……」
走ってきたために赤くなってた粋の顔が、わずかだがさらに赤くなる。
そんな粋の姿に、全員が軽く笑った。
「……そういえば、僕達の方はまだ自己紹介してないね」
その時、ふと思い出したかのように言う灯矢。
「僕は空崎 灯矢。僕を呼ぶ時は灯矢でいいから。よろしくね」
「木葉 賢。僕も、賢でいいよ」
「あたしは百合野 菜摘。よほどの事がない限り、菜摘でいいわ」
三者三様の自己紹介をする三人。
「わかった。俺も、呼ぶ時は勝でいい。よろしく、灯矢、賢、菜摘」
それを受けて、勝は笑顔で返した。
「あ、そうそう、粋。クラス変更の事なんだけど……」
今度は菜摘が、思い出したように話題を変える。
「ど、どうだった?」
恐る恐る聞いてみる粋。
「大丈夫、ここにいる四人とも、同じクラスよ」
「よかった……これで前みたいにまた一緒に勉強が出来るね」
「勉強できるといいけど……」
ガスッ!
賢のさりげないつぶやきを聞き、すかさず肘打ちを入れる菜摘。
「ちゃんと勉強するの! あたし達なら出来るわよ」
「は、はい……」
本気ではないとはいえ少し痛かったのか、少し涙目になりながらも賢はうなずいた。
「ははっ……」
そんな姿を見て、勝が小さく笑った。
「?」
「いや、悪い。けど、賢達が少しうらやましくてな」
「え……?」
勝の言葉に、粋達の表情が少し変わる。
「前の学校で、いろいろあったから……仲のいい友達と言うのもいなかったし……」
勝から次々と発せられる言葉が、辺りの雰囲気を暗くする。
「……そんなの、関係ないよ」
そこに、沈んだ空気を払うかのように灯矢が口を出した。
「え?」
「勝君……いや、勝は、僕達と知り合えた。だから、もう友達だよ」
灯矢はそういって笑顔を見せる。
「……まあ、確かに、このあたし達と関わった以上、一人でいるってことは滅多にないと思うわ」
「元々この学校では、みんな仲がいいからね」
「だから、翼守くん……勝くんは、一人じゃないから……」
灯矢に触発されたように、次々と勝に言葉をかける三人。
勝は、その言葉を聞いて少し、気分が晴れたような気がした。
「……ありがとう」
勝は四人の気持ちに答えるように、礼を返した。
と、その時、流沢スクールから予鈴の音が響いてくる。
「あっ、もうそんな時間か……」
少し寂しげな表情でつぶやく灯矢。
「それじゃ、帰りに」
「もしかしたら、うちのクラスに入るかもよ」
先程とあまり変わらず、冗談交じりに言う賢。だけど、今度のは悪い意味合いを含んでないため、誰からもとがめられる事は無かった。
そして、粋達四人と勝は、一度別れた。

―4月12日月曜日午前8時42分―

流沢スクール第1教室。
ここでは現在、始業式前のショートホームルームを行なっている。そして、第1教室で約四名が、女性教師の横にたたずんでいる人物を見て、嬉しいようなあきれたような複雑な表情で迎えていた。
「翼守勝です。これからよろしくお願いします」
その人物、勝は、挨拶と同時に頭を下げてお辞儀をする。
だが、その勝もまた複雑な表情をしていたのを、四人は見逃さなかった。
「翼守君、ここでは、特に決まった席は無いから、好きな所に……」
「こっちこっち、勝はこっち!」
菜摘が勝に向かってオーバーすぎるぐらいの手招きをする。そこには、菜摘をはじめ先ほどの四人全員がそろっていた。
「……あそこで、いいですか?」
「え、ええ……」
勝と教師は互いに苦笑を漏らす。
そして、勝は四人のいる席に向かった。
「いらっしゃい、勝」
「改めてよろしくね」
「ああ、よろしく」
勝は笑顔と共に答えた。
教師は、勝が席に着いたのを確認すると、改めて教卓に立ち、話を始めた。
「さて、今日から新学期ですね。皆さんは新しい……」

―4月12日月曜日午前9時32分―

「礼っ!」
「さようなら」
「はい、さようなら」
教室に生徒たちの挨拶が響くと、教師が笑顔で返した。
生徒達は一斉に鞄を持って、帰り時を急ごうとする。
「さ、帰りましょ」
「うん」
当然ながら、勝達も例外ではない。五人とも鞄を持ち、教室を出た。
だが、何故か菜摘をはじめとする四人の足取りが速い。勝は慌ててペースを合わせるが、疑問を抱かずにはいられない。
「お、おい、そんなに急がなくても……」
「急がないと、帰るのが遅くなるの」
「どういう事だ?」
「昇降口に行けば分かるかも……」
粋がやや小走りになりながら、勝に説明をする。
「?」
それでも、勝は首をかしげていた。
やがて、五人は昇降口に辿り着く。
「今日はいないね」
賢は辺りを見回して、ほっと一息ついた。
「早く、靴を履き替えて!」
しかし、菜摘はまだ気を許してないらしく、半ば焦りながら靴を履き替えている。
それにつられるように他の三人も靴を履き替える。
「ほら、勝も早く!」
「あ、ああ……」
勝も、菜摘に促されながらも行動を起こした。
その時、
「灯矢さまぁ~っ!」
「!?」
廊下側から、アイドルのコンサートなどでよく聞くような黄色い声が聞こえてきた。
勝が振り向くと、そこには何十人もの女子達が、あちこちに『灯矢』『LOVE』の文字が書かれたうちわやハチマキ、挙句の果てには旗まで持ちながら立っていた。
「遅かった……」
その姿を見ると、菜摘は落胆して頭を抱え、三人は苦笑を漏らしていた。
「な、何だ、一体……?」
ただ一人、勝だけはこの状況を理解していなかった。
「灯矢ファンクラブ。灯矢のその容姿や性格、頭脳にスポーツにほれ込んだ女子達が集まって結成した、ある意味このスクールでもっとも恐れるべき存在よ」
そんな勝に、菜摘は皮肉を込めながら説明する。
「そ、そんなものがあるのか……」
「だから急いでたの」
「そこのおつき達!」
勝たちが固まっていた所に、灯矢ファンクラブのリーダーらしき人物が一歩前に出て、勝達を指差す。
「おつきじゃないってば……」
「私達の灯矢様から離れなさい。さもなくば、地獄よりも恐ろしい光景を見る事になるわ」
『達』をつけているだけ、まだ独占欲は高すぎないようだ。
だが、その言葉は明らかに灯矢を自分達だけのものにしたいという意味が込められている。
「悪いけど、灯矢君は僕達の友達……」
「例え友達であろうと、私たちから灯矢様を奪うのであれば敵とみなします!」
「あぅ………」
賢は彼女達を説得しようと試みたが、リーダーの剣幕に押されてすぐさま下がってしまう。
「まったく……だらしがないわね、賢も」
あきれた様子で一歩前に出て、賢達の方を一瞬振り返る菜摘。
「で、地獄よりも恐ろしい光景って、一体何?」
その態度を全く変えず、菜摘はリーダーの方に向き直った。
「それはもう、公では言えないようなあーんな事やこーんな事、さらにはそんな事まで……」
「な、何て卑猥な……」
「いや~ん、お嫁にいけな~い!」
リーダーの言葉に反応するかのようにわざとらしく言うファンクラブ数名。
「あーんな事やこーんな事じゃ、分からないわね。具体的に言ってみなさいよ?」
だが、菜摘はあえて無視し、き然とした態度で返した。
「言ってもよろしくて? もし実行されれば、あなたはこの学校に来れなくなるかもしれませんわ」
「言えるものなら言ってみなさいよ」
互いに引けをとらない論争。
その時、ファンクラブの一人が異変に気づいた。
「リ、リーダー!」
「どうしました?」
「灯矢様が……灯矢様がいません!」
「なんですって!?」
慌てて周りを確認するファンクラブ一同。だが、いくら探しても灯矢を始め、勝達三人の姿もなかった。
先程菜摘は、目で灯矢達に指示したのだ。
「私が何とかするから、その間に学校を出ておきなさい」と。
「……はかりましたわね!」
「さあ、それはどうかしら」
とぼける菜摘。
「くっ……仕方ありません。今日は諦める事にします。クラブの規約第5条『ファンクラブの者は非常時以外は共に帰路につく事を許さず』に従い、諦めなければなりませんから……」
「それはご勝手に。あたし達は一緒に帰るから」
勝ち誇った笑みを浮かべ、菜摘はその場を去っていった。
後に残ったのは、ファンクラブ一同による恨み妬みの念だった…

―4月12日月曜日午前9時51分―

「あー、すっきりした」
先程とはまた違った笑顔で菜摘は伸びをする。
「しかし、あんな事が日常茶飯事なのか、スクールでは?」
「いつもではないけど、まあほとんど日常茶飯事だよ」
笑顔で答える灯矢。先程の件の原因は自分だと言うのに、まるで他人事のようだ。
「……よく身体が持つな……」
勝は変に感心している。
「でも、あの人達も行き過ぎなければいい人達だから」
「そうか……」
「まあ、偏愛ってやつ? 賢のロボット好きみたいに」
「アハハハ……」
乾いた笑いを漏らす賢。
その時であった。

―おろかな人間どもよ…

「!?」
突然、どこからともなく重く低い声が当たりに響き渡った。
「な、何!?」
慌てふためく粋達。

―我の名は創生神ライヴァス。この世界、そしてこの星を造りだした者。

「……………………」
四人が慌てる中、ただ一人、勝だけは落ち着いた様子で辺りを見回していた。

―4月12日月曜日午前9時58分―

世界各国でも、全く同じ声が響いていた。
「な、何なんだ、一体!?」
「何が起こってるというんだ!?」

―うぬらはこの星に対し、罪を重ねてきた。

「罪を……」
「重ねてきた……?」
ライヴァスと名乗る神の言葉の意味が理解できず、困惑する人間達。

―我は貴様らを『悪の存在』と審判を下し、罰を与える…

「罰?」
「一体何の……」
その瞬間、激しい轟音と共に晴天から落雷が発生し、何十人かがそれに巻き込まれて一瞬で灰となって消滅した。
晴天から落雷など、ありえるものではない。
それだけではない。人だけではなく、建物に落ちた雷はその建物を破壊した。
通常、避雷針によって破壊など起こるはずがないのに、現にそれは起こった。
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!??」
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!?!?」
一瞬にして落雷のあった地点はパニックの渦となる。
「な、何をするんだ!!」
「いくら神とはいえ、やっていい事と悪い事があるぞ!」
中にはライヴァスに向かって反抗の意思を見せるものもいた。だが、そういった者は、意図的に落雷に狙われ、灰と化してしまう。

―おろかなリ。己の罪を知らぬとは…

これが一箇所だけならまだ幸いだったかもしれない。しかし、この落雷はほぼ同時刻に世界各地で発生した。
ありえない、これは夢だ、単なる悪夢だ。
人類の誰もがそれを切に願った。けれども、願いは決して届く事はない。
なぜなら、これが現実なのだから。

―おろかな人間どもに、裁きを……!

―4月12日月曜日午前10時4分―

そして、この事態は勝達も例外ではなかった。
「危ないっ!!」
「きゃっ!?」
先程まで自分達のいた場所に落ちてくる雷。あとほんの少し反応が遅ければ、おそらく灰になっていただろう。
その事を考えると、背筋に冷たいものが走る。
しかし、まだ安心は出来ない。またいつ雷が襲ってくるか、分かったものではない。
「あっ!」
その時、粋が小石につまづいて転んでしまった。
「粋!」
慌てて駆け寄る勝。
同時に勝は空を見上げた。すると、空が陽炎のごとくわずかに揺らめいていた。
おそらく、次の落雷が襲ってくるのだろう。急いでこの場から離れなければ。
だが、見ると粋は足をひねったらしく、立てない状態になっていた。このままでは、自分もろとも灰になってしまう。
「くっ……!」
そう思っていても、わずかながら躊躇する勝。迷ってる暇はない、そんなはずなのに…
「勝君!」
「勝! 粋!」
「粋!」
勝の目に賢、菜摘、灯矢の姿が飛び込んできた。
そうだ。自分には大切な人がいる。大切な人達を死なせるなんて、絶対にさせない。やっと出会う事が出来た、大切な人達を悲しませたくない。全てを失いたくない。
その想いが、勝の中を埋め尽くす。
勝の中から、わずかに存在した躊躇が消え去った。
(俺がみんなを……粋を守る!)
身体が自然に動き、守るための力を手にする。

「ヴィクトリィィィィィッ、チェェェェンジッ!!」
勝は掛け声と共に右腕に装着していた装置―ヴィクトリーコマンダー―のボタンを押した。
すると、勝の体を青い装甲が包み始める。
装甲が完全に体を包むと、最後に勝の頭を覆い、目の部分にはゴーグルがセットされた。
それと同時に、空から雷が落ちてくる。
「ハァッ!!」
粋めがけて落ちてくる雷を、勝は手で受け止めた。普通ならばただではすまない。先程の人々のように、灰になるはずだった。
だが、勝は違っていた。その雷を手で受け止めたにもかかわらず、全く何も変わってないのだ。それこそ、落雷などなかったかのように。
「し、勝くん……?」
あっけに取られる粋。それは、賢達にとっても同じだった。
誰だって、目の前で突然特撮ヒーローのように変身し、しかも落雷を受け止めたら驚かずにはいられないだろう。
「一体、どういう事なの……?」
「勝君って……ヒーロー……?」
「………………」
その反応もそれぞれだが。
「……本当は、明かしたらいけないんだけどな。緊急事態だったから、仕方ない」
冷静に返す勝。だが、内心はかなり焦っているだろう、困惑しているだろう。
「俺は、この世界を守るために結成された組織Valiant Earth Saviorsの隊員だ。コードネームはヴィクトリー。この変身能力も、その防衛のためにある」
それでも、勝は自分の事を説明した。大切な人でも、そのことは明かしたくなかった。だけど、正体を自ら明かしてしまった以上、話さずにはいられなかった。
「………………」
言葉を失う四人。当然の反応だと、勝は素直に受け止めた。
この後、例えどんな言葉を聞かされようとも、覚悟は出来ている。突き放されようとも、自分は大切な人を守る事が出来た。自己満足かもしれないが、それだけでもいいのだから。
「かっ……こいい!!」
「え?」
だが、四人の反応は、賢を始めとして全く異なっていた。
「こんなすごい能力を持ってたなんて、すごい事だよ!」
興奮する賢。
「まあ、普通は誰も持ってないわね、こんなもの」
ややあきれたように言う菜摘。
「でも、それは決して悪い力じゃない」
優しい口調で話す灯矢。
「だって、勝くんは私を守ってくれたから」
微笑みを見せてくれる粋。
それは、決して勝を拒むような反応ではなかった。
「みんな……」
「例えどんな立場だろうと、どんな特異体質だろうと、僕達はそれぐらいで人を選ぶような事はしない」
灯矢のその言葉に、勝は胸の奥が熱くなったのを感じた。
そして、四人に出会えた事を、心から感謝した。
「ありがとう……」
勝は一言、四人に向かって感謝の言葉を言った。
「そんな言葉は後でいいから、地球を守らないと」
「そうよ。あたし達は自分で避難できるから」
そういって、笑みを見せる菜摘。
「……そうだな、分かった」
勝はうなずくと手を振り上げ、
「来い! ヴィクトリー、ジェットォッ!!」
上に向かってかざしながら、キーワードを叫んだ。

VES本部。ここで、ヴィクトリーのヴィクトリージェット発進要請を受けたVESが発進準備を行なっていた。
「ヴィクトリージェット、スタンバイ!」
オペレーターである日高(ひだか)の言葉と共に、発進口にヴィクトリージェットが移動される。
同時に、発進口が音を立てながらその扉を開いていく。
「目標、東京都海上区大河町!」
日高の位置確認が終わると、ヴィクトリージェットがひとりでにエンジンを点火する。
「テイク、オフ!」
ヴィクトリージェットは勢いよく発進し、空の彼方へと飛び立っていった。

数分の後に、ヴィクトリージェットは勝のいる所へとたどり着く。
「それじゃ、行ってくる」
「正義の味方が、負けちゃダメだよ」
「プレッシャーをかけるようだけど、あなたにかかってるんだから」
「頑張ってね、勝」
「ああ……」
勝は声援をもらうとそのままヴィクトリージェットに乗ろうとした。だが、目の前に粋がいるのに気付くと、そのまま立ち止まる。
「粋……」
「……頑張ってね、勝くん」
少し寂しげな表情で、それでも何とか必死に笑顔を作って励ましの言葉をかける粋。その姿に勝は、ほんのわずかながら心が痛む感じを覚えた。
知り合って間もないとはいえ、生死のはっきりしない戦いへと送るのは、粋にとっては辛いのだろう。
それでも、自分のわがままで止めるわけにはいかない。だから、笑顔で送ろう。
「……ああ」
そんな粋の気持ちを悟ったのかはわからないが、勝はマスクの下で笑顔を作った。見えなくともきっと解っていると、そう信じて。
「はっ!」
勝はヴィクトリージェットに飛び乗ると、そのまま操縦桿を掴み、
「ヴィクトリー、出撃する!」
自分をヴィクトリーと呼ぶとヴィクトリージェットを空の彼方へと向かわせた。

―4月12日月曜日午前10時44分―

ヴィクトリージェットは日本を離れ、太平洋の上空を飛んでいた。
『ヴィクトリー!』
そこに、通信機から青年の声が聞こえてくる。
「指揮」
声の主は、ヴィクトリーの所属する組織VESの指揮官、富士(ふじ)だ。
『今は全世界であの雷を止めようと動きが起こっている。お前はその内に指定したポイントへ向かえ!』
「了解!」
『勝って……帰って来いよ』
「分かっています」
ヴィクトリーは短い通信を終えると、ヴィクトリージェットを加速させた。

「この上か……!」
ヴィクトリーは上を見上げてつぶやいた。見ると、まるで雲のようにそれは存在した。
ギリシャ神話などに登場するような、神殿。
その時、その神殿から一筋の閃光が空を切り裂いて走った。どうやら、あの光が人々を襲っている雷の正体らしい。
「これ以上は、させない!」
ヴィクトリーがヴィクトリージェットをさらに加速させようとする。すると、閃光がヴィクトリージェットめがけて襲ってきた。
「!!」
すかさず機体を急降下させて閃光をかわすヴィクトリー。
「チェンジ!」
同時にヴィクトリーが叫ぶと、ヴィクトリージェットはその姿を変形させはじめた。
ヴィクトリージェットの機首が折れ曲がり、機体後部の真ん中、後に腕となる部分が縦に半回転して機体前部に乗っかった。
次に、機体後部が横に回転し、脚を形成する。
腕となるパーツが横に開き、下に下りると中から手が現れ、腕を形成した。
最後に眼に光がともり、
「ヴィッ、ザァァァァァ!!」
ヴィザーと名乗ったロボットは、ファイティングポーズを力強く取った。
「おぉぉっ!!」
ヴィザーはそのまま背中のブースターを噴かせ、勢いよく神殿へと突き進む。
途中、何度も閃光が襲ってくるものの、ヴィザーはそれを全てかわしながら進んでいった。

そして、神殿にたどり着くとゆっくりと降り立ち、目の前にたたずむ神殿をにらむように見据えた。
「………………」

―何者だ、我の神殿の前に立つ者は?

そこに、腹の底に響くような低い声が聞こえてきた。先ほど、全世界に響き渡った声と同一だ。
「俺は、人々を守るために来た。これ以上の殺戮を止めるためにも」
ヴィザーは冷静に言葉を返した。本当は言葉を荒げてもよかったのだが、ここで言い争っていても仕方の無い事だと思っていたから、トーンを落としたのだ。

―……なるほど。だからそのような“作り物”を“着て”いるのか。

「くっ……」
ヴィザーはわずかに表情をこわばらせ、拳を握った。

―まあ、いい……。客人として迎えよう。人間の代表として、な…

その言葉が聞こえたと同時に、神殿の扉が開く。
ヴィザーはゆっくりと歩を進め、中に入っていった。

中は薄暗く、それでいてかなりの広さがあった。入ってすぐの広間でさえ両側の壁が遠くにあり、暗さで見えなくなっている。当然、奥行きもかなりある。
辛うじて奥の壁は見えるが、何があるかははっきりと見えない。
「………………」
そんな神殿の中をゆっくりと進むヴィザー。
やがて、奥の壁がはっきりと見えてきた。奥の壁には、巨大な扉があるだけで、他には何もなかった。
その扉も、入り口と同様ヴィザーを誘うように勝手に開く。
ヴィザーはさらに奥へと進んだ。
そこは廊下で、左右にはいくつも扉があった。奥は先ほどと同様、暗くなっていて分からない。
奥まで一体どれくらいあるか分からない。ヴィザーは仕方なく、背中のブースターを再び噴かせて急いだ。

どれほど経っただろうか。10分は経っていないと思うが、それでもかなり長い間飛び続けている。
こうしている間にも、人々は襲われているのだろう。そう思うと、感情が高ぶってくる。だが、それをぶつける相手が今ここにはいない。
ヴィザーは何とか耐えながらも、その感情が己をせかすため、少しだけ急いだ。

暗闇の向こうに、ようやく終わりが見えてきた。
先ほどと同じような、一枚の扉。しかし、そこから漂ってくる気配は尋常ではなかった。

―我はここにいる……。入ってくるがよい……。

再び聞こえてきた声と同時に開く扉。中はやはり薄暗いが、かすかに光がある。その光は部屋の一番奥にあった。いや、いたと言った方が正しいかもしれない。
その光は人の形をしており、神々しさを放っていた。それもそのはず、その光こそが創生神ライヴァスだからだ。
ヴィザーもすぐそれに気付いた。
ライヴァスはこちらを物理的にも精神的にも完全に見下していた。ヴィザーを圧倒する巨大な体、何人たりとも近づかせないオーラ、その全てがヴィザーを飲み込もうとしている。
「お前が、ライヴァスか……!」
「いかにも……。我こそ、この星この宇宙を創生した神である……」
ライヴァスはゆっくりとした口調で、かつはっきりと言葉を口にした。
「何が神だ……!」
「……?」
「お前が神だと言うのなら、何故神が人々を苦しめる!? 何故全てを破壊しようとする!?」
ヴィザーは今までに積もり積もってきたものをライヴァスに向かって吐き出した。
「これは裁きだ……。人類は、地球に対して重大な罪を犯したのだ……」
「人々を苦しめる事のどこが裁きだ! この俺が、お前の企みを止めてみせる!」
ライヴァスをにらむように、ヴィザーが真っ直ぐに見据える。
「……この我に反抗すると言うのか……?」
「俺は、人々を救うために、お前を倒す!」
その言葉と同時にヴィザーはライヴァスに向かって駆け出していった。
「おろかな……」
「うおぉぉぉぉっ!!」
ヴィザーが繰り出した拳を、片腕で止めるライヴァス。
「はぁぁっ!!」
しかし、ヴィザーは全くひるむ事なく続けて蹴りを放っていく。
ドガァッ!!
これも簡単に止められてしまった。
「どうした……? いきがっていた割にはその程度か……?」
「くっ……!」
あざ笑われた様な気分が襲い、思わず連続して攻撃を放つヴィザー。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
何度も何度も、ヴィザーはその拳や脚を叩きこむが、ライヴァスには全く効いていない。
「無駄だ……!」
その時、ライヴァスが振り払うように腕を振るった。
「ぐはぁぁっ!?」
腕はヴィザーに命中し、ヴィザーを吹き飛ばす。
「ぐぅっ!!」
ヴィザーは柱に激突し、そのまま床に落ちた。
「所詮、人は神に抗えぬ……。あきらめてそのまま運命を受け止めるがいい……」
床に倒れているヴィザーに絶望の言葉をかけるライヴァス。だが、
「運命は……神が、決めるものではない……!」
「何……?」
ヴィザーはゆっくりと立ち上がり、再びライヴァスを見据えた。その目は、まだ諦めの意思を持っていなかった。
「運命は……自らが切り開いてゆくもの……お前が、勝手に決められるものでは……ない!」
そういいながら、ヴィザーは背負っていたブラスター砲をとり、ライヴァスに向かって構えた。
「何をする気だ……?」
少なくとも半端な攻撃ではない。そう悟ったライヴァスは、防御の構えを取った。
「ヴィクトリィィィィィッ、ブラスタァァァァァッ!!!」
次の瞬間、ブラスター砲から強力なエネルギーが発射され、ライヴァスめがけて突き進んでいった。
「ぐうぅぅぅぅっ……!!」
エネルギーは当たったものの、それを必死になって受け止めるライヴァス。
「くっ……はぁっ!」
そして、ライヴァスはエネルギーを弾き飛ばし、横の壁に穴を開けた。
「…………………」
それをヴィザーは黙ったまま見つめる。
「多少はやるようだな……だが、我を倒すには不十分だ……」
「この一撃で倒そうなんて、最初から思っていない」
ライヴァスが自分の勝利を確信したその時、ヴィザーは不敵な笑みを浮かべてライヴァスを見ていた。
「何……?」
ライヴァスの表情が険しくなる。
「お前が弾いて壁に穴を開けてくれたおかげで、コールが届くようになった」
「どういう事だ……?」
「こういう事だ!」
ヴィザーはすかさず構えを取り、

「ヴィクトリィィィィィッ、フォオォォォォォムッ!!」
と思い切り叫んだ。

―4月12日月曜日午前11時17分―

ここは、VES本部。
「ヴィザーとの通信回復! ヴィクトリーフォーム・コール発動!」
日高の言葉に司令室に安堵の声が聞こえてくる。
「さっきの富士君との通信から33分。一時はどうなることかと思いましたね、長官」
副官である霧山(きりやま)が安心した笑顔で話しかける。
「そうだな」
長官と呼ばれた男、峯島(みねじま)は表情を変えずにうなずいた。
「長官」
「分かっている。ヴィザー、ヴィクトリーフォームを許可する」
ヴィザーに許可を出した。

「ヴィクトリーマシン、スタンバイ!」
三機のマシン―ヴィクトリーマシン―の発進準備が行なわれる。
「グランドヴィクトリー! スカイヴィクトリー! アクアヴィクトリー! ベストコンディション!」
順にトレーラー型マシン、戦闘機型マシン、潜水艦型マシンがそれぞれの発進口にセットされ、
「発進!」
日高の言葉と共に地、空、海を駆けていった。

―4月12日月曜日午前11時31分―

「……来た!」
ライヴァスの開けた穴から、三機のマシンがこちらに向かってきているのがヴィザーの目に飛び込んできた。
「何をするつもりだ……?」
「インタラプトフィールド形成!」
ライヴァスの言葉を無視するかのように、次の段階へと入るヴィザー。

「何をするのかは知らぬが、いずれにせよ放っておけん……」
ライヴァスはヴィザーの使用としている事を阻止しようと腕を伸ばした。しかし、
「む……!?」
突然、ライヴァスの腕に電流にも似た衝撃が走った。
よく見るとヴィザーの周りを、ヴィクトリーマシンが囲むように周りを回っている。そのヴィザーを含む四機が互いにエネルギーを発生させ、特殊な磁場を生んでいる。
この磁場が、ライヴァスの攻撃を阻止しているのだ。

ヴィクトリーマシンが変形を始める。
グランドヴィクトリーの機体が縦に持ち上がり、機体前部が折れ曲がった。
グランドヴィクトリーの左右にあるパネルが開き、上に回転して翼を形成する。
機体後部が下に伸び、つま先が立って足を形成する。
次に、スカイヴィクトリー及びアクアヴィクトリーが変形する。
スカイヴィクトリーの機体後部が持ち上がり、その部分は肩を形成する。
機首が折りたたまれると、下腕を形成した。
アクアヴィクトリーの機体後部が分離し、尾翼が折りたたまれて同じように持ち上がり、その部分が肩を形成した。
そして、機体後部が前へと回転し、機首が折りたたまれ同じように下腕を形成する。
ヴィクトリーマシン三機はヴィザーの前で集結する。
グランドヴィクトリーは胸部から脚部及び翼、スカイヴィクトリーは右腕、アクアヴィクトリーは左腕となって。
そして、グランドヴィクトリーは胸部となる部分が欠損していた。
「はあっ!」
その時、ヴィザーが飛び上がり、ブロック状の形態となってグランドヴィクトリーに結合する。
それと同時にスカイヴィクトリーとアクアヴィクトリーはグランドヴィクトリーと結合し、拳を出現させた。
最後に、アクアヴィクトリーの後部を形成していたパーツは兜となり、ヴィザーの頭と結合する。
そして、フェイスマスクがヴィザーの顔をおおうと、ヴィザーの目に再び光がともり、
「ヴィッ!! ザリッ!! オォォォォォンン!!!」
ヴィザーはヴィザリオンと名乗り、大きく構えを取った。

青を主調とした機体やVの字を描いたような翼が、外から入ってくる太陽の光で輝いている。
今、ここに勝利の名を持つ勇者が神と対峙した。

「……進化……? いや、装甲の強化か……」
「待たせたな、ライヴァス」
ヴィザリオンが自信に溢れた目で見据えながら口を開く。
「だが、いくら装甲を強化した所で、この我を倒すことなど……」
「それはどうかな?」
「何……?」
「行くぞっ!」
そう言ってヴィザリオンはライヴァスに向かって駆け出し、左の拳を構えると左腕がエネルギーに包まれた。
「エナジィィィィッ、インパクトォッ!!」
その左の拳を、ヴィザリオンはライヴァスに向かって思い切り叩き込んだ。
「むん……!」
ライヴァスはそれを先程と同様腕で受け止めようとする。
「ぐぅ……!?」
だが、その腕を弾かれてヴィザリオンの攻撃がはじめて顔面に入った。
「な……何だと……?」
本来なら当たるはずのない攻撃が自分に当たった。その事にライヴァスは大きな衝撃を受けた。
「もう一発!」
間髪いれず、ヴィザリオンが第二撃を放つ。
「くっ……!」
ライヴァスは再び腕で受け止めた。
今度は弾かれなかったものの、力をほんのわずかでも緩めたら次もまた受けてしまう。
「くぅっ……!」
そして、ヴィザリオンもまた似た気持ちを抱いていた。
この攻撃を与える事が出来れば、向こうはかなりのダメージを負うだろう。そうすれば戦況は有利になる。
だから何としてでも、この一撃は入れたい。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
その思いを込め、ヴィザリオンは左拳に力を入れた。
「ぐはぁっ!?」
結果、ヴィザリオンの第二撃もライヴァスに入り、ライヴァスは後ろによろめく事となった。
「ぐ……!」
怒りのまなざしを向けるライヴァス。
「人は、その可能性を内に秘めている。その可能性を断とうとする奴は、例え神だろうとこの俺が倒す!」
ヴィザリオンは、そんなライヴァスに対して自分の思いを言葉にしてぶつけた。全ての人類が抱く思いを込めて。
「フ……フフ……」
しかし、ライヴァスはそんなヴィザリオンの言葉を否定するかのように笑い出した。
「? 何がおかしい?」
「可能性だと? 人間はとうの昔に自らその可能性を断っているではないか。何を今更……フフ……」
「……それ以上の言葉は、つむがせない!」
ライヴァスの言葉に怒りを覚え、再び構えなおすヴィザリオン。
「来い!」
「ウイング、スラァァッシュ!!」
今度は右腕をライヴァスに向かって突き出すと、右腕に装備された翼が展開し、エネルギーの刃を形成した。
「おぉぉおぉおっ!!」
ヴィザリオンはそのエネルギーの刃を振りかざし、ライヴァスに向かって三度目の突撃を行う。
「愚かなる者に、断罪の刃を……!」
その時、ライヴァスが右腕を上に振りかざした。すると、虚空から光で形成された一振りの剣が現れた。
「ふん……!」
ライヴァスはその剣を手に取り、ヴィザリオンに向かって思い切り振り下ろす。
互いの刃がぶつかり合った。
双方とも己の攻撃を跳ね返されることなく、競り合っている。
「はぁぁっ!!」
そこに、ヴィザリオンがエネルギーを纏った左拳を突き出してきた。
「甘い……!」
「何っ!?」
だが、その瞬間ライヴァスの剣がヴィザリオンの刃を弾き、ヴィザリオンのバランスを崩させる。
「はっ……!」
「ぐあぁぁぁっ!!」
同時に、ヴィザリオンに激しい衝撃が襲ってきた。ライヴァスの剣がヴィザリオンに攻撃を行ったのだ。
「ぐっ……!」
地面に叩きつけられるヴィザリオン。
「所詮、人の力など神の前では微々たるもの。最初から刃向かう事自体が間違っていたのだ……!」
ライヴァスはそう言いながら攻撃を続ける。
「がはぁぁっ!?」
倒れたままヴィザリオンは後方に吹き飛んだ。
倒れているヴィザリオンの脇腹横に剣を突き立てるライヴァス。
「くっ……」
「このまま、地獄へと堕ちるがいい……!」
そしてゆっくりと剣を振り上げ、直後に勢いよく剣を振り下ろした!
「っ!!」

「……無駄なあがきを……」
「まだ……諦めてはいないからな……!」
ライヴァスの剣を、ヴィザリオンは先程の競り合いのように右腕のエネルギーの刃で受け止めた。自分の体に切っ先が入ろうとしたまさに寸前で。
「はっ!」
ライヴァスの剣を弾き、ヴィザリオンはすぐさま起き上がって体勢を整えた。
「いくら策を講じようとも、我には通用しない……」
「だったら……真正面から、この拳をぶつけるのみ!」
ヴィザリオンは左の拳を前に突き出し、ぐっと思い切り握る。
「ならば、私も真正面から受けて立とう……!」
それに対して、剣を構えるライヴァス。
「俺は……絶対に負けない! 全ての人のためにも!」

「左腕部エネルギー出力最大! ブースターチャージ!」
「はぁぁぁぁぁ……!!」
互いにエネルギーを溜めるヴィザリオンとライヴァス。
次の一撃が、おそらく決着をつけるだろう。そうなると、生半可な攻撃ではたやすく相手に負かされてしまう。ならば、この一撃に自分の全力を込めなければならない。
ヴィザリオンは人々を守るため、救うために。
ライヴァスは己の目的のために。
「受けよ……我が裁きを!!」
先に攻撃を放ったのは、ライヴァスだった。
雷にも似た閃光が、獲物を捕らえようとする獣のように、ヴィザリオンに向かって真っ直ぐに襲ってくる!
「はあぁぁっ!!」
それに対し、ヴィザリオンは閃光に向かって左の拳を突き出した。
激しい爆発音と共に、辺りが閃光と爆発によって生じた煙に包まれる。
「………………」
言葉にはしなかったが、ライヴァスは自分の勝利を確信した。相手は攻撃する事も無く、自分の攻撃によってこの世から消え去った。そう信じて疑わなかった。
だが、
「……何だと……!?」
ヴィザリオンは、多少ダメージを受けているものの、左拳を突き出したままの姿勢でそこに立っていた。
「全てを……この拳に!!」
次の瞬間、ヴィザリオンはライヴァスに向かって高速で地面を滑空する。
「おおぉぉぉぉぉぉっ!!」
「むん……!」
ヴィザリオンの攻撃を、剣で受け止めようとするライヴァス。
「ヴィクトリィィィィィッ!!」
「!!」
「フィニィィィィィッシュゥッ!!!」
「なっ……!?」
しかし、ライヴァスの剣はいとも簡単に折られ、
「ぐうぅぅっ!!?」
ライヴァスの体に、ヴィザリオンの左拳が突き入れられた!!
「俺の……勝利だ!」

「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ライヴァスは思い切り悲鳴を上げ、光となって消滅した。
「………………」
その姿を黙ったまま見つめるヴィザリオン。
戦いを終えた事による安堵の気持ちと、戦いによる疲労と、様々な思いが駆けめぐっている。
これで戦いは終わった。世界も、自分も、平穏な生活が送れるだろう。
『終わったな、ヴィザリオン』
そこに、富士からの通信が入ってくる。富士の言葉もまた、安堵の気持ちがこもっていた。
『お疲れさま、と言うのも変かな? でも、お疲れ……』
『帰ってきたら英雄ね、ヴィザリオン』
続いて霧山、日高からも祝福の通信が入る。
『……早く、戻って来い』
ただ一人、峯島からの通信は他のメンバーに比べてそっけないものであった。しかし、これが峯島なりの祝福なのだ。
「了解」
ヴィザリオンも、それに対してただ一言だけ返した。それでも、互いに自分の思いは伝わっていると、分かっているから。
ヴィザリオンは後ろに振り返り、地球に帰還しようとした。
「ライヴァス様……」
「!?」
その時、先程までライヴァスのいた場所から声が聞こえてきた。驚いたヴィザリオンは後ろを振り返った。
「なっ……!?」
眼に飛び込んできたのは、三人の人のような存在。
だが、人とは違う。宙に浮いてる上に、一人は竜のような顔を持っている。
そして、よく見るとその三人が光の玉のような物の周りを囲んでいた。
「ライヴァス様……何と悲愴な姿に……」
「我々がこの星から離れていた時に、まさかこうなってしまうとは……!」
「あと少し、あと少しでも早く戻ってきていれば……」
どうやら、光の玉はライヴァスらしい。
「お前達は……何者だ……!?」
ヴィザリオンは身構えながら、三人に質問を投げかけた。
「……貴様が、ライヴァス様をこのような目に……!?」
だが、三人はその質問に答えず、逆に質問を返した。
「だとしたら、どうだと……?」
構えたまま、向こう側の質問に答えるヴィザリオン。
「……我々は、神に仕えし者」
「神であるライヴァス様の側近」
「名は、神の三天衆」
すると、神の三天衆と名乗った三人は最初のヴィザリオンの質問に答えた。
「何だと……!?」
「……本来ならば、この時点で貴様はもっとも重大な罪を犯した事になり、ライヴァス様に代わって裁きを与えなければならない」
魔道士のような姿をした者が、脅しにも似た言葉をヴィザリオンにかける。ヴィザリオンはより感覚を研ぎ澄ませて構える。
「だが、今はライヴァス様の容態も悪く、我々も別件の関係で疲労している」
「よって、この事に関しては一時保留としておく」
しかし、残りの二人の言葉を聞いてヴィザリオンはわずかに安心の心を抱いた。
「それまでに己達の罪を認め、悔い改めよ」
「もしそれが出来なければ、再び戦いが起こる」
「………………」
神の三天衆の言葉を、黙ったまま聞くヴィザリオン。
「分かったか?」
「……俺達の罪とは、何なんだ?」
三人の言葉が全て終わると同時に、ヴィザリオンはまた質問をかけた。この戦いの始まりから、ずっと謎のままであったものを。
「それは、自分達で見つける事だ」
「貴様は、ここから立ち去るがいい」
カッ!!
「くっ……!?」
しかし、神の三天衆はその質問に答えず、ヴィザリオンは突然光に包まれた。

―4月13日火曜日午前4時27分―

「……ん……?」
「気がついた?」
横から聞こえてくる、よく聞きなれた女性の声。
ゆっくり目をあけると、まず見えたのは白い天井と灯りだった。
「あれから16時間、ずっと眠ったままだったのよ」
声がする方を振り向くと、そこには日高の姿があった。
「……記憶が途切れてる」
勝は、疲れたような声で答えた。
「それじゃ、説明しようか?」
「お願いします……」
日高は小さく笑うと、戦いの後どうなったかを話してくれた。

話によると、あの後ヴィザリオンは空から太平洋に向かってまっすぐに落ちたらしい。すぐに引き上げられたが、コクピットにいた勝は気絶しており、急いで医務室に運ばれたという。
それから約16時間、勝は死んだようにずっと眠り続け、そして今に至る…

「でも、命に別状が無くてよかったわね」
「………………」
「……どうする?」
「え……?」
日高の言葉に秘められた意味が分からず、頭に疑問符を浮かべる勝。
「本当は昨日の戦いの事、報告してもらわないといけないけど……」
「なら、今すぐにでも……」
「でも、今日学校があるんじゃない?」
言われて勝は思い出した。
昨日の戦いですっかり忘れていたが、昨日始業式があったばかりだ。当然、平日である今日は学校がある。
「……すみません」
「その代わり、明日きちんと報告するように。分かった?」
「はい」
勝はそう返事すると同時に立ち上がり、日高に一礼してから医務室を出た。

―4月13日火曜日午前7時51分―

昨日も歩いた通学路を、勝はゆっくりと歩いていた。
花が咲き乱れ、鳥達のさえずりが聞こえる。昨日の戦いが、まるで嘘みたいなのどかな風景に、勝は嬉しささえ感じていた。
自分は、この平和を一時的にでも守る事が出来た。その事が、ようやく実感できるようになって来た。
「おはよう、勝くん」
「ああ、おはよう」
そこに聞こえてきた、昨日知り合ったばかりの少女の挨拶。勝は笑顔で答えた。
「フフッ……」
何故か少女は、粋は小さく笑う。
「どうしたんだ?」
「ごめんね……でも、嬉しいの」
「?」
粋の言っていることが分からず、勝は首をかしげた。
「昨日、あんな事があったのに、こうして普通に挨拶できるのが……」
「そうか……確かに、そうだな」
ごく普通に挨拶を交わす、それが出来る事が嬉しい。その気持ちは、勝の中にもあった。
「おはよ、勝」
「おはよう、勝君」
「おはよう、勝」
その時、再び挨拶の声が聞こえてきた。振り向くと、そこには菜摘、賢、灯矢がいた。
「おはよう」
三人に向かって、勝は再び笑顔で答える。

自分には、大切な友がいる。守りたいと思える人がいる。例えまた戦いが始まっても、強くあり続けられるだろう。
だけど、今はもう少しだけ、この平和を――

To be continued…

初回公開日:2003年4月1日

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